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〜十月某日〜(全十話)
4♡〜Dr聖南とNs葉璃〜
しおりを挟む恥ずかしいからシャワーは別でって俺が啖呵を切ると、聖南は盛大に駄々をこねてた。
けど俺に甘い聖南が最終的には折れて、「しょうがねぇな…」って言いながらいじけてキッチンで水を飲んでる。
俺はそれを見届けてからシャワーを浴びた。
自分でお尻を洗うのがちょっと慣れてきて、これを聖南にしてもらうっていうのがまだかなり恥ずかしくて。
この後散々いじくられるんだろうけど、それとこれとは別。
興奮してたら俺も訳分かんなくなって素面状態とは言えないから、……いいんだ。
とりあえずいつものパーカーを着て聖南とシャワーを交代して、その間にさっきの現場から持ち帰ってきたナース服に着替えてみる。
どういう権限で持ち帰れる事になったのか知らないけど、聖南は嬉しそうに紙袋を持ってギラギラしていた。
「喉渇いたな……」
ナース服を着てベッドで聖南がシャワーから出てくるのを待ってた俺は、妙な気分に陥っていて急激に喉が乾いてきた。
……イメプレのイメージを膨らませるってどうやるの。
その言葉さえ初めて聞いたのに。
聖南が怒ってると勘違いして、ビクビクなスタッフさんとの打ち合わせはほんとに十五分くらいで終わってしまい、何にもイメージ出来ないまま今に至ってる。
「聖南さん、水貰っていいですか……あっっ」
シャワーの流水音が消えてしばらく経つから扉を開けてみると、長身の人影がまさに入って来ようとする所だった。
……聖南ってば……卑怯だ!
ベッドルームを出た俺の前に、ドクターコート+眼鏡を掛けた聖南が居た。
こんなの、見惚れないはずがない!
「…………っっ」
「倉田ちゃん、目が♡になってんよ」
えっ? く、倉田ちゃん……!?
もしかして聖南、もう演技に入ってる!?
「色々考えたんだけど、設定あった方が楽しめんだろ」
「せ、設定……っ?」
目を丸くした俺に、眼鏡聖南は中指でクイと眼鏡を上げながらニヤリと笑う。
「そ。 俺は二十八歳の整形外科医。 父親の個人医院の跡継ぎで、まぁボンボンだな」
「はぁ……」
「葉璃は看護学校出たての二十歳。 高校で准看、その後正看取った新米ナース。 俺の医院に就職してすぐ二人は意気投合」
「……」
「付き合ってまだ半年でラブラブだ」
「…………」
「でもな、俺は他のナースから言い寄られまくってて、葉璃は患者やら医師からモーションかけられてて、お互いヤキモチ焼きまくりなわけよ」
「………………」
「て事で」
「…………っ!?」
途中からあんまり聞いてなかった!
そんなに細かい人物設定を作ってるなんて思わなかった。
えっと……聖南はボンボンのお医者さんで、俺が新米ナース?
二人は付き合ってて、お互いにヤキモチ焼き合ってる……こんな感じかな……?
「倉田ちゃん、今日の非常勤の宮下と何喋ってた?」
「み、宮下……って……」
恭也の事か!
な、なんかごめん……恭也……。
聖南の中でのイメプレ設定の中の登場人物に、恭也が入ってるみたい……。
ずいずいと俺をベッドルームに押し込みながら、聖南がドクターになりきり始めたから俺も合わせなきゃ……だよな。
「え、あの……今日の患者さんのカルテを持って行って、少しお話しただけ……です」
「その話した内容聞いてんだけど」
「なっ、内容……えぇっと……ハグしていいかって……」
「はぁ? ダメに決まってるよな? ハグなんてしてねぇよな?」
「………………」
「したのか?」
イメージを湧かせるなんて出来ないから、真実を織り交ぜつつさっきの光景を思い出す。
緊張で震える俺を出番前にいつも優しく抱き締めてくれる恭也は、「セナさん公認だから」と言ってほぼ毎回ハグしてくれるから……素直に頷いた。
「なんだよそれ……っ」
「……やっ……ちょっ……!」
早速ヤキモチを焼き始めた聖南に体を抱えられて、あっという間にベッドに押し倒された。
眼鏡の奥の瞳がギラギラしてる。
演技なの、……これ?
「最近あんま連絡してくんねぇよな? メッセージの返事も遅えし。 俺から宮下に乗り替えようっての?」
「そんな……っ、そんな事ない……!」
「じゃあなんでハグなんてすんだよ。 この体は誰のものだっけ、倉田ちゃん?」
現実との境が分からなくなってきた。
聖南、マジでヤキモチ焼いてない……?
ほっぺたに触れてくる聖南の手のひらの熱が心地良くて、その手に俺のも重ねて眼鏡の奥を見詰めた。
そんな事を言う聖南も、他のナースからいっぱい声掛けられてるんだろ。
面食いの聖南が面接して雇った(っていう設定にしとく)、美人揃いのナースばかりなのに……俺の方こそ、いつ鞍替えされるか分かんないんだよ。
「日向先生も、人の事は言えないでしょ」
「ひゅ、日向先生……っ! いいな、それ!」
「うちの病院は美人ナースが集まってるから、俺なんて脇役にしかならない……俺の方が、いつ捨てられるんだろって怖いよ……日向先生……」
聖南のイメプレ設定に完全に乗り切った俺を見て、麗しい瞳がスッと細められた。
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