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⑤御姉様
─迅─
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バイト中、雷が勝手に行動し始めてねぇか気が気じゃなかった。
なんで土日なんだよ。 てか何泊まろうとしてんだよ。
泊まるっつー事は、風呂も部屋も布団も一緒って事だろ?
束バッキー先輩がわざわざ雷に連絡してきた理由なんて分かりきってる。
十中八九、雷に変な虫が付いてねぇか確かめるため。 で、もし変なのが付いてたらシメる気でいんだろ。
雷が懐いて(従って)たくらいだ。
どうせその束バッキー野郎もヤンキーに違いねぇ。
「あ、迅~! お疲れ~! お勤めご苦労さん!」
「………………」
バイト終わりの二十一時。
ちゃんと俺が指定した時間に駅で待ってた事は褒めてやる。 脳天気なネコ面で手を振ってるのもまぁ可愛い。
でもその台詞をデケェ声でニコやかに言うのは、通行人の誤解を招くからやめてくれ。
この五年くらい、そりゃあ喧嘩は毎日してきたが法に触れる事は一切してねぇ。
ヒネ(警察)の厄介になった事も無えから、さも俺がム所帰りみたいに言うな、バカ雷にゃん。
「痛てッ! なんで会って早々デコピンすんだよ!」
「じゃ行くか」
「あ~! 温泉楽しみだなぁ! 大浴場入れねぇのは残念だけど~~」
ジロッと睨まれた俺は知らん顔で二人分の切符を買った。
雷と束バッキー野郎を二人きりになんてさせらんねぇから、俺も温泉入りてぇし美味いメシ食いてぇと嘘八百を並べた。
それをまんまと信じた単純な雷の返事は、少しも疑わずに「じゃあ一緒に行こっ!」だ。
雷が未だタトゥーと言い張ってる肩一直線に付けた俺のキスマークがあるから、どのみち束バッキー野郎の前で裸を晒すことは不可能。
いやそれだけじゃねぇな。
残念がってるとこ悪いが、誰の目にも雷の裸を晒したくねぇし大浴場回避にもちょうど良かったわ。
「先輩と宿に連絡したか?」
「おうよ! それはバッチリだぜ!」
俺のバイト中、雷には二つやるべき事を与えていた。
一つ目は、束バッキー野郎に俺(ダチ)が同行すると伝えておくこと。
二つ目は、束バッキー野郎を介して宿に俺達が泊まる部屋を取ること。 二十一時以降のチェックインが可能で、内風呂付きで、部屋にメシを運んでもらえるのがベスト。
どれか一つでもダメだったら、今夜も俺ん家でいつもの大会を開催する。 当然、束バッキー野郎にも断れよ、と言っといたからか、雷はブツブツ不満を垂れながらも張り切っていた。
温泉が楽しみなのか、束バッキー野郎に会えるのが楽しみなのか。
俺は正直どっちも胸クソ。
もっさん達を飼う事を即決した俺の気持ちを、少しも理解してねぇ雷は激ニブだって分かってんだがな……。
一人で戸惑って一人で突っ走ってる俺も、それなりに恥ずかしいんだぞ。
暗い線路を走る電車の揺れにかこつけて雷が密着してくる度に、襲ってしまいそうになる。
俺に変な性癖があるはずだと笑ってたお前には、こんなこっ恥ずかしい感情なんて到底理解出来ねぇんだろうな。
「束バッキー野郎……じゃねぇや。 先輩、何か言ってた?」
「お前それ絶対先輩に言うなよ!? 先輩に束バッキー野郎なんて言ったらキレちまう!」
「キレても俺がタイマン張るから問題無え」
「イヤだよ! 先輩と迅がタイマン張ってるとこなんて俺、見たくねぇ!」
「俺が勝つから?」
「自信過剰! でもクッソォ……迅には実績があるからなぁ……!」
「実績って」
今日も順調にバカだな、雷にゃん。
でもそこがいい。 退屈しねぇし笑いが絶えねぇ。
今までの女どもが束になって誘惑してきたって、雷のこの底抜けに素直で無邪気な面には敵わない。
あー……キスしてぇな。
コイツいっつも甘いもん食ってっから唇も甘えんだよな。
今も甘い匂いのガム食ってるし。
……いけねぇ。 雷のツラ見てたらこんな事ばっか考えちまう。
「話それた。 その先輩は、なんか言ってなかった?」
「迅が来ること? 別に何も?」
「マジ? 何も?」
「うん、何も。 「ダチ連れてくんのか、楽しみだな」って」
「ほぉ~? 〝楽しみ〟か」
これは俺、すでに束バッキー野郎に喧嘩売られてんな。
そりゃあな、二人っきりでの久々の再会を邪魔するダチなんて目の上のたんこぶだとは思うが、俺がそんなの許すわけねぇじゃん。
喧嘩ならいつでもどこでも買ってやるし、負ける気しねぇぞ。
「先輩、どっちで来てるんだろ」
電車で五駅とわりと近かった、雷との短い夜旅気分。
改札を出てタクシーに乗り込み、そこから宿まで二十分の道中だった。
運転席の後ろ側で、ちんまりと座った雷が窓の外を見ながらそんな事を呟いた。
「…………? どっちでって? お前が前に住んでたとこからだと、車で来るには遠いだろ。 宿の場所から考えて新幹線じゃねぇの?」
「あ、そうじゃなくて……」
「なんだよ」
「いや……会って驚かせたくないからさぁ、今言っちゃおーと思ってんだけどぉ……」
「だからなんだよ。 雷にゃんにしては歯切れ悪りぃな」
「んーっと、……ちょっと言いにくいんだけど、先輩実は……」
俺を見たり、窓の外を見たり、運転手のオヤジの寂しい頭を見たりと忙しい雷は、落ち着きがなかった。
ちょうどいいところで宿前に到着しちまって、「実は」の続きを聞けないままタクシーが走り去る。
なんだよ、気になるじゃん。
ってか、すげぇ雰囲気ある宿だな。
暗くてよく見えねぇが、辺りが森に囲まれている。 マイナスイオン吸い放題って感じだ。
此処へは完全に雷の監視人としてやって来たはずが、宿の門構えまでの大きめの砂利を踏んでるだけで気分が少し変わった。
宿の玄関先で、雷に大きく手を振る人物を視界に捉えるまではな……。
「雷~! 雷~!」
「あ、先輩~! 久しぶりっすねぇ!」
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