必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
196 / 541
35♡

35♡4

しおりを挟む



「お腹空いたー…」


 出番前にCROWNの楽屋にあったたくさんのお弁当の中から、一つ選んで食べたのがそういえば夕方だった。

 変な時間に食べたから今頃になって空腹が襲ってきてしまって、頭がボーッとする。

 新しい年を前に街がキラキラして賑やかなせいで、目も冴えていけない。


「そうだよな、待たせてごめんな。  ホテルのレストラン予約したから、今から向かう。  部屋も取った」
「え、ほんとですか!?  あ、でも、薬忘れた……」
「俺が持ってるから大丈夫」
「すごい、聖南さん」
「何年葉璃と一緒にいると思ってんの」


 薬を持ってきてる用意周到さと、何故かもう何年も付き合ってるかのような言い草に面食らう。

 さっきまでそんな素振り見せていなかったから、レストランとホテルも突発的に予約してくれたんだ。

 もしかして、俺が外でご飯食べたいって言ったから……かな。


「…………まだ出会って四ヶ月ですけど」
「そっか、まだそんなだっけ」


 聖南がいつもの調子に戻ってる事が、その笑顔からも分かってホッとした。

 聖南と過ごす年越しなんて、すごくワクワクする。

 新しい年の一秒目を大好きな人と過ごせるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。






 連れて来られたホテルは、一昨日パーティーが開かれたホテルよりもさらに豪華な佇まいで、俺は雰囲気に圧倒されて空腹が見事に飛んでいった。

 恭しく招き入れられて中に入ると、普段着な俺達は浮きまくっててそれにもヒヤヒヤしてたのに、聖南の顔を見るや否や小走りでやって来たホテルスタッフにレストランへと誘導された。

 最上階のレストランは年越しにムードを添えたいカップルや年配の夫婦で満席だったけど、俺達は周りとは隔離された個室のような場所へ通されて完全に怖気付いた。


「せ、聖南さん、俺、超場違いっ。  帰りたい!」


 対面してる聖南に身を乗り出して小声で助けを求めるも、真顔で「心配すんな」としか言ってくれない。

 レストランの足元まで拓けた窓からは素晴らしい夜景が見えてるのに、こんなところに連れて来られるなんて知らなかった俺は、めちゃくちゃ軽装なもんだからビクビクしながら着席した。

 聖南に帰る気がないなら、俺も帰れない。


「……綺麗、ですね。  ……みんなもうカウントダウンしてるのかな」
「かもな。  あと何分だっけ……あ、二分前だ」
「あと二分…………」


 もう間もなく、一年が終わる。

 鬱々と過ごしたこれまでが、たった四ヶ月で激変した俺の人生。

 いきなり聖南に捕まり、羽交い締めにされて、もがいて逃げ出して……また捕まった。

 いや、捕まりに行った、のかもしれないな。

 少しずつ聖南を知っていくうちに、いつの間にか俺は聖南の虜になってしまっていた。

 この人が居なきゃ生きていけない、なんて、そんな風に想える人など現れるはずがないと悲観すらしていたのに。

 何も知らずに窮屈な殻の中で生きていた俺を全力で追い掛けてくれた聖南が、目の前で優雅にシャンパンを飲んでいる。

 テレビでしか見た事がないような細長いグラスを、綺麗な指先で持って。


「葉璃と初めて過ごす年越しだろ。  忘れられなくしたかった」
「………………」


 ちょっと慌ただしかったけど、と、シャンパンを瞳に映したまま照れたように言う横顔がほんのり色付いてるのは、アルコールのせいなのか、照れのせいなのか。

 見惚れるほどかっこいいその様を見詰めていると、シャンパンを置いた聖南がふと時計を見て立ち上がる。

 そしてこのテーブル担当のウエイターに「五分後に料理お願い」と耳打ちで言い伝えていた。

 かしこまりました、とウエイターが個室前から居なくなったのを確認し、聖南はゆったりと俺のそばまでやって来る。

 緊張した面持ちの聖南に、どうしたんですか、と問い掛ける寸前───。


「三……二……一……」
「…………っっ……」


 聖南が椅子の背凭れとテーブルに手を付いて俺を囲うとカウントダウンし始めて、そういう事かと思ってニッコリしていたら、0の前に熱いキスを受けた。


「んっ……」


 こ、こんなとこで!と俺が狼狽えたのは一瞬だけで、何だか必死に俺の唇と舌を味わっている聖南からのキスに夢中になる。

 いつも余裕たっぷりで、キスの最中でも構わず俺の事をジッと見詰めてくる聖南が、少しだけ切羽詰まってるように感じた。


「……葉璃、好きだよ。  愛してる」
「…………はい。  ……俺も、好きです」


 本物のアルコールの味が口の中に残っていて、すごく照れながら俺も応えた。

 最後におでこに軽くキスしてきた聖南は、席に戻ってまたシャンパンに口を付けている。

 照れくさくて顔を見られない。

 でも俺はちょっとだけ、グラスを傾けている聖南を盗み見た。

 さっきよりほっぺたが赤い気がする……あの聖南が、盛大に照れているように見えた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...