僕らのプライオリティ

須藤慎弥

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9.俺は

・・・2

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 振り返るとそこには、俺の手のひらくらいのメモ紙が不自然に落ちている。

 それには、びっしりと小さな文字で何かが書かれており、よくよく見てみると──〝りっくんへ〟とあった。


「冬季くんが書いたものか……!」


 俺のことを〝りっくん〟と気安く可愛く呼ぶのは、冬季くんしか居ない。さらに、たった今探しに向かおうとしたその人からの置き手紙だ。

 立ち止まって目を凝らす。

 何か事情があって外出しているだけだという、わずかな光明が差した。……が、それにはそんなことは一つも書かれていなかった。


〝りっくんは、ほこれるお仕事についてる。自信を持ってほしい〟ということ。


〝お父さんの重圧に負けないでほしい〟ということ。


〝お母さんのことも、恨まないであげてほしい〟ということ。


〝何があっても、もう、死にたいなんて考えないでほしい〟ということ。


〝もしも心がぺしゃんこになってしまう出来事があっても、〝もう少しがんばってみよう〟に頭を切りかえてほしい〟ということ。



「……いやだ……! いやですよ、冬季くん……! 君がいなくては……俺はもう……っ」



〝りっくんが僕を生かしてくれて、あったかい気持ちをたくさんくれたことに、感謝してもしきれない思いでいる〟こと。


〝生きていれば何とかなると教えてくれたのは、りっくんだ〟ということ。



「なっ……何を言ってるの……っ? 生かされたのは俺の方だと何度言えば……!」



〝りっくん。たくさん優しくしてくれてありがとう。
 傷だらけで汚い僕に構ってくれてありがとう。
 心が洗われるような壮大でキレイな夕陽を見せてくれてありがとう。
 毎日美味しいごはんをおなかいっぱい食べさせてくれてありがとう。
 フカフカで、せいけつで、すぐにぬくもる広いベッドを使わせてくれてありがとう。
 ワガママに付き合ってくれてありがとう。
 少しきゅうくつで重たいけど、僕にはとってもうれしい愛情をくれてありがとう〟


〝出会ってくれて、ありがとう〟


〝ふゆきくんより〟



「…………っ」


 ひらがなで書かれた彼の愛おしい字に、俺の目からは堰を切ったように大粒の涙が溢れて止まらなかった。





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