迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

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⑦曲解

─迅─⑦

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 我ながら、キャラぶち壊しの説得染みたことしてんなと思う。

 なかなか膨れっ面が治らねぇ雷を床に下ろしてやって、顔を覗き込んだ。

 右手で心臓握ってしょぼんと俯く雷もキャラじゃねぇし、俺が何を言おうとプンプンしてる意味が分かんねぇ。

 俺を見習ってもうちょい浮かれてもいんじゃねぇの? そんぐらいのこと、俺言ってるぞ?


「……──って言ってたくせに。 信じられるかよ」


 ため息を吐きかけた俺の二十七センチ下で、雷がボソッと何事かを呟いた。

 その声には、恨みっぽいのが乗ってる気がした。


「あ? 何? 聞こえねぇ」
「ヤリチンの言うことなんか信じねぇって言ったんだ!」
「……なっ……」


 なんだと、と言おうとして言葉に詰まった。

 キッと睨み上げてくる猫目が、涙でうるうるっと潤んでたからだ。

 弁当が入ったコンビニ袋をいつまでも持ったまま、俺は必死で雷のチクチク解明を手伝おうとしてんのに。

 変なとこ頑固なコイツから、また俺の不名誉な伝説を聞かされそうだ。


「お、お前は誰にでも〝一番相性がいい〟って言ってたんだろ! ンなのみんな勘違いするに決まってんじゃん! 今日の女で元祖セフレ二人目なんだぞ!? ってことはどうせ、三人目にも四人目にも五人目にも……何ならセフレみんなに同じこと言ってんだ! このヤリチンタラシツンツン男め!!」
「………………」
「迅は伝説的なヤリチンだから、そういうのなめらかにスラスラッと言えんだ! セフレだろうがカノジョだろうがメロメロにするテクニック使ってな! そんでその、通称メロテクをめちゃめちゃいっぱい使いこなして女とエッチしまくっ……ッッ」
「うるせぇ。 黙れ」


 言いたい放題言いやがって。 なんだよ、メロテクって。

 左手で雷の口を塞いで、何にも役立たねぇような小せぇ四角テーブルに一旦コンビニの袋を置いた。

 あーもう、マジでそんな話は聞きたくない。

 漠然と嫉妬してるわけじゃねぇのはチクチク解明につながるが、そこにそんなイラつかれても今さらどうしようもねぇだろ。

 しかも半分冤罪だし。


「ヤリチンヤリチン言うな。 てかさぁ……俺は今まで、相手に期待持たせるようなセリフとか言ったこと無ぇよ」
「……は、ッ?」
「言うわけねぇじゃん、俺が。 セフレはセフレで線引きしてたし。 勘違いされてガチの付き合い迫られたら面倒だろ」
「…………ッッ!」
「まるで俺がそのセリフを女に言ったことになってっけど、それはウソ。 俺セックスの最中、喋った覚え無ぇし」
「いやいやいやいや、それこそウソだな! 迅、お前は気付いてないだけでベラベラ喋ってんぞ! チン○扱いてる時も、ちくびペロペロしてる時も、てかキスしてる時も喋ってんじゃん! あれどうやってんのッ?」


 ──あ? そういえばそうだな。

 ムムッとしかめっ面した雷と見つめ合う。

 言われてみると確かに、雷には何かとクエスチョンマーク付きで喋ってたわ、俺。

 今までのセックスでは女が一方的に喋って喘いで、俺は適当に「あぁ」とか「ん」とか相槌打ってただけだった。

 その不誠実な返しがセフレに良いように誤解されてて、突然切った女どもが関係迫ってきてる……それが雷の心臓チクチクの要因になってるっつー事か。

 考えるまでもねぇ。

 これは俺が悪りぃ。 いや、雷を監視し始める前の俺。


「……雷にゃんだから」
「またそれかよ!」
「雷にゃんだから、全部知りてぇんだよ。 俺がペロペロして気持ちいいかどうか気になる」
「ペ、ペロ……ッ! ふぁ……ッ♡」


 ふわっふわなほっぺたを捕らえて、顔を傾ける。

 誤解を解きたい。

 嫉妬でチクチクしてんのは可愛いけど、それで泣くのは涙が勿体無い。

 俺は今、雷にゃん一筋。

 一応気にしてるらしい性別も、チン○シコシコしてる時点で何の枷にもなんねぇ。

 それはお互いに言えることだろ。

 なんつーか、うまく言えねぇけど……雷が現れてから俺の何もかもが変わったんだ。

 至近距離で目線を合わせると、頼んでもねぇのに可愛いトロ顔を見せてくれるからには、雷も俺と同じ気持ちだって分かってる。

 信じらんねぇならこれからいくらでも信じさせてやるし、そんな可愛い理由で泣きべそかくなら俺はもう遠慮はしねぇよ。

 ほっぺたを捕えた俺に何されるか分かってるくせに、暴れもしねぇでトロ顔してる雷の唇に迫っていく。


「……キスしてる時に喋んのはな、」
「ンッ♡ ん、っ……♡」


 下唇を甘噛みすると、薄っすらと唇を開くようになった。

 キスしながら喋るのにコツなんか無ぇ。 俺だって初めてやってんだから、やり方教えようにも出来ねぇよ。

 ただ舌を絡ませて、苦しそうなツラ見ながら顔の向きを変える時に無意識に揶揄ってるだけ。

 可愛いから。 雷がとにかく、可愛いから。


「雷にゃんがそうやって、」
「んふっ、んッ……んっ♡」
「ツラそうにあんあん喘ぐから、」
「ふ、っ……む、ッ……♡」
「可愛くて、」
「ン~ッッ♡ ……っ、……ッッ♡」
「もっと啼けって、」
「ふぁ……ッ♡ ン、ンッ♡」
「ベロよこせって、」
「んっ、んっ、んっ……ちょッ、待っ……♡」
「意地悪したくなんの」
「ふぇっ……んッ♡ んむっっ♡」
「分かったか、バカ雷にゃん?」


 ジュル、チュパっと、やらしい音をわざと立ててることも雷は分かってるはず。

 逃げ腰な舌を吸い上げて、絡ませて、膝が笑って立ってられなくなる雷の体を支えてやるほどのキスなんか、俺も経験が無ぇ。

 腕にしがみついてくる雷の猫目が、さっきとは違う涙でうるうるしてる。

 唾液で濡れた唇も濃いピンク色になっていて、直ちにもう一回味わいたくなったが苦し気な雷にそれはすかさず阻止された。


「はぁ、はぁ、……やっぱお前のキスはねちっこい!!」
「今のは軽めにしてやったじゃん」
「どこが……ッッ」
「そのねちっこいキスでこんなにしといてよく言うわ」
「あ、んッッ♡」


 膨らんだ股間に触っただけで、この反応。

 どこの世界に、野郎の勃起したチン○触って喜ぶヤリチンが居んだよ。

 今すぐベッドに押し倒してぇと思ってる俺はもう、末期どころか完全に雷にやられちまってんのに。




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