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5.運命のいたずらで
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しおりを挟む─ 冬季 ─
ネットでたまたま見ちゃった画像を出して、「これどんな味なの?」とりっくんに聞いたところから、今日のお昼がインドカレーに決まった。
日本でよく見るカレーと違って、本場のスパイスがたっぷり入ったルーは粘度が高くてコクも凄いんだって。そのルーに、パンみたいなナンってやつを浸して食べるらしい……けど、画像と説明文を読んでも僕には謎だらけだった。
ちなみに僕は、食べたいとは言ってない。
でもりっくんが、僕が初めて要求らしい要求をしてくれたと嬉しそうで、その笑顔を見てたらそんなことどうでもよくなった。
僕は少し前から、ちょっとおかしくなったんだ。
あんなにたくさんお酒を買い込んでるわりに、缶ビール三本で真っ赤になって甘えてきて、最終的には僕の膝枕で寝落ちたりっくんを可愛いと思ってしまった。
だって昔の人たちは、僕が引くほど飲んでたよ。浴びるように、って枕詞が相応しいくらい飲みまくって、しまいには泥酔して僕にウザ絡みしてた。
りっくんみたいに深い理由があって飲んでるようには見えなかったから、今思えばみんな、意味もなく路上で寝ちゃうまで飲むなんてただただダサイ。
最近よく思うんだ。
僕、なんであんな人たちに依存してたんだろって。
特別優しいわけでも、恋人として接してくれるわけでもなく、結局はセックス目的で僕を拾った人ばっか。
僕とヤれないのが分かったら、すぐに興味を失くして朝帰り。どんな思いで僕がお家で待ってたかなんて考えもしないで、平然と帰ってきたかと思えば血だらけの手首を冷めた目で見る。
ODするために飲んだ、キマると噂の薬の空瓶を見ても冷たい目は変わらず、「ちゃんとトイレで吐いた?」としか言われない。
その度に僕は、悲劇のヒロインのような心境で相手に詰め寄っていた。
なんでそんなことしか言えないの?
僕のこと心配じゃないの?
裏切るくらいならどうして僕を拾ったんだよ。
僕は、少しでいいから愛されたかっただけなのに……!
その〝少し〟がいつの間にか依存レベルに変わってることも知らないで、元々汚い自分の体を躊躇なく傷付け続けていた。
「──あはは……っ、冬季くん。口の周りがカレーだらけですよ」
「えっ」
向かいに座るりっくんが、クスクス笑って紙ナプキンを手渡してくれる。運転中とは打って変わってご機嫌な笑顔にホッとしつつ、小さい子みたいな指摘をされて恥ずかしくなった。
内装、装飾品、店員さんまでも全部がアジアンテイストな店内で食べる本場のカレーは、確かに会話を忘れさせるくらい美味しかった。
だからって、りっくんに笑われちゃうほどだなんて……。
紙ナプキンを受け取って唇の周りを拭ってみると、ほんとにカレーがべったり付いてるし。
僕と一緒にいることでりっくんが恥ずかしい思いをしないように、二人で出掛けるときは〝普通の人〟を心がけてるつもりなのに失敗した。
夢中で食べちゃってたもんな、僕……。
「冬季くん、ここにも付いてます」
「え? あ、ちょっ……!」
身を乗り出したりっくんが、濡らした紙ナプキンで僕の左のほっぺたをサッと拭いてくれた。
そんなところにまで!? とギョッとした僕に、りっくんはニコッと笑って何事もなかったように水を飲んでいる。
自分では見えない場所だし、そのまま帰るわけにもいかないからそうする気持ちも分からなくはないんだけど……両隣のテーブルに座るカップルの視線が、僕たちに突き刺さってるのは絶対に気のせいじゃない。
ただでさえりっくんは居るだけで注目を集めちゃうほどのハイスペ男子なのに、満面の笑みで連れの男の世話までしてるんだよ。
相手が僕じゃなく、彼女や奥さんだったらまだしも……。
「冬季くん、お持ち帰りしますか?」
「へっ? お、お持ち帰り?」
りっくんの過剰な世話焼きに肩を竦めて、最後のナンを頬張る。するといきなりこんな提案をされて、思考が止まった。
笑いを堪えきれてないりっくんは、僕を揶揄う気満々の顔をしている。
「ほっぺにまで食べさせるほど美味しかったのなら、お持ち帰りしましょう」
「……りっくん、僕のことイジってるでしょ」
「あはは……っ、そんなことありませんよ。お口に合ったようなので嬉しいんです。幸せそうに食べている冬季くんを見ているだけで、俺も幸せになれました。ありがとうございます」
「…………っ」
こんな……こんなことを、僕相手にも平気で言っちゃうんだもんなぁ……!
聞き耳を立てている両隣のカップルなんか、眼中に無い。両方の彼女が〝私もそんなこと言われてみたい〟って表情でりっくんの横顔を見てることにも、りっくんは一切気付いてない。
スマートな立ち振る舞いで会計に向かうりっくんの一歩後ろで、僕はふと思った。
りっくんの歴代の彼女たちは、いったい何が不満でりっくんをフッたんだろう。りっくんのハートを射止めた奥さんもそうだ。
どんな理由があるにせよ、ハイスペ男子に「飲みたい気分」なんて言わせるなんて、すごーくどうかと思うよ。僕は。
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