必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 俺は、お店の駐車場でテイクアウトしに店内に入って行った聖南を待っていると、遠目に見覚えのある人物が店内から出て来た。

 視力がいい俺はその人物が誰だかすぐに分かって、咄嗟に顔を背ける。

 車内だし気付かれないかと思って知らん顔してたのに、その人物も俺の事を見付けたのかどんどんこちらに近付いてきた。

 ちなみに、隣には知らない女性が居る。


「お、やっぱハルじゃん!  おーい」


 窓の外で手を振るのは、声が大きくてキツネ目の荻蔵さんだ。

 どうも、と車内で頭を下げると、窓を開けろというジェスチャーをしている。


「ハル、ハル~開けて」
「…………こんばんは」


 寒いし話す事もないし知らない女の人が居るしで開けたくなかったのに、屈託のない顔を向けられては仕方が無かった。

 知らない女の人、に関してはもしかして荻蔵さんの彼女かと思うと無下にも出来ない。


「どうしたんだ、こんな時間に?  この車って誰の?」
「この子だれ~? 可愛い~。  こんばんは~」


 荻蔵さんの問いと女性の挨拶が見事に被った。 俺はどちらに対応していいか分からなくて、とりあえずペコッと頭を下げる。


「いい車乗ってんなぁ、セナさんのだろ?  今中いんの?」
「……はい。  ……あけましておめでとうございます」
「今?  ウケる。  あけましておめでとう、今年もよろしく……なんつって。  なぁなぁ、それって中身パジャマ?  やべぇ、やっぱ十七には見えねー!」
「………………」


 ……駄目だ、完全に荻蔵さんペースになってる。

 パジャマ姿をからかわれてムッとしたけど、荻蔵さんの彼女?も興味津々で俺を見てくるから怒った態度も出来ない。

 当たり障りなく乾いた笑いを漏らしても、どうせ荻蔵さんはのらりくらりだ。


「一言多いの健在ですね……」
「だって見てみろよ、めちゃくちゃ可愛いくない?  こいつこれで十七なんだよ」
「え~ほんと?  事務所の子なの?  可愛いね~♡」
「だろ? 俺の中では年齢詐称疑惑あるけどな」
「キャハハ……! 斗真、また一言多いって言われちゃうよぉ?」
「………………」


 そろそろ窓閉めていいかな……。

 入ってくる冷気と、二人のテンションに付いていけない。 荻蔵さんと彼女らしき人は、俺をネタに笑い合っている。

 その背後から聖南が戻って来るのが見えて、心底助かったと思った。

 荻蔵さんはもう慣れてきてたけど、隣の知らない女性からの視線はストレス以外の何ものでもない。

 眼鏡姿のかっこいい聖南が、俺に絡んでる荻蔵さんを見付けて眉間に皺を寄せている。

 後部座席にテイクアウトした料理の入った紙袋を置いた聖南が、おもむろに荻蔵さんの元へ歩んだ。


「何」


 聖南のブレない一言目に、俺は思わず吹き出してしまった。

 誰が相手でも同じ態度、姿勢……こういうところほんとに好きだなぁ。


「お疲れっす、セナさん」
「え!? CROWNのセナ!?  どういう事っ? ねぇ斗真! どういう事ぉ!?」


 相変わらず荻蔵さんは聖南には動じてないけど、女性は分かりやすくたじろぎ、荻蔵さんが隣に居るにも関わらず瞳を♡にして聖南を見ている。

 やっぱそうなるよね。 聖南かっこいいもん。 

 ただちょっとだけ、ヤダな……と下唇を噛みそうになったのは内緒だ。


「馴染みの店が一緒だなんて最悪」
「セナさんもここ好きなんすね!  店入ればいいのに」
「家でゆっくり食うからいんだよ。  葉璃、窓上げていいよ、寒いだろ」
「はーい。  荻蔵さん、それじゃ失礼します」


 聖南のお許しが出た事で、俺は即座に窓を上げて荻蔵さんと女性との間に透明な壁を隔てた。

 良かった。 そろそろ指先が凍えそうだった。

 窓を閉めても外の声は漏れ聞こえてくるから、俺は聞いてないフリでしっかり聞き耳を立てておく。


「セナさん、生も素敵ですね~♡  その子とどういうご関係なんですかぁ?」
「あ?  ……誰」
「俺の女、ですかね」


 荻蔵さんは隣の女性をやはり彼女だと言ったけど、あんなに分かりやすく聖南にクラクラッときてて彼氏として嫌じゃないのかな。

 聖南は聖南で仏頂面にもほどがある。

 彼女が興味津々で聖南と俺を交互に見ているのが分かると、車内の俺も気まずくてしょうがない。 隔てた壁は所詮、透明だしね……。


「その女が俺に色目使ってきてるから、帰ったらちゃんと躾けとけ。  俺と葉璃との関係は荻蔵に聞いて」


 じゃな、と言うと聖南は車に乗り込んできて、視線で聖南を追っていた二人を残し構わずアクセルを踏んだ。

 聖南も彼女からの視線の熱さに辟易だったみたい。


「……荻蔵さん、彼女居たんですね」
「どうだか。  あいつも相当遊んでっからな」


 眼鏡を中指で上げた聖南は、自宅駐車場へと入ってバックで駐車した。

 ルームミラーとサイドミラー、バックモニターまで見ながらこの大きな車を器用に一度で入れてしまうと、俺の頭を撫でて「降りよっか」と言ってきた。

 車を降りて聖南に手を引かれてる間、何となく見覚えがあるようなないような荻蔵さんの彼女の名前が思い出せなくて、すごくモヤモヤっとする。


「……さっきの女の人、どっかで見た事ある気が……」
「女優の木村奈美だろ。  荻蔵は女優とばっか遊んでるって有名だ」
「あぁ!  そうだ!  ……へぇ~荻蔵さん、遊んでそうなのはほんとだったんだ。  雰囲気が前の聖南さんと一緒ですもんね」
「なんだ?  それはぜってぇ褒めてないだろっ」
「あ、まぁ。  早い話が、チャラいって事です」
「葉璃……あとで覚えとけよ……」
「えぇぇ、何でですか!  ほんとの事言っただけなのに!」
「俺はチャラくねぇ!」
「チャラかったです!  今は落ち着きましたけどっ」


 料理を並べながら、ひとしきり聖南とこんな言い合いをして笑った。

 聖南は何故かチャラいって言うとすごく嫌がってムキになるから、面白くて。

 いつもからかってくる聖南に、小さな小さなお返しだ。



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