必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
236 / 541
39☆

39☆ 16・アキラとケイタ、そしてセナ×ハル

しおりを挟む



 懲りない荻蔵は、女と約束があるとニヤけつつパーティー終了を待たずに着替えて帰って行った。

 アキラ、ケイタ、セナの三人は、社長の懇願の視線もあってパーティー終了までそこに居た。

 その場に残っていた者達と軽く挨拶を交わしハルの部屋の前へとやって来たはいいが、先程から何となくノックをしているにも関わらず一向に返事がない。


「フロント行ってスペアもらってくるわ」
「え、貰えないんじゃない?  プライバシー何チャラで」
「他人だったら、だろ。  兄貴のフリすっから」
「ひぇ~そんな悪知恵を!」
「とりあえずノックし続けてみて」


 セナが当然のように嘘を吐きに行く背中を二人で見送った後、ケイタは言われた通りノックをし続けてみた。

 成長痛だと聞いて気になっていた二人は、着替える前にここへ寄ってハルを一目見てから帰るつもりだ。

 ここ何ヶ月かで、二人もセナ同様にハルを過保護に扱っている事に、当人達は気付けていなかった。


「…………はーい……」
「あ、ハル君!」
「ハル!」


 セナが戻る前にノックで目覚めたハルが、うさぎのままで目を擦りながら扉から顔を覗かせた。


「あれ、アキラさんとケイタさん……?  パーティー終わったんですか?」


 自然と部屋の中に入れてくれた事に、強固だったハルの隔たる壁はもはや全くないんだと、大袈裟にも二人は内心で喜んだ。

 シンプルなシングルルームには、シングルベッドとテレビ台、クローゼット、一人掛けソファしかなく、目を擦るハルは自然と、たった今まで寝ていたであろうベッドへ腰掛けた。

 いつもの大きな瞳は半分ほどしか開いておらず、今にもまた寝てしまいそうだ。


「終わったよ。  ハル君寝てたんだね」
「ごめんな、起こしちまって」
「いえ、……大丈夫です。  ……んー……っ」


 すでにハルはうさ耳を付けている事すら忘れていそうで、背伸びをして耳を揺らしている姿はとても高校生には見えなかった。

 アキラとケイタも上背があるので、余計にハルが小柄に見えてそう感じるのかもしれない。


「お、葉璃起きたの?」


 セナはスペアキーを持って勝手知ったるで部屋へと入ってきた。

 無事に兄貴に成りすます事が出来たらしい。


「ごめん葉璃、寝てたんだろ?  アキラとケイタがハルに会ってから帰るって聞かねぇから。  っつーか何この部屋。  上行こ、上」
「もうハル眠そうなんだからさぁ、移動させんなって」
「いいじゃん、ここでも。  寝られれば」
「抱っこしてくから大丈夫。  ほら葉璃、おいで」


 二人の制止も聞かず、セナは寝ぼけ眼の恋人へ両腕を広げると、うさ耳のままのハルは迷わずその腕に飛び込んだ。

 一度ぎゅっとその体を抱き締めて抱え上げると、セナは、アキラ達どうする?と二人に問い掛けた。

 ハルと話があるなら一緒に来るか、という事らしいが、アキラもケイタもさすがに空気を読んで首を振った。


「お邪魔だろうから帰るよ」
「ハル君に、またねって言っといて」
「おぅ。  じゃまた明後日な」
「…………アキラさん、……ケイタさん、……お疲れ様でした、……おやすみなさい……」


 穏やかな表情のセナの肩口から、意識が飛ぶ寸前のハルがペコッと頭を下げてきたので、アキラはハルの背中を、ケイタはだらんとなった腕をそれぞれ擦り、「おやすみ」と声を揃えて言った。

 バカップルを見送る最中、シングルルームの扉がパタン、と閉まる。

 その音がやけに大きく響いて、アキラとケイタはその物音で一気に酔いが覚めた気がした。

 穏やかそのものな温かい時間を、垣間見た。

 羨ましいとか、本当に大丈夫かよとか、外野が何を思っても無駄な世界が二人の中に確かに在る。

 セナもハルも、何だかとても愛おしい。

 二人にとってセナとはすでに兄弟のような間柄なので、そこに末っ子のハルという弟が出来た、家族が増えた……この温かな気持ちは、まさしくそんな感覚であった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...