僕らのプライオリティ

須藤慎弥

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後日猥談

─初夜─2

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「うーん……。そう言ってくださるのは嬉しいんですが、そんなにガチガチだと触れるのを躊躇います。……別のリラックス方法を考えましょう。ひとまず俺はこれを脱ぎます。一人で歯医者さんごっこはツラいものがありま……」
「ダメ!! それは脱がないで!」


 急いで布団から顔だけ出した僕は、りっくんと目が合ってまた「ピャッ」と鳴いてしまった。

 とてもじゃないけど直視出来なくて、李一先生から逃れるようにバフっと布団をかぶり直す。

 僕は、この姿のりっくんを独り占めしたいんだ。いま白衣を脱がれちゃ困る。

 りっくんが常日頃から言ってるワガママを通したいんだよ。……どうしても。

 だけど見られない……!

 りっくんの見た目がハイスペ過ぎて心臓が痛い……!


「ですが冬季くん。ずっとそうやってみのむしになっているわけにはいかないじゃないですか」
「だってかっこいいんだもん! りっくんがかっこいいのが悪いと思う! 緊張するのは僕のせいじゃない!」
「……相変わらず可愛い人ですね、君は」
「へっ? あっ……わわわわ……っ!」


 りっくんは「ふふっ」と笑いながら、籠城してる布団ごと僕の体を軽々と横抱きにした。そしてそのままベッドに腰掛けて、布団に包まった僕を膝に乗せる。

 ちょっとこれ……おくるみに包まれた赤ちゃんみたいで別の意味で恥ずかしいんだけど……。


「冬季くん。俺は今日まで、精一杯の我慢をしたつもりです」


 目元を細めたりっくんが、僕にそう言って笑いかけてくる。

 「精一杯の我慢?」と、とぼけて首を傾げた僕を目尻を下げて見てくるけど、急に声色が変わったところを見るとおそらくマスクの下の口角は上がってない。

 器用に、目元だけ笑ってるってこと。

 マスクをしていたら感情を表す表情が分かりにくいから、出来るだけ目尻を下げて笑うよう心がけてほしいと、りっくんは僕にそう指導した。

 好きで歯医者に来ている人は居ない。どんなにへっちゃらなフリをしていても、そういう人に限って緊張を隠してるだけ。たとえそうじゃないとしても、患者さんみんなに安心感を持ってもらえるように、これだけは何よりも先に上手になってねって。

 だからりっくんも、スタッフさんも、マスクをしてるのに笑顔がうまい。


「冬季くんが、開発はどうしても自分でしたいと言うから、俺は涙を呑んで我慢していたんです。君がバスルームにこもっている間、俺がどれだけ……どれだけ覗きたくてたまらなかったか……っ」
「えっ、覗きたかったの!?」
「そうですよ! 見せてくれないから妄想は膨らむばかりですし、未だに触らせてもくれないので君のアナルがどんな感触なのかも俺は知らないままです! 今日の日をどれほど待ち望んでいたか、君には分からないでしょ!」
「うっ……」


 耳が痛いことを言われてしまった僕は、苦い顔をしてりっくんから顔を背ける。

 僕のお尻開発を張り切ってたりっくんには悪いけど、誰にも許したことのない恥部を見られるのがどうしても恥ずかしかったんだ。

 女の人との経験しかないりっくんが、煩わしい、めんどくさいと思わないかも不安だった。

 エッチする前は必ずナカを洗わなきゃならないし、勝手に濡れもしないからローションでたっぷり潤して解す必要もある。

 もちろん僕は、アナルセックスに興味はあった。いつかしてみたいとも思ってた。

 でもいざとなると怖くて出来なくて、結局自分の短い指でいじるだけに終わってる。

 素股でさえ荒々しかった元カレ達には、アナルが裂けるかもしれない恐怖を抱えたまま許す勇気も無かった。


「冬季くん……お願いですから、俺に触らせてください……」
「りっくん……」


 僕がお風呂場で慣らしてるところを覗きたかったと言うりっくんは、やる気満々だったアナル開発を僕に取られて毎日拗ねていた。

 『そんなに言うなら二週間待ちます。それが限界です』なんてことを大真面目に言ってたからには、僕がどんなに緊張してようと今日の予定はきっと変わらない。変更不可だ。

 布団越しにも分かるくらい、りっくんのモノが固くなってる。〝限界です〟を体現されちゃってる以上、このままワガママを通すわけにもいかない。


「……分かった。めちゃめちゃ恥ずかしいけど覚悟はしてるんだ、僕だって」
「冬季くん……!!」


 一瞬、りっくんの目尻が喜びを表すようにきゅっと上がった。それからふにゃっと柔らかく微笑んで、僕の体を抱きしめる。

 見た目に反し子どもっぽい趣味が出来たりっくんは、年下の僕にも関係なく自分をさらけ出してくれる。

 りっくんが自分を偽ってちゃ、僕が甘えられないだろうってそこまで考えてくれてるんだ。




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