必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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〜十二月某日〜(全六話)

4♡〜赤面な打ち上げ〜①

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   嫌だ、って言われたらショックだな……と、元来ネガティブな俺が緊張しながら「ケイタさんの車に乗せて下さい」って言ってみたら、それだけでケイタさんは上機嫌になってくれた。

   すっかり忘れてたけど、一回だけケイタさんに家まで送ってもらった事があったんだ。

   それ以来二人っきりで話をする機会がなくて、CROWNの中でケイタさんに慣れるのが一番遅かった事がどうやらイジけに繋がってるみたいで、しかも、


「俺と目が合うと、まだハル君ビクッてするんだよね……」


って、遠い目をしていた。

   知り合ってすぐなら分かるけど、この一年以上、何かと顔を合わせてるのに……目が合ったら無意識に肩を揺らしてたなんて俺は気付かなかった。

   拗ねてたケイタさんの気持ちを知って、そこまで俺と仲良くなりたいと思ってくれてたなんて嬉しくて、料亭に着いてからは自らケイタさんの隣に着席してみた。

   聖南が来るまではいいよねって事で、アキラさんも珍しく笑顔いっぱいだ。

   すでに五人分の料理が並んでるこのお座敷は、聖南のパパと対面した日に四人で食事した事のある、いわば思い出の個室だった。

   アキラさんとケイタさんがあの時の懐かしい話に花を咲かせてるのを、俺は烏龍茶を飲みながらウンウンって聞いてる。

   ……早く王子聖南来ないかなって思いながら。


 ──コンコン、。


「こんばんは。 お疲れ様です」


   控え目なノックの後、顔を見せたのは二日ぶりくらいに会う恭也だった。

   映画の撮影終わりだからか、ちょっとだけ疲れてる印象を受ける。


「っ恭也!」
「お、恭也お疲れー」
「お疲れー!」
「すみません。 セナさんの、ミュージカル初日に、同行出来なくて」
 

   恭也は撮影の名残なのか、綺麗な黒髪にゆるくパーマをあてられている。

   去年よりさらに背も伸びたし、なんか俺……置いてかれてるなってつい寂しさを覚えちゃうくらい、恭也はこの一年で大変貌を遂げた。

    そんなイケメン恭也は、空いてたアキラさんの隣に腰掛けながら二人に申し訳無さそうに詫びて、それから俺に視線をくれた。


「撮影なら仕方ないって」
「現場はどうだった?」
「そうですね……。 初めての事ばかりで、俺は、言われた事をこなすだけ、って感じです。 お芝居も、出来てるのかどうか、自分では分かりません……」
「最初はそんなもんだよ。 俺とアキラもドラマより映画が先だったからよーく分かる」
「ただ俺とケイタは舞台で芝居の経験あったからまだ良かったけど、恭也はレッスンからいきなりだろ」
「そうなんです……。 迷惑掛けないように、とにかく台詞を、覚えて行く事しか、今は出来なくて……」
「これもね、ハル君のあがり症と同じで慣れるしかないんだよねー」
「あぁ。 場数こなすと余裕出て来て、視野が広くなるから今とは比べもんにならないくらい色んな事が見えてくる。 ガチガチなのは今だけだ。 心配すんな」
「はい。 ありがとう、ございます。 明日からまた、頑張れそうです。 ……葉璃、久しぶり」


   テーブルを挟んだちょうど反対側から、恭也がニコ、と微笑んできた。

   恭也……初めての撮影に一人で悩みを抱えちゃってたんだ……っ。

   俺が無神経に背中押してしまったから、それが決定打になってその映画の仕事を引き受ける事にした恭也が、二人に励まされてるのを俺はうるうるしながら聞いていた。

   俺も現場について行けるもんならついて行ってあげたい……何にも役に立たないだろうけど……。


「葉璃? 目が潤んでない? 大丈夫?」
「……ううんっ、大丈夫。 恭也、お疲れさま……! あの、その……が、がんばってね。 俺そばにいてあげられないけど、映画楽しみにしてるから! 恭也なら出来るよ!」
「ふふ、ありがとう。 頑張るね」
「……すごいな、一瞬で二人の世界じゃん」


   見詰めてくる恭也の瞳を真剣に見ながら、ロクな事が言えない自分が嫌になってしまうけど……恭也なら出来るって思ったのはほんとだもん。

   隣に居るケイタさんの呟きは聞かなかった事にして、もう一度烏龍茶に口を付けた。

   温かいホット烏龍茶を美味しく飲み干したその時、前触れもなく引き戸が開いた事でみんなが一斉に扉へと注目した。


「お疲れー」
「………………っ!」


   ────っ!!

 聖南だ……! 聖南が来た!

   金髪ポニーテールの王子聖南が現れると、靴を脱いで一番遠い席へと向かうその数秒でさえ俺はうっかり見惚れてしまった。


「ケイタと葉璃、場所変わって」
「お疲れー! って、早速かよ」


   唯一誰とも対面しない奥の席に腰掛けた聖南が、俺が隣に来るようにって席替えを要求するとケイタさんは苦笑しながら立ち上がった。

   当然だよ……面倒掛けてごめんなさい、ケイタさん……。


「ていうか俺が上座でいいの? まぁこの五人だしそんなの気にする事もねぇか」


   そんな事を言いながら笑う聖南が、着席した俺の頭を撫でてくる。

   何気ないその動作にも、王子聖南にやられてるだけだっていうのに異常に照れた。

   聖南到着と同時にアキラさんが店のスタッフさんを呼ぶとすかさずやって来て、テーブル上の固形燃料五つに火を付けてしまうとそそくさと去って行った。


「葉璃、ミュージカルどうだった?」
「…………っ! お、お疲れさまです……!」
「あ、あ? お疲れ。 ……いや、感想を……」


   王子聖南にまったく慣れない俺は、美しく盛られた料理に視線を落としたままとんちんかんな返答をする。

   不思議そうに俺を見てきてる視線を感じると、どうしようもなく顔が熱くなるから横目だけで聖南を見た。

   するとアキラさんには俺のドキドキがバレちゃってたらしい。
   

「おいセナ、見ろよ。 ハルの目がヤバイ」



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