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⑨恋慕
─迅─⑦
しおりを挟む「なんだよこれーー!! こんなのムリだってのぉぉーーッッ」
扉を開けたと同時に俺の目と耳に飛び込んできたのは、雷の背中と絶叫だった。
俺は構えた拳を強く握ったまま、ほぼ反射的に雷を絶叫させた相手を探す。
──あ? ……雷一人……?
振り返ってきた雷の元気そうなツラを確認した俺は、犯人を逃さないため咄嗟に別の部屋へ向かった。
「────ッ」
「え、ッ!? 迅ッッ!? えっ!? もうそんな時間かッ!? あ、ちょっ、迅!! どこ行くんだよ!!」
部屋っつってもここはワンルームマンションらしいから、あるのはトイレと狭い脱衣所付きのバスルームのみ。
まだ頭ン中はグツグツ沸騰中で、雷を傷付ける恐れのある人間がこの部屋のどこかに隠れてやがるんだろうと思ってた俺は、その二箇所の扉も必要以上に派手に開閉した。
「……居ねぇ」
十歩で事足りる歩幅で室内を捜索した結果、……犯人らしき人物なんか居なかった。
それどころかここは、電気は通ってるのにまるで生活感が無え。 ただ一つあったのは、不自然に置かれたシングルベッドだけ。 何しろその上に雷が居たんで嫌でも目についた。
試しに洗面台の蛇口をひねってみる。 水も通っていた。
「迅……ッ、迅ーー!! 待ってよぉぉ!!」
扉一枚隔てた向こう側から、雷の絶叫が聞こえる。 俺が出て行ったと勘違いして焦ったのか、ドテッとベッドから転げ落ちる音がした。
いや……俺洗面所に居るんだけど。 今こそ〝般若〟って揶揄われてもおかしくねぇツラが、鏡に映ってますけど。
ていうか、お前の方が待てよ。
……なんで雷は、こんなところに、しかも一人で居たんだ?
誰かに拉致られて来たわけじゃ無さそうだし、鍵が開いてたくらいだから閉じ込められてたってわけでも無え……じゃあ自分で来たって事?
なんで? なんのために? 俺をシカトし続けてまで一人になりたかった? てかここ誰ン家?
「………………」
頭に上ってた全身の血が、サーッと冷めていく。
えーっと。
冷静沈着、いつ如何なる時でも動じない無敗伝説保持者の藤堂迅が、パニック起こしてんぞ。
しっかりしろ、俺。
……いやムリ。 ……これどういう状況?
「……迅ーーッッ!! うぉッ!? そ、そこに居たのか!」
「………………」
洗面所で般若と睨み合いをしていると、玄関まで駆け出そうとしていた雷が俺を見付けて立ち止まった。
俺と目が合ってビクッと肩を揺らすチビ雷。
……元気そうだな、おい。
拉致られた形跡ゼロじゃん。
何なら、雷のほっぺたはいつもより血色良く見えるぞ。
怯えてたり震えてたりってのもなさそうだし、絶叫出来るだけの体力も問題無さそう。
「──おい」
「……ッ! ひゃいッッ」
もう一度ビクッと肩を揺らしたチビ雷の胸ぐらを掴もうと、腕を伸ばす。 生意気にもそれを躱しやがった雷は、ゆっくり後退りを開始した。
俺を追いかけようとしたり、逃げようとしたり、意味が分かんねぇんだけど。
目が合った状態でじわじわ後退する雷をとっ捕まえる事なんか、容易い。
俺は背が高い。 その分、足も長え。 一歩の歩幅が違う。
胸元をグイッと引っ張って、明らかに目が泳いでる雷に詰め寄った。
「……てめぇ……何を企んでる」
「な、な、な、ななな何もぉ?」
「何か仕組んでるよな、これ」
「……うッ……うぅッ!? さ、さ、さぁッ?」
お手本みてぇな〝オロオロ〟ありがとう。 分かりやすいんだよ、バカ雷にゃん。
絶対に何か仕組まれてると分かっても、雷がピンピンしてる姿を見てホッとしてる自分がマジでイヤだ。
殺る気満々だった拳が空振りに終わった。
犯人なんて物騒な輩は一人も居なかった。
場所が場所だから口でも塞がれて集団暴行受けてんじゃねぇか、雷はチビで可愛いから今回こそとうとう輪姦されてんじゃねぇのか──心配で心配で心配で心配で、こうなったのは俺のせいだって自分の事を責めて死にたくなってたっつーのに……。
ピンクのほっぺたを見て、心の底から「何事もなくて良かった」と安堵した俺は……どんだけコイツに夢中なんだ。 畜生。
「迅、ごめん……ッ、ブチギレ中なのは分かってんだけど、このセリフだけは言わせてくれ!!」
「……は? なんだよ」
俺の右腕を両手で掴んだ雷が、コホンッと咳払いする。
この状況で一体何を言いやがるのか、やや俺も身構えた。
「待っていたぞ、藤堂迅!! 心配したッ?」
「………………」
………………。
………………。
………………。
なんだと? コイツ、何を言ってんの? とうとう頭のネジ全部ぶっ飛んだ?
〝待っていたぞ〟? 〝心配した?〟?
あぁ、……て事は何だ、雷はこの大掛かりなドッキリで俺を心配させようとしたわけか?
必死の般若面で六階まで階段駆け上がって、心配って言葉がいくつあったって足りねぇくらい雷を〝心配〟した俺を、コイツは試したってのか?
「あっ、いや、俺これをどうしても言いたくてな! そっかぁ、迅ってば俺のこと結構大事に思ってくれてんだなぁ……だって心配じゃなきゃこんなとこまでダッシュで来ないよなぁ?♡ ヘヘッ……♡ ヘへヘヘッ……嬉し……あ痛ッッ!!」
クソ生意気なデレ顔が無性にイラついて、前髪の上からデコピンをお見舞いした。
ヘラッと照れくさそうに笑ってんじゃねぇ。
あぁ、心配したよ。 命削る覚悟までしてたよ。
こんな試すような真似する前から、雷の事は誰よりも大事にしたいと思って尽くしてたよ。
喜ばせてやりてぇって感情芽生えたのはお前が初めてだったんだよ。
だからめちゃめちゃ心配した。 当たり前だろーが。
俺がどれだけ、どれだけ心配したと……!
あームカついてきた。
ムカつき過ぎてマジで血管何本かピキッた……!
「~~ッッ、バカ!! お前はどうしようもないバカだ!! バカ雷にゃん!! マジでバカ……ッ、バカとしか言いようが無え!!」
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