必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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〜十二月某日〜(全六話)

1♡〜聖南のミュージカル観劇〜

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   寒々しい冬へと季節は変わり、この時期はコートを羽織ってマスクと帽子を着用して変装していても何らおかしくない。

   多忙を極める聖南が約二ヶ月もの間、俺と会うのも我慢して稽古に励んできたミュージカルの初日に来ている。

   あのイメプレ以来、完全にすれ違い生活だった俺と聖南は、毎日少しのメッセージのやり取りと、お互いの出演番組をテレビで見て寂しさをやり過ごす日々だった。

   それと言うのも、このミュージカルは本業をセーブさせるほど聖南の意気込みが違っていた。

   仮台本を読んだ当初は「演技は無理」と消極的だった聖南が、出演キャストの顔合わせ、そして読み合わせ初日を終えてから急に、このミュージカルへ本格的に舵を切った。

   マリー・アントワネットの生涯を主軸に、フランス革命を題材にした重たい内容のミュージカルである事に加え、重要な役どころである前述の愛人フェルゼン伯爵を演じる聖南もまた、生半可な気持ちで携わるわけにはいかないと並々ならぬ意欲を見せていた。

   主役は舞台女優である並木千鶴、準主役がCROWN・セナという事になる。

   もう少し気軽に観劇出来る内容だったら、出番前に控え室まで行って激励するんだけど……ちょっと出来そうな雰囲気では無かった。

   事務所に居た俺を迎えに来てくれたアキラさん、ケイタさんと一緒に聖南とは別の控え室で待ち、客席の全てが埋まってから暗転した後に客席に潜り込む。

   恭也は来られなかった。

   なぜなら、来年の夏に公開される映画の出演が決まったからだ。

   デビューして二ヶ月後、恭也から落ち込んだ様子で打ち明けられた時はどうしていいか分からなかったけど、俺は盛大に背中を押した。

   はじめは聖南が演じるフェルゼン伯爵を、恭也にどうかと聖南自らが推薦した事が大きい。

   まだ芽も出ていない一歌手である恭也を、誰あろう聖南が「役者への展望」を見出していたから、俺もその展望に乗ったというわけだ。

   ETOILEとしての活動と、映画の撮影とで大忙しな恭也は観に来られなかったけど、初日は何としてでも行くと言ってくれたアキラさんとケイタさんが居るから心強かった。


「セナ、準主役って言ってたけどそんなに台詞無ぇな」
「大筋がマリー・アントワネットの話だからじゃない?」
「あ、あれであんまり出番が無い方なんですか……」


   両隣に居る二人の会話に、俺は驚いた。

   今は、三時間に渡る演目のため合間の約十五分間の休憩中だ。

   客席が明るくなるから一度席を立とうとした俺を、逆に目立つからってアキラさんに言われてその場にジッとしている。

   マスクして帽子被ってれば大丈夫なんだって。

   ……そりゃあ、主役の女優さんは出ずっぱりだったけど、素人の俺からすれば聖南もかなり出番はあった。

   台詞はほんの少しで、歌唱が主な重厚なミュージカル。

   とても軽々しくなんて観劇出来ない。

   聖南の大根っぷりを半ば茶化しに来ていたと思った二人も、始まったと同時に真剣に舞台を凝視していた。

   アキラさんもケイタさんも、最近はテレビドラマや映画の出演が主だけど、少し前まで舞台でも活躍してたもんね。

   そんな二人が、聖南を揶揄うでもなく神妙に高評を言い合い始めた。


「まぁ流石だよな。  セナが歌い始めたら場が一気にセナの独壇場になる」
「だね。  いつ稽古行ってたんだろ。  セナまた寝てないんじゃない」
「あり得るな」
「思ったより演者がそこまで居ないから個々の出番も多いね。  気が休まらない上にミュージカル歌唱、しかもフランス革命を題材にしたとなると中途半端は許されないしね」
「それはどの舞台でも一緒だけどな」
「まぁね。  でもまさかこんなに厚みのある内容だとは思わなかったな」
「俺もケイタも喜劇多かったからな」
「社会派劇もいいね。  やりたくなっちゃった」
「今のケイタにオファー来ねぇだろ」
「なんでだよっ」


   二人の掛け合いに笑いながらも、俺は神妙に椅子の背凭れに体重を預けた。

   ……そっか……。

   あれだけ「気が乗らない」って渋ってた仕事だったのに、俺と会うのも、CROWNの仕事も、プロデュース業も全部セーブしてたもんね、聖南……。

   俺は舞台を観劇するのも初めてだから、こんなに完成度の高いミュージカルを観ちゃうとなかなかうまい言葉が見付からない。

   出演者全員が一丸となって毎日毎日このミュージカルを作り上げていく過程の中、普段土俵が違う聖南は同じ心持ちになろうって必死に皆に付いて行ったんだろうな。

   完成度云々、他の仕事を言い訳にしたくないって聖南の思いが伝わってくる。


「……聖南さん……王子様みたいでした」


   舞台の上の聖南は、背中まである金髪長髪にフランス革命当時の服装を模した衣装だった。

   仮装パーティーの時に着ていた、海賊船長の衣装にそれは近い。

   何で髪を伸ばしてるのかなって不思議だったけど、このミュージカルのためだったんだ。

   さすがに本番は地毛にエクステを付けてるみたいだけど、服装とメイクも聖南にピッタリですごくカッコ良かった。

   だって、一番最初に聖南が舞台に出て来た時、客席がどよめいたんだよ。

   みんなの小さな興奮は俺にも伝染して、足をちょっとだけジタバタしたけど誰にも気付かれてないみたいで良かった。


「あ……ここにちょっと見方の違う子が一人居るよ」
「ハル、まーたセナにコスプレしてもらおうとか思ってんじゃね?」
「お、思ってませんよっ。  そんな……。  このミュージカルは神聖なものですからっ」




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