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0❥紅色天賦
紅色天賦④
しおりを挟む運否天賦を文字って、紅色天賦。
総長の髪が真っ赤に染められている事から、その名が付いたらしい。
運任せではなく、総長の采配と力量によって族を大きくしていく…そういう意味だ!と、初対面の聖南に向かって声高に語っていた彼は、聖南より八つも歳上である。
目線の定まらない様子から、何か危ないものを摂取しているのではと族内の誰もが疑っていたが、それさえ粋だと容認される曲がった小さな世界。
光太によると、はっきりと確認した事はないが「紅色天賦」の名を語る仲間がこの辺一体に百名は居ると話していた。
それが多いのか少ないのか聖南には分からなかったが、会いに来ただけのつもりが勝手に仲間入りさせられて早一ヶ月。
連絡手段のない聖南の元へ、総長のパシリである光太が喧嘩の局面には必ず公園にやって来る。
頑として特攻服を着なかった聖南は、いつも上下がチグハグなスウェットを着用していた。
それでも総長から何のお咎めも無かったのは、聖南の腕っぷしがあまりにも強く、相手を沈める最中は総長以上に据わった目をしていたからだ。
敵だと教えられた相手を片っ端から地面に転がしていき、少しずつ覚えていった関節技。
はじめは加減が分からず、相手が激痛に絶叫するまでキメてしまい、三度ほど失敗してしまった。
暴行よりも早く決着のつくそれが一番気に入って、かつ得意とした聖南の瞳はくすんだままではあったが、怨念に生かされていると喧嘩をしている時が一番ストレス発散になって楽しい。
体を動かしていると、忘れていられる。
孤独である事も、恨みに突き動かされているおぞましい自分の存在も、これからどうなるのだろうという底無しの不安も、考えないでいられる。
おまけにたっぷり体を動かすと懐かしの睡魔がきて、いつまで経っても眠気のこなかった日々よりも、泥のように眠れて空腹を感じる今の方が良い事が多い。
紅色天賦の族員になるつもりも、仲間達と仲良くする気もさらさらなかったけれど、聖南は夜毎暴れる生活にとてもあっさりと馴染んでいった。
「聖南ー! 南区の連中来たぞー!」
「……おぅ、早かったな」
その日の深夜も、滑り台の主と化して夜空をぼんやり見上げていた聖南の元へ、光太が改造バイクで爆音を鳴らしながらやって来た。
聖南はヘルメットも被らず光太の背後に回り、三段シートにもたれ掛かる。
走行中うるさいのが玉にキズだが、乗り心地はかなりいい。
バイクより車派の聖南自身は、こんなにやかましい乗り物は欲しいとは思わないけれど。
「お前さぁ、いい加減スマホ持てよ。 いちいち迎えに来なきゃなんねぇの超めんどい」
「俺まだ十四しゃいだから原付も乗れないんでしゅ。 ざんねんだなぁぁ」
「顔に似合わねぇ喋り方するな。 てか無免で乗りゃいいじゃん! 俺ので練習してもいいぞ?」
「んな事はしねぇ。 パクられたら色々都合悪りぃから」
「パクられんの気にしてんのか、ガキだな。 こんだけ毎日暴れてたらいつかその日は来るぜ」
「………確かに」
ここのところ、聖南の噂を聞き付けてあらゆる暴走族が「遊び」に来ていて、毎日大変なのだ。
金髪でやたらと顔のいい長身の男を出せと、あえて聖南の名前は出さずに総長の元に乗り込んでくる輩を、仲間達と共に一時間とかからず全滅させる。
その様子をゲラゲラ笑いながら傍観している総長は、すっかり聖南の事がお気に入りであった。
「おぉ、今日の奴等は武器持ちか」
光太と到着すると、すでに相手方全員が木刀を持って紅色天賦の溜まり場に殴り込んで来ていた。
薄暗い森の入り口にある、心霊スポットのような廃墟ビルに不良らが何十人も集まっている光景を目の当たりにすると、これはヤンキードラマの撮影かと笑えてくるほど非現実的だ。
聖南はフッと鼻で笑い、バイクを降りた。
ゆらりと現れた長身の影に、一斉に視線が集まる。
「っ来たぞーーーーッッ!」
誰かの雄叫びと同時に、聖南めがけておよそ三十名ほどが一気に群がってきた。
不意討ちだったため、こちらは相手方の半数しか居ない状況にも関わらず、聖南が到着した瞬間から紅色天賦の勝利は確定した。
族員らも加勢してくれながら、一つの傷も負わずに次々と倒していく聖南の身のこなしは見事としか言いようが無く、赤い髪を揺らす総長の笑いが止まらない。
「あはははは…っ! てめぇらやっちまえー!」
言われなくても、と据わった目で最後の一人に馬のりになった聖南は、右腕を捻り上げて笑った。
「い…っ、痛え…!」
「お前ごときが俺に勝てると思ってんの?」
「うるっ、うるせぇ! んのやろ…っ!」
「腕キメただけじゃダメか。 それなら…目潰ししていい? お前のその目、嫌い」
思いっきり頭突きを食らわせ、そのせいで白目を向いた相手の青年の目が気持ち悪くて嫌いだった。
「なぁ、なんか刺すのない? ニードルかアイスピック。 ……あぁ、サンキュ。 何だっけ、これ。 授業で見た気がする」
「やっ…やめろ、やめろ…っうわぁぁぁっ!」
聖南の記憶にも新しい、仲間が寄越したそれは彫刻刀である。
出来れば二本あると一度で済んだのだが、鋭利なものがこれしか無いのなら仕方がない。
心許ないほど細い彫刻刀をギュッと握り、振りかぶった聖南の腕が振り下ろされる事は無かった。
なぜなら───。
「おい金髪! やり過ぎだ! 抑えろ!」
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