必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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〜十月某日〜(全十話)

3♡〜ヤキモチ焼きなDr.聖南〜

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   ど、どういうつもりもこういうつもりもない!

   そんなに眉間に皺寄せて、怒ってる意味がまず分かんないんだけど……っ。


「あの……聖南さん、さっきから何をそんなに怒ってるんですかっ?」
「あ? 自覚ないの? 自覚してよ、頼むから」
「自覚? あ、ちょっ……!」


   壁ドンしてない方の手で、聖南が俺のナース服に触れた。

   この服はファスナーひとつで着脱できる。

   怒った顔のまま、胸元までファスナーを下ろした聖南の表情がさらに険しくなった。


「何これ。 何でこんな脱がせやすいんだよ。 すぐ乳首なんだけど。 舐めたいんだけど」
「も、もう! 離して下さい! 寒いっ」
「……あーやば。 ムラムラする」
「えぇ!? 局では絶対しないですからね! う、打ち合わせも行かなきゃだし!」


   目が、目がっ、聖南の目がギラギラしてる……!

   一目で聖南の欲情に気付いた俺は、急いでファスナーを上げて蹲った。

   本撮りの後、着替えてCの楽屋に来てってスタッフさんに言われてたから時間がないっていうのに、聖南が獣になろうとしている。

   ギラついた瞳で、蹲った俺と目線を合わせるように聖南もしゃがんだ。


「……葉璃、家でこれ着てくれる?」
「……これって、これ……?」
「そう、これ。 着てくれるなら今は我慢する」
「な、な、こ、これを……っ?」
「着てくれないんなら今ここで抱く」
「着ます!!」


   ここでするくらいなら、いくらでも着るっ。

   過去に二回も局の控え室でエッチしちゃった事があるけど、いつ誰に見付かるか分かんないからドキドキして集中出来なかったんだよ……!

   あ、……正直言うと最後の方はあんまり気にならなくなってるけど、集中出来ない事は確かだし、……と、自分に言い訳しとこう。

   俺の即答に少しだけ機嫌を直してくれた聖南は、改めて見ると今日もめちゃくちゃカッコいい。

   どれだけ顔が怒ってても、カッコいい。

   このドクターコートの魔力なのか、ほんとのお医者さんに叱られてるような気分になる。

   いいな……聖南ってやっぱ何着ても似合うんだなぁ。

   こうなったら、俺だけ着るんじゃなく聖南にも着てほしいな……って、あ。 そっか。

   いいこと思い付いちゃった。


「あの……俺がこれ着るなら、聖南さんも……それ着て下さい」
「ふっ……もちろん。 今日はイメプレすっから、打ち合わせの間イメージ膨らませとけよ」


   なんでだよ!って否定的な返事が返ってくるかと思ったら、大きく頷かれてビックリした。

   俺に感化されて、聖南もコスプレが好きになってきてるから二つ返事だったのは嬉しい。

   ここで襲われちゃう心配が無くなって、しかも聖南のお医者さんコスプレを家で堪能出来ると思うとニヤニヤしてしまうな……んっ?

   聖南、コスプレ、じゃなくて「イメプレ」って言った?


「イメプレ……? イメプレって何ですか?」
「イメージプレイ。 ドクターとナースになりきってヤるんだよ」
「えぇぇぇっ!? そんな……っ、無理ですよっ」
「やれば出来る♡ さっきのエロい目してくれたらそれでいい」
「……そ、そんなぁ……」


   イメプレって何なんだよ~っ。

   ただコスプレしてエッチするだけじゃなくて、なりきらなきゃいけないってどういう事……。

   そんなの……俺に出来るはずない。

   あ。 でもよく考えたら聖南も演技が苦手なんだし、早々にイメプレってやつは「やめよっか」の流れになるかもしれない。

   コスプレエッチは、いいと思う。

   すごく好きだ。

   聖南はどんな格好してても似合うから、あんまり見詰められると全身が熱くなってきちゃって困るんだけどね。


「またその顔してる。 やめろって」
「むむっ……!」


   ベッドの上でのドクター聖南を想像してムフッてなってたら、聖南に両サイドのほっぺたを押されて唇が尖った。

   これじゃ、喋れない。


「なんでそんなやらしい顔出来んの? あんま俺以外の奴を誘うなよ」
「どんな顔か分かりましぇん」
「ダメだな、まだ自覚が足りないのか。 十八歳の葉璃は今な、かわいーと綺麗の中間の塊なんだよ」
「なんでしゅかしょれ!」
「危なげな雰囲気と中性的な顔、つるつるすべすべな肌、くびれた腰、小さいのにぷりっとしたケツ、すげぇそそられる瞳……こんなもん男がほっとくわけねぇだろ。 俺に抱かれてやらしいフェロモン増したしな」
「も、離して下さいっ。 てかまたフェロモンの話してる!」


   ほっぺたをぶにってされてた腕を払って、訳分かんない事を言う聖南をジロッと睨んだ。

   聖南は俺達のオメガバースの夢見て以来、しょっちゅう「フェロモン出すな」って言ってくる。

   そんなの出てないって何回言っても聞く耳持たない。


「マジだよ、マジ。 あそこに居た奴らの何人が勃起したか……ムカつくー。 あいつら、俺の葉璃で勝手にムラムラしやがって……」
「聖南さん、あの……打ち合わせに……」
「葉璃も葉璃だからな! その男を狂わす見た目何とかしろよ。 狂うのは俺だけがいい!」
「な、何かよく分かんないけど……! 分かりました! とりあえず着替えて打ち合わせ行ってきますね」
「巻きてぇから俺も行くっつったろ。 着替えんの手伝ってやる」
「え……っ、ちょっ、待って……っ」


   再び目をギラギラさせてる聖南にファスナーを下ろされたけど、打ち合わせという仕事が残ってる今の俺はそう簡単に流されたりしない。


「聖南さんはあっちで着替えて!」


   俺の剣幕に唇を尖らせた聖南は、渋々俺から離れてCROWNの楽屋に私服を取りに行った。

   まったく……油断も隙もないんだから。



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