215 / 541
38❥
38❥2
しおりを挟む今日の一発目の仕事はバラエティー番組のロケだ。
聖南は自らの運転で県境の現場までやって来ると、成田が慌てた様子で車まで駆け寄ってきた。
手にはいつものタブレット、もう片方の手にはスマホを握り何やら困り顔である。
無理やり午前休をもぎ取ったのだから成田があたふたしていてもおかしくないのだが、聖南は葉璃との一件ですでに気持ちを切り替えていたので、至って冷静であった。
サングラスを掛けたまま、聖南は車から降りる。
「何だよ、そんな変な顔して」
「セナ! ヤバイって~。 麗々の事務所とマネージャーからひっきりなしに電話が~!」
「それで両手塞がってんのな」
「おいおい、張本人なのにそんなゆったりしやがって!」
「分かったよ、次かかってきたら俺が出てやるから。 衣装持ってきて」
着替えどこでしたらいいの?と聞きながら、成田を引き連れてロケ先である旅館へと入って行く。
女将さんやら仲居さんやらが聖南の来訪に黄色い悲鳴を上げながら駆け寄って来たので、それらにはそつなく笑顔で応対した。
聖南はひとまずロビーの椅子に腰掛け、いつ電話がきてもいいように、受け取った成田のスマホに自身のイヤホンを差した。
葉璃との約束で、自分で事態を収集しなければと考えを変えた事によって、成田を困らせてしまっている案件には責任を持つ事にする。
聖南も麗々も元通りに仕事ができるようにならなければ、葉璃との約束を守れたとは言い難い。
気は進まないが、麗々からの謝罪も受けなければならないだろう。
顔を見るとまたキレてしまいそうだったが、そういう時は葉璃のあの魅惑の上目使いを思い出して怒りを削げばいい。 我ながらいい事を思い付いた。
「セナ、電話出てやるって言うけど、まだ怒ってんだろ!? そんな対応されたら困るから俺が対応してるんだよー!」
「怒ってはいるけど、ちゃんと応対してやっから。 カップル撮影断るっつったのも、撤回してやる」
「ほんとか!? 昨日の今日で冷静になれないって今朝言ってたのに、どうしたんだ!」
「葉璃に怒られたから」
「…………葉璃、……葉璃って、あの葉璃君?」
「そ。 あの葉璃クン」
成田は自分と葉璃の仲を知っていると思い込んでいたが、なんでそこで葉璃の名前が?というように不思議そうに見られ、聖南も首を傾げる。
直接話した事はないため、成田が二人の関係をきちんと理解しているのか分からなかった。
「成田さん、俺と葉璃の関係知ってるよな?」
「関係って……? えーっと……実は詳しく知らないんだよね。 影武者の秘密を共有する者同士?」
「…………あれ、話してなかったっけ?」
アキラとケイタに葉璃との事を話した時そこに成田もいたような気がするが、どうも以前のケイタのように、大事な場面で成田も不在で、重要な事実を知らないままここまできたようだった。
これからまだ付き合いの長そうな成田には、至るところで協力を仰がなければならないかもしれないので、きちんと話しておいた方が良さそうだ。
聖南は指先で成田を呼び、耳打ちする。
「その葉璃クンと俺、付き合ってんの。 恋人同士」
「……え、…………えぇぇぇぇえぇ!? ゲホッゲホッ……」
「んな大声出すからじゃん。 すみません、水一杯貰えます?」
驚いて腰を抜かした成田が咳込んでしまったので、聖南はチラチラとこちらを気にしていた仲居さんを右手を上げて呼んだ。
12
お気に入りに追加
314
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる