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19〝好き〟の違い
─迅─⑤
しおりを挟む雷は無傷っぽい。
それは良かった。
でもどんな理由であれ、自分の恋人が拉致られたとか……しかもそれが過去に輪姦そうとしたヤツに、とか……そんなの我慢できるヤツ居ねぇだろ?
……少なくとも、俺はムリ。
「んグッ……! グエッ……!」
なんとなく翼に似てるロン毛野郎は、俺が一発を加えるごとに不細工なうめき声を上げた。
何発ぶん殴ったっけ。覚えてねぇや。
抵抗してこねぇから、好きなだけ礼をさせてもらってる。
やってもやっても足んねぇが。
「んんッ! んんん、んんんんッッ!」
「……なんだよ、雷にゃん」
両手が不自由な雷から、ボフッと背中にタックルを受けて我にかえる。
周りが見えなくなってた俺は、ヤシロアツトらしきロン毛野郎を気絶した後も殴って蹴って、見るも無残な姿にしていた。
マジで殺っちまうかもって頭ン中でストップかけてたつもりでも、雷にダブルの恐怖を味わわせた事が許せなくて止まんなかった。
「雷にゃん、離れとけ」
「んんッ……!」
──やり過ぎだって言いてぇんだろ。
口をガムテで塞がれた雷は、必死の形相で俺に〝もうやめろ〟と訴えてきた。
その猫目で少し正気を取り戻す。
なんでやめなきゃなんねぇの。まだ気は済んでねぇぞ……と言いたいのは山々だったが、雷の俺を見る目が怯えきっていて、ひとまず「ふぅ」とひと息吐いた。
「何にもされてねぇか?」
「んッ、んッ」
仕方なく一旦中断し、殴り過ぎて感覚が麻痺してる右手で雷のほっぺたに触れる。
元気に頷いた雷の全身に目をやると、特に服装が乱れてるわけでもなく、いかがわしいコトをされた形跡も無かった。
忌々しいガムテはさておき、顔も綺麗だ。
俺の可愛い雷にゃんだ。
今は多分、俺の方がヒドいツラしてる。
イケメンだって褒めちぎってくれる雷には、こんな血走った目とか返り血浴びたツラは見せたくなかった。
束バッキー先輩が、雷を落として喧嘩の惨状を見せねぇようにしたその意味が、やっと分かった。
「……そっか。それなら良かった……なーんて言うと思ったか! 油断してんじゃねぇよッッ!」
「グフッ……!」
這いつくばって逃げようとしたロン毛野郎をとっ捕まえ、何度やっても威力の衰えない右ストレートを左頬にあてる。
メキッと奇妙な打撃音でまた気絶した野郎は、なかなかしぶとい。
気絶しては起きをこの短時間で四回繰り返している。って、俺が構わずぶん殴るから無理やり起こされてるだけなんだろうけど。
「んんッ! んッ! んんんーッッ!」
「分かった分かった。もうやめる」
「ん、んーーッ!」
背中にもう一回タックルされた。
気が回んなくて、まだ剝がしてやってないガムテと拘束。
自分が一番痛々しい被害者のくせに、ロン毛野郎を庇う神経が俺には分かんねぇ。
でも、俺の雷が〝んーッ!(やめろー!)〟って絶叫してるし、この辺にしといてやるか。
しょうがねぇな、と呟いて、ロン毛野郎の髪を引っ張って起こす。しぶといコイツは、また殴られるかもって恐怖で無意識に目を開き、白目を剥いた。
「おら、目ぇ覚ませ」
「……ッ、……ッ」
「なんで雷を拉致った?」
「…………ッ」
苦しそうに浅く呼吸してるコイツを問い詰めたって、まともな返事なんか返ってこねぇ。
いつもの冷静な俺だったらそれくらい分かんのに、ピリついて殺気立った心はそう簡単に鎮静しない。
雷は無事でした、それならオッケー! ってなるはずねぇんだよ。どっかの短絡的バカとは違うからな。
「なんで拉致ったんだって聞いてんだろッ!」
焦点の合わねぇ野郎を、ギリッと睨みつける。
この俺の恋人を拉致ったわりには、まったくもって手応えが無え。
どういうつもりでここまで来たのか、マジで俺の〝もしも〟が当たってんのか、そこだけはハッキリさせときたかった。
これだけ激しく体に痛みを覚えさせたって、回復したらまた当たり前に雷を欲しがるかもしんねぇだろ。
男は大概、チン○で動く生き物だからだ。
「……き、……だ……た……ッ」
「あぁ? 聞こえねぇな。言うほど顔は殴ってねぇんだが? シャキッと喋れよ、クソ野郎」
睨み続けると、ようやく口を開いたはいいが全然聞こえなかった。とはいえ、言うほど、とは言ったものの野郎の顔面は原型を留めてねぇ。
殴ってる最中に〝ヤシロアツト〟かの確認は取ったから、コイツが元凶に違いねぇんだ。
口ン中切れまくってて喋りにくいとかそんなのいいから、ワケを話せ。俺は今過去最高に短気なんだぞ。
「なんて?」
「……す、……ッ……った、……!」
「あ? 何言ってんの? マジで分かんねぇんだけど」
「好きだった、……ッ! 水上、……こと、……好きだっ……た……!」
「…………は?」
……は?
……何? ……コイツなんて言った?
〝好きだった〟?
〝水上のこと好きだった〟って……そう言った?
「…………は?」
我ながら素っ頓狂な声が出たと思う。
殴られ過ぎてバグったとしか思えねぇ発言に、俺は言葉を失った。
だがロン毛野郎は、まだ口走っていた。というより、俺の殺気が消えたのを察知したのか、やけに饒舌に時々咳込みながらベラベラ語り出した。
「水上のことが……す、……好き、だったんだ……ッ! 忘れ、られなくて……ッ!」
「…………」
「こっちで、男と……付き合ってるって、噂で聞いて……ッ! マジで、腹立って……! 男イケんなら、俺でも……ッ、俺でもいいじゃんって……ッ!」
「…………」
あ、そ。……へぇ。
それが雷を拉致った理由?
そう言えば情をかけてもらえる……許してもらえるとでも思った?
それとも本気で好きだとか言うわけ?
て事は、当時コイツは輪姦そうとしたんじゃなく、単に雷を犯そうとした?
今よりもっとガキくさかった雷に欲情したって事?
……それマジ? マジで言ってんの?
八割方ウソだと見立てつつ、背後から「んー……」とまるで俺を呼んでるみてぇな雷の声がしたんで、振り返ってみた。
「…………」
「…………」
雷のツラは、さっきの必死の形相から微妙な表情に変わっていた。
いやそりゃあ……雷は、口にガムテ貼られてても俺にはこの世の誰よりも可愛く見えるけど。
中身知ったらもっとほっとけなくなるのも分かるけど。
いざ付き合ったら、誰にも渡したくなくて束縛しまくりな縛りキツキツな嫉妬深い旦那みてぇになるけど。
「…………」
ロン毛野郎の言ってることが理解も信用も出来ねぇ俺は、殺気どころかイライラまで消して無言で雷と見つめ合った。
そんな事がマジであり得るもんなのか、さっぱり分かんなかったんだ。
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