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後日猥談
─初夜─1
しおりを挟む◇ ◇ ◇
りっくんと付き合って一ヶ月。
助手さんの仕事はまだ奮闘中だけど、ほぼ毎日出勤してるおかげで少しずつ〝歯医者さん〟の雰囲気は掴めてきた。
りっくんの人望なのか、働いてるスタッフさんも患者さんもとっても優しくていい人ばかり。覚えることの多い仕事だけど、りっくんが言ってた通り「一度覚えてしまえばそうそう忘れない」。
はじめは歯を削る機械(タービン)の音が苦手でいちいちビクついてたのに、毎日聞いてると不思議なもんで耳が慣れてくる。
器具を滅菌する機械(オートクレーブ)の扱いにも慣れて、僕の待機場である滅菌室にある物の位置はほぼ覚えてしまった。
ひっきりなしに次から次へと来院する患者の治療中、僕はそこからりっくんと衛生士さんの仕事ぶりを見ている。
知らなかったけど、りっくんは治療中長めの前髪を上でまとめてピンで止め、おでこを出してるんだ。万が一患者さんの顔に髪がかからないようにっていう、気遣いなんだと思う。
それがまたカッコイイのなんの。
年齢よりかなり若く見えるりっくんは、初診の患者さんから研修生と間違えられるくらいだ。
実は、歯科大卒業後は大きな歯科医院で勤務医として三年務めて、その後〝成宮歯科クリニック〟を開いた……なんて事も、僕は患者さんとりっくんとの会話を盗み聞いて初めて知った。
〝李一先生〟と慕われてるりっくんはとてつもなく、思わず目で追ってはため息を吐いてしまうほどにカッコイイ。
僕にそういう癖なんかなかったはずなのに、りっくんが白衣を着てるとドキドキしちゃって、この姿を独り占め出来たらいいのになぁって……不埒なことを思ったのはホントなんだけど──。
「あっ……待ってりっくん、ちょっと待って! 心の準備させて!」
院内に居る時みたいに前髪をピンで止めて、ゴム手袋とマスクを装着した〝李一先生〟が寝室に入ってきた瞬間、僕は「ピャッ」と鳴いて布団の中に籠城した。
だって、まさかこんなに本格的に叶えてくれるとは思わなかったんだもん……!
「可愛いですね。恥ずかしいんですか?」
「当たり前だよ! なんでりっくんはそんなに落ち着いてるのっ?」
「さぁ、どうしてでしょうか。冬季くんの要望でフル装備だからですかね? やはり白衣を着ると身も心も引き締まります」
「…………っ」
そう。りっくんは、僕が何気なく言った要望を全力で叶えてくれている。
出来ればお家で歯医者さんの格好してほしいなぁ。僕こう見えてものすごく緊張してるから、りっくんが歯医者さんスタイルだったらそれが和らぐかもしれないなぁ。っていうか純粋に、りっくんが白衣着てる姿がドストライク過ぎるから独り占めしてみたいなぁ。
帰ってきたりっくんをお出迎えした時、抱きついて甘えながらそんな事をぼやいた僕を、りっくんは「それは俺に対するお願いですか?」ってニコニコしながら聞いてきたんだ。
だから僕は、すごーーく迷ったけど頷いた。
叶えてくれたら嬉しいな、くらいの気持ちだったんだけど、こんなに〝フル装備〟で現れるなんて思わないじゃん……!
「緊張するから、まずは歯医者さんごっこをしたいと言ったのは君ですよ、冬季くん」
「そうだけど! でもりっくんは〝ごっこ〟じゃないんだもん! うぅっ、かっこいいよぉ……っ」
「…………」
今夜ついに、ついに、僕たちにとっての初体験が予定されている。それはりっくんの謎の計画表に基づいていて、日にちをずらす事は出来ないらしい。
僕が緊張してるのはそのせいだ。
毎晩ブラッシングをしてくれるりっくんだから、イチャイチャする前に〝歯医者さんごっこ〟で気持ちを緩和させられたらって浅はかな提案をしたのは、他でもない僕。
布団を一枚挟んでいても、楽しそうに微笑んでるのが声色で分かるから、僕が籠城しててもりっくんは怒ってはいないと思う。
ただ、そうは言っても、布団の中で丸まってドキドキうるさい心臓を何とか鎮めようとしても無駄だ。今布団から出ちゃったら、目元を細めた李一先生の姿を見なきゃいけないでしょ。
診察室に入って来た患者さんに、「こんにちは」って声を掛けてる時の優しい目元がすぐそこにあるんでしょ。
そんなのもっと緊張しちゃうよ……!
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