迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

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⑯仕返し……!?

─雷─②

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… … …


 時期外れの体育祭代わりで開催された、縦割りクラスマッチ。

 優勝は見事、俺ら二組に決定した!

 毎年やっつけでしかやってこなかったらしい行事が、思いのほか盛り上がりまくった。結果発表後の校長先生の挨拶のあと、ヤンキー高校では激レアな拍手まで巻き起こってたし。

 俺ら生徒も楽しんで、先生達も何気に嬉しそうで、何もかもいいこと尽くめだ。

 ……いや、何もかもじゃねぇや。


「何なんだよ。俺は雷にゃんの言う通りに動いたってのに。何でンなキレてんだ」
「……プイッ」


 体操着から制服に着替えて、久しぶりに秘密基地に来た……もとい、二組に迎えに来た迅から拉致られた俺は、プンプンしていた。

 抱きつかれそうになったのをササッと避けて、そっぽ向く。


「二組が総合優勝したんだぞ? すげぇじゃん。雷にゃん有言実行だな」
「……プイッ、プイッ!」


 いつになく上機嫌な迅が、そっぽを向いた方に回り込んできてまでハグしようとしてくる。

 俺はまた、それを避けた。

 優勝すげぇって言われた。有言実行だって褒められた。めちゃめちゃ両手上げて喜びてぇけど……ッ、ここは我慢だ雷にゃん。


「バレーの試合見たけどさ、意外に雷にゃんがいい動きしてんの。前いくとやっぱチビなの際立ってたけど、レシーブ上手いし? 猫みてぇにジャンプ力凄まじいから一丁前にアタック決めてみたり? 雷にゃん運動神経いいな」
「……プイッ、プイッ、プイッ!」


 やばぁッッ! そんなに褒められちゃ顔がニヤけちまうー!

 グイグイ近寄ってくる迅から距離を取りつつ、俺はニヤけ面を見られまいとそっぽを向き続けた。

 そろそろ俺の様子に気付いても良さそうなのに、「何で逃げるんだよ」って口では怒っときながら、迅のイケボはずっと優しい。


「こら。何が〝プイッ〟だよ」
「……プニッ」
「変えてもダメ。なんでプイプイしてんの?」
「…………ぷぅ……」
「何かに拗ねてるってのは分かった。機嫌治るまで俺ここに居るから、気が済んだら来いよ」
「……ッッ! 迅~~ッッ!!」


 なんて懐の広いヤツなんだぁぁ!!

 秘密基地の中央で立ち止まった迅に、プンプンしてるのがバカらしくなってすぐさま抱きつきに行った。

 走って飛びついても、迅はビクともしねぇ。おまけに、フッと笑って俺の頭をヨシヨシ撫でてくれた。


「なんだ、もう機嫌治ったの? 秒じゃん」
「……迅~~ッ」
「どうしたんだよ」
「迅~~……しゅき」
「ん? なんて言った?」
「しゅきって言った!!」
「……急だな」
「急じゃねぇもん!! 俺ずっと迅のことしゅッ……しゅきだもん!!」


 迅は俺のもんだ……!

 昨日打ち解けたクラスの連中より、騒いでたギャル達より、俺は誰よりも迅のこと好きだもん!! その自信があるもん!!

 声に出すと恥ずくて言えねぇから、つい舌噛んだような「好き」になっちまうんだけど。

 デカい体に抱きついて、迅の胸に顔を擦りつける。まるで甘えてるみてぇに。


「え、……何? これご褒美?」
「何のだよ!」
「いや、……俺が一匹狼の黒豹卒業したから?」


 ふわっと包み込むようにして抱きしめてくれた迅は、俺の頭を撫でまくってる。これは……俺を甘やかすみてぇだ。

 ご褒美なのかよく分かんねぇけど、迅にも自覚があるらしい開眼した新たな何かが、俺の心をチクチクさせてんだよ。


「それ! それが問題なんだ!!」
「は?」
「迅がみんなとワイワイニコニコやってんの、嬉しいんだ。俺がけしかけたみたいなとこあるけど、そうじゃなきゃ迅は永遠にコミュ障抱えて、将来の出世とかに響くかもしんねぇじゃん」
「出世? てか俺、別にコミュ障じゃ……」
「でも迅が、俺以外のヤツらにイケメンスマイル振りまいてんのは好かん!!」
「振りまいてねぇっつの」
「女子からもワーキャー言われてたし!! クールイケメンな迅は俺のもんなのに!! みんなの彼氏的な立ち位置、俺はヤダ!! 迅は俺のだ!!」
「………………」


 見上げた迅が優しいツラしてたから、思ってること全部スラスラと言えた。

 勢い余って、言い終わったあと肩で息しちゃったけど。

 誰とでも仲良くすんのは悪いことじゃねぇよ。迅は接客業なんだから、これからを考えても一匹狼の黒豹を維持してたらうまくいくもんもいかなくなるかもしれない。

 でもな、でもなッ?

 迅は俺のもんなんだ。そんなに急激に変化しちゃダメだ。

 みんなに愛想振りまかなくっていいんだ。

 今まで以上によりどりみどりになって、またヤリチンに戻ったらどうすんだ。雷にゃん泣いちゃうぞ?

 下唇を噛んで、もう一回迅を見上げてみた。

 意味不明なことでキレるな、って怒られるかも……と恐る恐る。


「あぁ……なるほどな」
「な、何だッッ? その不敵な笑みもしゅきだけど! ちょびっと怖えぞ!」
「雷にゃん、ここ……チクチクしてんの?」


 迅は、ニヤニヤしていた。

 ハイパー上機嫌だった。

 そのニヤニヤが意地悪な時の迅そのもので、ビビった俺は逃げの構えをしようにもブレザーの上から乳首を押されて逃げ遅れてしまう。


「へッ!? ゃんッ♡」
「お前がグダグダ言う時は、嫉妬してるか捨てられる恐怖に怯えてるかのどっちかだって分かったからな。俺がモテてんの見て、妬いたんだろ」
「…………ッッ!!」
「モテねぇ彼氏よりモテる彼氏の方がいいじゃん」
「な……なぬッ!?」


 そうか……! 俺はヤキモチやいてたのか!

 心がチクチクしてる時、いつも俺は誰かにヤキモチやいてた……ってこと?

 元ヤリチン恋愛マスター迅の言うことはよく分かんなかったけど、腑に落ちてスッキリ。

 なーんだ。心がチクチクして勝手にキレても、迅は怒んないんだ。

 それになぜかずーっと笑顔ニッコニコだし?

 イケメンのニコニコは何時間でも見てられる。てか見惚れちまうぜ。

 迅があんまりにも優しく笑うから、俺は「ほぅ……」とため息を吐きかけた、次の瞬間。

 ギュッと抱きしめられて、笑顔より破壊力抜群なセリフを耳元で言われた。


「そのモテモテ彼氏が、雷にゃんに夢中なんだぞ。思う存分、優越感浸っとけ?」
「…………ッッ!?!」
「俺も〝しゅき〟だからな、雷にゃん」
「ぴ、ぴぇッ……♡」


 あーッ! うーッ! うぅぅーーッッ!!

 心臓が痛てぇ……! 息がうまく吸えねぇよぉ……!

 そんな……ッ、そんなこと言うなんて反則だ!

 お前はイケボなんだ!

 イケメンで、優しくて、俺にだけベタ甘なんだ!

 頭がクラクラするようなメロメロりんなセリフ言う時こそ、申告制導入を強く頼むー!!




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