必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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~五・六月某日~(全五話)

♡新たな任務

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─葉璃─  五月某日




 CROWN「セナ」のイメージカラーは黒。

 その黒の背景に真っ白な羽根が弯曲に描かれている五センチ四方のキーホルダーを、たったいま聖南から二つ貰った。

 裏面には、これまた黒の背景に筆記体で「SENA」と書かれている。  文字の色は銀色。

 これはライブ会場やネット通販で売られている、CROWNのグッズの一つらしい。

 つるつるした表面は傷が入りにくい加工がされていて、デザイナーさんの羽根の絵も背景もなんだか凄く洗練されていてかっこいい。

 イメージカラーと名前別に、アキラさんとケイタさんのものもあるなら、聖南に内緒であとでこっそり買っておこうかな。


「いいか、コンシェルジュはもう葉璃の顔覚えてるかもしれねぇけど、万が一のためにこの鍵持っといて」
「え、二つ……?」
「こっちが隣の部屋ので、こっちがここの」
「あぁ、そういえば隣のお部屋借りたんでしたっけ……」


 このマンションの家賃は、俺が考えてるより何個も0が多いと思う。  怖くて、詳しく知ろうとした事はない。

 俺と聖南の付き合いのカムフラージュのために、聖南はもう一つ部屋を借りた…しかも偶然空いていた隣に。

 アキラさんとケイタさんは心配して言ってたんだよ。

 『新人アイドルがそんないいマンション出入りしてたら、逆にマスコミにネタ与える事になってカムフラージュにならないだろ』って。

 ほんとにほんとに、その通りだと思った。

 でも聖南は、八重歯を覗かせてニヤッと笑い、もし突撃取材を受けても(無いと思うけど)「後輩が先輩の家に居候して何が悪い、前例ありまくりなこと突っついてメシ食う気かっつって追い返してやる」なんて笑い飛ばしていた。

 もう借りてしまった後だし、聖南は聞く耳持たないしで、俺は何も言う事はしなかった。

 カムフラージュ用の隣の部屋も、仮装パーティーの時の社長の助言で生活必需品は揃えてるみたいだ。

 ……誰も住まないのになぁ。  勿体無い…。


「そうだよ。  葉璃の住民票は隣の部屋に移してあっから、間違えんなよ?  まぁ住所書く事なんてほぼほぼねぇだろうけど」
「え、なんで俺の住民票を聖南さんが移せるんですか?  そんな事できるの?」
「出来ねぇよ。  葉璃ママに頼んだ」
「なるほど……。  なんか母さんとめちゃくちゃ打ち解けてますね、聖南さん……」
「そうなんだよ。  葉璃ママ超理解早えし最高だよな。  あとは葉璃パパとも親密にならねぇと」
「もう大丈夫だと思いますよ。  お父さんも聖南さんの事いい先輩だなって言ってたし」


 この同居も、聖南が頻繁に俺の両親とコンタクトを取り続けていたからこそ、すんなり事が運んだ。

 母さんに至ってはもう俺達の事はバレてしまってるけど、お父さんにはさすがに言い出せなかった。

 聖南は打ち明ける気満々だったのを、なんと母さんが止めたんだ。


「そこなんだよなぁ!  ヤバイんだよ、いい先輩状態が続くのはよくない。  愛し合ってます宣言しにくくなるから早めに打ち明けないと、マジでタイミング逃す!」
「お父さんにはまだですもんね」
「葉璃ママがちょっとずつ説得してくれるっつー話だけど、俺も地味めには動かねぇとな」
「ここは、張り切ってる母さんに任せてたらいいですよ。  聖南さんが息子になったって毎日家で騒いでて喜んでたから、うまくやってくれそう」
「マジでか!  嬉しいな!  葉璃ママにまたこれやってやんなきゃ」


 お気に入りの香水を手首にシュッと振りかけて、その手首を耳の後ろに擦り付けた聖南が、俺に手銃を向けてきた。

 俺も、母さんも、実は聖南のこの手銃にメロメロだったりする。


「あっ……!」
「え、何。  葉璃もこれ好きなの?」


 ───俺がキュンッてなったのがバレた。

 無表情でいたつもりなのに。  すごい。

 セクシーな香りを纏った聖南が、嬉しそうに近付いてくる。

 これから事務所に行かなきゃいけないから、夜は冷えるし薄手の上着を羽織ったところで聖南に捕まった。


「……はい。  カッコいいです、それ……。  客席からCROWNのライブ観てた時、それされてドキってしました」
「えーえーえー♡  それ早く言えよっ」
「…………っ!」


 俺のキュン顔をすぐに見抜いた聖南に、手銃攻撃を連発される。

 片目を細めてのそれは、すごく気障なんだけど聖南にはよく似合ってる。

 ほんとに、直視出来ないくらいカッコいい。

 いや……カッコいいのはいつもか。


「わっ……!  聖南さんっ、時間時間!」


 「かわいーなぁ」と言いながら抱き締めてきた聖南と、くるくる回りながらソファに倒れ込んで笑い合っていた俺は、はたと我に返る。

 現在の時刻、午後八時。

 この時間に聖南と居られる事が嬉しくて、柄にもなく舞い上がってしまった。


「あー?  もうー?  葉璃との貴重なイチャイチャタイムが社長のせいでなぁ……」
「こんな時間から社長のお話って、何なんですかね?  恭也も呼ばれてるって聞きましたけど……ETOILEの件かな」
「いや、アキラとケイタも来いって言われたらしいから、別の話じゃね?」
「え!  アキラさんとケイタさんもっ?  みんな集合ですか」
「そうだな。  葉璃、二人に会うの仮装パーティー以来?」
「ほんとだ、そうですね。  二ヶ月近くお会いしてない……」
「アイツらも葉璃はどうしてるかってうるせぇから、ちょうどいいな。  行くか」
「はいっ」


 笑顔で頷くと、聖南は綺麗に微笑んで頭をヨシヨシしてくれた。

 俺は、キーホルダーが付いた二つの鍵をクローゼットの中にしまい込んで、玄関で待つ聖南の元へ駆けた。

 だって今は、鍵はいらないもん。

 聖南と出掛けて、聖南と帰ってくるんだから。



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