必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 俺達の事を知ってるアキラさんとケイタさんの前だからって、聖南の執拗な可愛がりはどうかと思う。

 CROWNのツアーに同行するなんて相当大切で重大な事を、日常会話みたいなノリで告げられたけど、どういう事なんだってみんな頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。


「それ社長には話通してんの?」
「まだ。  でも通すよ、メリットしか言わねぇし」


 離れたばかりの聖南がまた俺の肩に腕を回してきたけど、もう放っておく事にした。

 アキラさんとケイタさんも気にならなくなってきたみたいで、会話に集中している。


「名案だとは思うけど、ハル君と恭也君は今から俺らの振り付け覚えるって事だろ?  それって過酷過ぎない?」
「全部やらせるわけじゃねーよ。  俺らのデビュー曲と、夏に出した曲の二曲だけだ。  恭也はうちのレッスン生だったからデビュー曲はかじってんだろうし、葉璃も半分は振り付け体に入ってる」
「えっ、ハル、覚えたのか?  CROWNの曲」


 続々と飛び出す聖南の驚きの発言に、頭が付いていかない。

 恭也は分からないけど、俺はCROWNの曲を覚えた事なんかないのに。


「全然ですよ!  聖南さん、何言い出すんですかっ」
「俺ら見ながら振り付け真似してたじゃん。曲流したら多分体は動くと思うよ」
「え…………」
「気付いてなかったのか?  ならマジでやれるよ、頭より先に体が動くから。  振り付け覚えんの早えしな、葉璃は」


 そんな事してたっけ……と視線を宙に彷徨わせていると、聖南がまたも俺の左耳付近をフンフンと嗅ぎだした。

 さっきから何なんだろ、これ……。

 ちゃんと出番が終わってからシャワー浴びたから汗臭くはないはずなのに、しつこく嗅いでたまに耳にキスしてくる。

 離れようと体を反対に傾けても「逃げるな」って言われて引き戻されるし。

 家に居るときと同じようにしてるけど、ここには目の前にアキラさんとケイタさんが居るんだから、ちょっとは自重してほしい。


「……話は分かった。  俺は賛成」
「俺も。  ハル君と恭也君の負担にならないなら、いい事だと思う。  ライブの感覚ってテレビとはまた一味違うから、二人の成長材料になればいいね」


 ケイタさんにニコリと微笑まれ、俺も控えめに笑みを返した。

 聞くところによると、一昨日のパーティーから今日に渡って様々な場面で二人には助けてもらっていて、俺達の事を知ってる安心感からかやっと目を見られるようになってきた。

 聖南も、アキラさんとケイタさんには絶大なる信頼を寄せているみたいで、足を組み替えてふっと笑う。


「二人ならそう言ってくれるって思ってた。  デビューすんのが葉璃達だからって贔屓するわけじゃねぇよ、そこは分かってくれ」
「あぁ、分かってる。  社長から頼まれた事だから、だろ?」
「セナの企画や提案が間違ってた事ないからね。  俺達は付いてくよ」


 聖南の言う事が俺達のデビューの後押しになるならと、アキラさんもケイタさんも納得して解散となった。

 どうやら俺は、恭也と共にCROWNのツアーに参加するみたいだ。

 まだ本決まりじゃないにしても、聖南が発案者なら意見が通るのは確実で、ハルカとしての影武者を終えてもまたさらに忙しくなりそうな予感に、俺は複雑な思いを胸に顔を引き締めた。




 その日は帰宅後も聖南の様子はおかしかった。

 影武者に気を取られてちょっと脇に置いてた、昨日の聖南の過去の話。

 想像を絶する孤独の中で聖南が生きてきた事を知って、俺は受け止めきれずに泣いてしまって、気が付いたら昼前だった。

 聖南がヤンチャし過ぎてお父さんと仲が悪いのかな、くらいにしか思っていなかった俺は、一度も愛情をかけてもらえなかったと聞いて胸が痛くてしょうがなかった。

 ソファの定位置に座ると昨日の話がまた蘇ってきて、様子が変な聖南が遠慮なしにすり寄ってくるから、俺はその大きな体を抱き寄せて頭を撫でてやる。


「葉璃ー……」
「……はい?」
「んや、呼んだだけ」
「そうですか」


 きっと、俺に打ち明けるのもすごく嫌だったのかもしれない。

 なのに俺が何も知らないからって、昔の写真見せて、だなんて無神経な事を言っちゃったから、聖南は過去をさらけ出さなきゃいけなくなったんだ。

 人は誰でも、言いたくない秘密を一つや二つは抱えてるはずで。

 聖南も、その大きな秘密を守ろうとしてたはずで。

 俺が聞いてしまって良かったのかなって、考えナシだった昨日の言動を今になって反省してる。

 いつだったか、お父さんと出くわした日に聖南から気落ちした声で連絡を貰った時は何事かと思ったけど、話を聞いた今なら、あの時の聖南の戸惑いが痛いほどよく分かった。

 言葉にはしなくても、お父さんからの愛情が欲しかったんだ、聖南は。

 でもそれは叶わなくて、これからも叶うことはなくて。

 それがどれだけ虚しくて切ない事か、俺には到底分かってあげられない。

 すごくもどかしい。


「……聖南さん、俺なんかが、……聖南さんと居ていいんですか?」


 愛情を受けてこれなかった聖南は、家族というものに飢えている。

 俺に過去をさらけ出した今、聖南はこの先、家庭に強い憧れを抱いていく気がした。


「…………何、急に」
「……いえ、何でもないです」


 ピクッと体が動き、ゆっくり俺の顔をジッと見てきた聖南は無表情で気持ちが読み取れない。

 いつもの聖南ではない事は、さっきの楽屋で甘えたように俺から離れなかった事からも分かってたけど、たぶん昨日の話が相当に尾を引いてる。



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