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39☆ 2・アキラとケイタはセナハルの味方
しおりを挟むあれから数日が経ち、週末のラジオの生番組で三人が揃った際もセナはまだあまり元気がないように見えた。
アキラとケイタも、そんな様子には気付いていてもなかなか話を聞いてやれる時間が無かったので、今日はとことん付き合ってやろうと思った。
「何だよ、珍しいな」
会員制の小料理屋をセッティングしたのはアキラだ。
見るからに疲れ気味のセナは、眼鏡を掛けた姿で少し戸惑っている。
そんなセナの背中を押してケイタも着席すると、早速テーブル中央にビールジョッキが三つ置かれた。
「俺飲まねぇよ? 車だし。 ……痛てっ」
眉を顰めたセナが掘りごたつ内で足を組み、長い足故にどこかにぶつけたらしい。
痛がるセナの前に、アキラがドン、とビールジョッキを置いた。
「俺らも車だよ。 代行もう頼んであるから心配しないで飲め」
「いや……俺あんま酒好きじゃないのお前ら知ってんだろ? なんで飲ませようとすんの」
「ほら、乾杯もしないで駄々こねだしたよ。 このセナと付き合ってるハル君マジで尊敬する!」
「あ? なんだ急に。 ……あ、これ美味い」
ビールにはほんの少し口を付けるだけで、手を合わせてから料理に箸を付け始めて唸るセナの顔色が、ほんの少し良くなった気がする。
そこでアキラは、やっぱりなと溜め息を吐いた。
「セナ、お前またちゃんとメシ食ってなかったろ」
「あー? 食ってたよー」
「何を」
「………………コーヒー」
「食いもんじゃねぇ!」
成田から話は聞いていたが、どうやらあの一件以後、セナはハルと連絡を取れない状況に追い込まれていて、そして自らをも追い込んでいるらしかった。
セナ痩せてきてんだよねーと漏らした成田の一言に、アキラはいつかの抜け殻だったセナを思い出して慌てた。
ケイタとも相談し、二十一時から一時間放送の今日の生ラジオ後なら時間も取れるしいいのではとなり、今日となったのだ。
「ハルと連絡取ってねーの? セナがそうなる時って大体ハル不足の時だろ」
「あのモデルとの事でハル君に連絡しにくいの?」
二人の追及に、少量ずつ料理を口に運んでいたセナの手が止まる。
「……その話をしに来たのか?」
「セナの気持ちも分かるけど、突然連絡が取れなくなったハルの気持ちは考えた?」
「…………でも出来ねぇもんは出来ねぇ」
「なんでだよ。 ハル君、セナから連絡こなくなって泣いてたらどうすんの?」
ぐっと箸を握ってテーブルの上をジッと睨んでいるセナは今、「セナから連絡がこなくなって泣いているハル」を想像してジリジリしている事だろう。
「ハルからのメッセージは? 開いてないのか?」
「……開いてない」
「あーあ、じゃあ未読スルーなんだ。 ハル君は多分いま、こう思ってるね。 「セナさん、俺なんかよりキスしたモデルさんの方が良かったんだ。 俺、捨てられちゃったんだ」」
「おい、やめろって」
まじまじとケイタを見ていたセナは苦笑し、自身の左耳のピアスを玩び始めた。
ケイタのハルの真似は何だか口調が似ていて、見ていたアキラは吹き出しそうになるのを懸命にこらえていた。
人知れずハルの真似を練習していたのだろうか。
それほどうまかった。
アキラは二杯目もビールを、ケイタの二杯目はウーロンハイをオーダーしたが、セナのビールジョッキは半分も減っていない。
だがちょこちょこと料理には手を付けている事で、ひとまず二人は安堵した。
「あんまり長くほっとくと、誰かにハル奪われるよ」
「そうだよ。 とにかく説明してあげないとハル君可哀想」
「……説明ったってなぁ……」
「何をそんなに躊躇するわけ?成田さんから聞いた話じゃ、例の件はもうほとんど解決に向かってんだろ? ……あ、ども。 空いてるとこに置いててくれればいいっす」
話の途中で酒を運んで来た女性スタッフが、三人を見回して一瞬驚いた様子を見せた。
会員制と言うだけあってスタッフも綺麗どころが揃っていて、芸能人の客も少なくないようで騒ぐような真似はしない。
だがさすがにCROWN三人が居るとなると落ち着かないようでチラチラと三人を伺いつつも、最後にはセナに熱い視線を寄越しているが、低く唸っているセナはまるで気が付いていない。
あまり疎い方ではないセナが、ハル不足に陥るとこうしてぼんやりしてしまうから、アキラにとっては歯痒くて仕方が無かった。
なんの事はない。
逃げずにすべてを話してしまえば、思ったよりしっかりしているハルなら受け止めてくれるはずだ。
一体何がセナにストップをかけさせているのだろうかと、そこを知るために今日この場を作った。
アキラは以前にも似たような状況でセナに発破をかけた事を思い出して、苦笑してしまう。
「…………嫌いって言われんのが怖えんだよ」
「───はぁ?」
「───はぁ?」
「腹立つな。 二人で声揃えやがって」
セナはそう言って、不満そうにビールではなくお冷やを飲んでいる。
苦虫を噛み潰すように言いにくそうにしていたが、正直、アキラもケイタも「何だそれ」状態だった。
「どういう事? ハル君から嫌いって言われたの?」
「撮影の日に俺が葉璃から怒られたってのは知ってんだろ? そん時に、ちゃんと仕事しない聖南さんは嫌いですって、……言われた」
「…………ぶふっ」
「こらケイタ、笑ってやるな」
「だってマジで可愛いなーと思って! ハル君もセナも!」
ウーロンハイ片手に笑いを堪えきれないケイタが、勢いに任せてセナの肩に手をやった。
嗜めたアキラも吹き出す寸前だったけれど、セナは物凄く真面目な顔で自身の胸元をガシッと掴んでいる。
「何が可愛いんだよ! 俺マジであの瞬間ここに穴開いたんだからな!」
「ぷっ……」
真剣に訴えてくるセナに、ついにアキラもこらえきれなかった。
まるで青少年の恋バナを聞いているような気になってきて、アキラとケイタは、それほど深刻な悩みじゃなくて良かったと目尻の涙を拭いながら思っていた。
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