必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 今日の一発目の仕事はバラエティー番組のロケだ。

 聖南は自らの運転で県境の現場までやって来ると、成田が慌てた様子で車まで駆け寄ってきた。

 手にはいつものタブレット、もう片方の手にはスマホを握り何やら困り顔である。

 無理やり午前休をもぎ取ったのだから成田があたふたしていてもおかしくないのだが、聖南は葉璃との一件ですでに気持ちを切り替えていたので、至って冷静であった。

 サングラスを掛けたまま、聖南は車から降りる。


「何だよ、そんな変な顔して」
「セナ!  ヤバイって~。  麗々の事務所とマネージャーからひっきりなしに電話が~!」
「それで両手塞がってんのな」
「おいおい、張本人なのにそんなゆったりしやがって!」
「分かったよ、次かかってきたら俺が出てやるから。  衣装持ってきて」


 着替えどこでしたらいいの?と聞きながら、成田を引き連れてロケ先である旅館へと入って行く。

 女将さんやら仲居さんやらが聖南の来訪に黄色い悲鳴を上げながら駆け寄って来たので、それらにはそつなく笑顔で応対した。

 聖南はひとまずロビーの椅子に腰掛け、いつ電話がきてもいいように、受け取った成田のスマホに自身のイヤホンを差した。

 葉璃との約束で、自分で事態を収集しなければと考えを変えた事によって、成田を困らせてしまっている案件には責任を持つ事にする。

 聖南も麗々も元通りに仕事ができるようにならなければ、葉璃との約束を守れたとは言い難い。

 気は進まないが、麗々からの謝罪も受けなければならないだろう。

 顔を見るとまたキレてしまいそうだったが、そういう時は葉璃のあの魅惑の上目使いを思い出して怒りを削げばいい。 我ながらいい事を思い付いた。


「セナ、電話出てやるって言うけど、まだ怒ってんだろ!?  そんな対応されたら困るから俺が対応してるんだよー!」
「怒ってはいるけど、ちゃんと応対してやっから。  カップル撮影断るっつったのも、撤回してやる」
「ほんとか!?  昨日の今日で冷静になれないって今朝言ってたのに、どうしたんだ!」
「葉璃に怒られたから」
「…………葉璃、……葉璃って、あの葉璃君?」
「そ。  あの葉璃クン」


 成田は自分と葉璃の仲を知っていると思い込んでいたが、なんでそこで葉璃の名前が?というように不思議そうに見られ、聖南も首を傾げる。

 直接話した事はないため、成田が二人の関係をきちんと理解しているのか分からなかった。


「成田さん、俺と葉璃の関係知ってるよな?」
「関係って……?  えーっと……実は詳しく知らないんだよね。  影武者の秘密を共有する者同士?」
「…………あれ、話してなかったっけ?」


 アキラとケイタに葉璃との事を話した時そこに成田もいたような気がするが、どうも以前のケイタのように、大事な場面で成田も不在で、重要な事実を知らないままここまできたようだった。

 これからまだ付き合いの長そうな成田には、至るところで協力を仰がなければならないかもしれないので、きちんと話しておいた方が良さそうだ。

 聖南は指先で成田を呼び、耳打ちする。


「その葉璃クンと俺、付き合ってんの。  恋人同士」
「……え、…………えぇぇぇぇえぇ!?  ゲホッゲホッ……」
「んな大声出すからじゃん。  すみません、水一杯貰えます?」


 驚いて腰を抜かした成田が咳込んでしまったので、聖南はチラチラとこちらを気にしていた仲居さんを右手を上げて呼んだ。




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