2 / 126
1.「死ね」と言われて
・・・1
しおりを挟む痛くても、熱くても、ツラくて逃げ出したくても、誰にも助けてもらえなくても、僕が我慢してれば何にもなかった事になる。
未成年の言葉なんか誰も信じちゃくれない。
腕、腹、背中、太もも、ふくらはぎ……いたるところにある消えない痣は証明してくれているのに、「ママ」と「パパ」から受けた心の傷は目に見えないからって、みんな、それには一切興味が無くて。
いや、違うな。関わると面倒だから放っておくにかぎる、そんな感じだと思う。
実際は美談になんかにならない。手を差し伸べようとする人は、必ず卑しい下心がある。
当時の僕は、誰かに助けてほしかった。
結果的に八歳で児童養護施設に入ることになって、痛いことも常に空腹であることもなくなったけれど、一度大きな穴が空いてしまった心は埋まらずにあれから十年の月日が流れた。
当たり前だったからって、誰も気付いてくれないのは寂しい。誰からも愛されないのは、とっても悲しい。
だから僕は、誰かに期待を持つという事を諦めた。傷付けられる事にも慣れた。
どんな罵声を浴びたって泣かないし、殴られても平気。
たまにかけられる、愛のこもらない言葉だけで生かされる。信じてなんかいないけど、その時だけでも必要とされていたかったから、嬉しいフリをした。
一時の愛情だけでも満足だった。
誰でもいい。そばにいてくれるなら。
僕にはそれだけで充分だって……思っていた。
「──冬季、てめぇウゼェんだよ! わざわざ言わなくても分かるだろ!」
「分かんないよ! 今までどこに行ってたんだよ!」
……けれど少しずつ、いつの間にか僕は、貪欲になってしまっていたんだ。
丸一日連絡がつかなかった彼氏─亮─を待つ間、僕がどんなに不安だったか。何かあったんじゃないかって、どれだけ心配したか。
連絡を待ち焦がれて握っていたスマホは、床に落ちていた。深夜にOD(薬の過剰摂取)してトイレで嘔吐いたあと気を失った僕は、玄関で力尽きていたからだ。
「はぁ、マジウゼェ……」
「ウゼェって……もうすぐ帰るってメッセくれてから二十三時間以上も経ってるんだよ!? 心配して当然だろ! どこで、誰と、何してたの!?」
気絶するように寝落ちて目を覚ましても、まだ亮は帰ってきていなかった。やけに夜が長いと思いきや、僕は十時間そこで寝ていただけだった。
暗闇の中、玄関の扉に背中をつけてジッと待っていると、ようやく帰宅した亮から発せられた第一声が「ウザ……」だ。
そんな言葉は慣れっこだから気にしない。
僕の気に触ったのは、もっと黒い、別のこと。
「女と浮気してたんだな!? そうなんだろ!?」
「だったら何だよ。また「死ぬ」って騒ぐ気か」
「なっ……」
もしかしてと思いつつ打ち消していた事が、派手なナリが定番の亮から香った甘ったるい匂いで発覚してしまっても、そのうえ蔑みの目で見下ろされても、これがたとえ初めてじゃなかったとしても、僕は頑として信じたくなかった。
裏切られて増えてく手首の傷は僕の心そのものだ。
感情が一度堰を切ると、僕自身にさえその止め方が分からない。
行く手を阻んで問い質す僕に、亮は呆れている。それから物凄くキレてもいる。
でも止められない。
僕に向けて言った薄くて甘い言葉に、他の誰かには〝愛を込めた〟なんて信じたくない。
「……っ、ヒドいよ! なんで僕にウソ吐いたの!? 裏切ったのはそっちじゃん! それなのにそんな態度……っ、許せないんだけど!」
「冬季が挿れさせてくんねーからだろ」
「それは……っ」
冷静でいなくちゃと頭では分かっていても、口をついて出るのは責める言葉ばかり。
彼氏とは名ばかりで、この男は一向に僕を見てくれない。
浮気して帰ってきといて、なんで平然としてられるのか僕には理解出来ない。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる