必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
222 / 541
39☆

39☆ 2・アキラとケイタはセナハルの味方

しおりを挟む



 あれから数日が経ち、週末のラジオの生番組で三人が揃った際もセナはまだあまり元気がないように見えた。

 アキラとケイタも、そんな様子には気付いていてもなかなか話を聞いてやれる時間が無かったので、今日はとことん付き合ってやろうと思った。


「何だよ、珍しいな」


 会員制の小料理屋をセッティングしたのはアキラだ。

 見るからに疲れ気味のセナは、眼鏡を掛けた姿で少し戸惑っている。

 そんなセナの背中を押してケイタも着席すると、早速テーブル中央にビールジョッキが三つ置かれた。


「俺飲まねぇよ?  車だし。  ……痛てっ」


 眉を顰めたセナが掘りごたつ内で足を組み、長い足故にどこかにぶつけたらしい。

 痛がるセナの前に、アキラがドン、とビールジョッキを置いた。


「俺らも車だよ。  代行もう頼んであるから心配しないで飲め」
「いや……俺あんま酒好きじゃないのお前ら知ってんだろ?  なんで飲ませようとすんの」
「ほら、乾杯もしないで駄々こねだしたよ。  このセナと付き合ってるハル君マジで尊敬する!」
「あ?  なんだ急に。  ……あ、これ美味い」


 ビールにはほんの少し口を付けるだけで、手を合わせてから料理に箸を付け始めて唸るセナの顔色が、ほんの少し良くなった気がする。

 そこでアキラは、やっぱりなと溜め息を吐いた。


「セナ、お前またちゃんとメシ食ってなかったろ」
「あー?  食ってたよー」
「何を」
「………………コーヒー」
「食いもんじゃねぇ!」


 成田から話は聞いていたが、どうやらあの一件以後、セナはハルと連絡を取れない状況に追い込まれていて、そして自らをも追い込んでいるらしかった。

 セナ痩せてきてんだよねーと漏らした成田の一言に、アキラはいつかの抜け殻だったセナを思い出して慌てた。

 ケイタとも相談し、二十一時から一時間放送の今日の生ラジオ後なら時間も取れるしいいのではとなり、今日となったのだ。


「ハルと連絡取ってねーの?  セナがそうなる時って大体ハル不足の時だろ」
「あのモデルとの事でハル君に連絡しにくいの?」


 二人の追及に、少量ずつ料理を口に運んでいたセナの手が止まる。


「……その話をしに来たのか?」
「セナの気持ちも分かるけど、突然連絡が取れなくなったハルの気持ちは考えた?」
「…………でも出来ねぇもんは出来ねぇ」
「なんでだよ。  ハル君、セナから連絡こなくなって泣いてたらどうすんの?」


 ぐっと箸を握ってテーブルの上をジッと睨んでいるセナは今、「セナから連絡がこなくなって泣いているハル」を想像してジリジリしている事だろう。


「ハルからのメッセージは?  開いてないのか?」
「……開いてない」
「あーあ、じゃあ未読スルーなんだ。  ハル君は多分いま、こう思ってるね。  「セナさん、俺なんかよりキスしたモデルさんの方が良かったんだ。  俺、捨てられちゃったんだ」」
「おい、やめろって」


 まじまじとケイタを見ていたセナは苦笑し、自身の左耳のピアスを玩び始めた。

 ケイタのハルの真似は何だか口調が似ていて、見ていたアキラは吹き出しそうになるのを懸命にこらえていた。

 人知れずハルの真似を練習していたのだろうか。

それほどうまかった。





 アキラは二杯目もビールを、ケイタの二杯目はウーロンハイをオーダーしたが、セナのビールジョッキは半分も減っていない。

 だがちょこちょこと料理には手を付けている事で、ひとまず二人は安堵した。


「あんまり長くほっとくと、誰かにハル奪われるよ」
「そうだよ。 とにかく説明してあげないとハル君可哀想」
「……説明ったってなぁ……」
「何をそんなに躊躇するわけ?成田さんから聞いた話じゃ、例の件はもうほとんど解決に向かってんだろ?  ……あ、ども。  空いてるとこに置いててくれればいいっす」


 話の途中で酒を運んで来た女性スタッフが、三人を見回して一瞬驚いた様子を見せた。

 会員制と言うだけあってスタッフも綺麗どころが揃っていて、芸能人の客も少なくないようで騒ぐような真似はしない。

 だがさすがにCROWN三人が居るとなると落ち着かないようでチラチラと三人を伺いつつも、最後にはセナに熱い視線を寄越しているが、低く唸っているセナはまるで気が付いていない。

 あまり疎い方ではないセナが、ハル不足に陥るとこうしてぼんやりしてしまうから、アキラにとっては歯痒くて仕方が無かった。

 なんの事はない。

 逃げずにすべてを話してしまえば、思ったよりしっかりしているハルなら受け止めてくれるはずだ。

 一体何がセナにストップをかけさせているのだろうかと、そこを知るために今日この場を作った。

 アキラは以前にも似たような状況でセナに発破をかけた事を思い出して、苦笑してしまう。


「…………嫌いって言われんのが怖えんだよ」
「───はぁ?」
「───はぁ?」
「腹立つな。  二人で声揃えやがって」


 セナはそう言って、不満そうにビールではなくお冷やを飲んでいる。

 苦虫を噛み潰すように言いにくそうにしていたが、正直、アキラもケイタも「何だそれ」状態だった。


「どういう事?  ハル君から嫌いって言われたの?」
「撮影の日に俺が葉璃から怒られたってのは知ってんだろ?  そん時に、ちゃんと仕事しない聖南さんは嫌いですって、……言われた」
「…………ぶふっ」
「こらケイタ、笑ってやるな」
「だってマジで可愛いなーと思って! ハル君もセナも!」


 ウーロンハイ片手に笑いを堪えきれないケイタが、勢いに任せてセナの肩に手をやった。

 嗜めたアキラも吹き出す寸前だったけれど、セナは物凄く真面目な顔で自身の胸元をガシッと掴んでいる。


「何が可愛いんだよ!  俺マジであの瞬間ここに穴開いたんだからな!」
「ぷっ……」


 真剣に訴えてくるセナに、ついにアキラもこらえきれなかった。

 まるで青少年の恋バナを聞いているような気になってきて、アキラとケイタは、それほど深刻な悩みじゃなくて良かったと目尻の涙を拭いながら思っていた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...