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しおりを挟む聖南は俺の体にGPSでも埋め込んでるんじゃないかな。
そう疑ってしまうほど、聖南はいつも俺の元へ駆け付けてくれる。
仏頂面で無言のまま、聖南は楽屋内へと入ってきて、佐々木さんから遮るように俺の前に立った。
「聞いてたでしょう? 可哀想に、俺のせいで昨日すごく悩んだみたいだからね……謝っておきました」
背が高い佐々木さんさえも見上げなければならない高身長な聖南は、高い位置からふーっと息を吐くと、穏やかな声で問うた。
「……俺が生半可な気持ちで葉璃と付き合ってると思ってる?」
「……うーん。 申し訳ないですが、半々ですかね。 葉璃は夢中のようですけど、セナさんは過去が過去ですから」
「そこはな、まぁ何とも言えねぇよ、俺だって。 昔に戻ってやって来た事ぜんぶ消すとか出来ねぇし。 葉璃にもそこはめちゃくちゃ悩ませちまった。 けどな、俺はもうコイツが居ないと生きてけねぇんだよ。 葉璃が居ないとメシも食わねぇし眠れなくなってっから、死へまっしぐらなんだ」
「……葉璃の前ですが、この際だから言います。 女性も抱けるならそちらに行った方がよくないですか? 葉璃を傷付けないという保証はありませんよね?」
「あー……女はもう抱けねぇなぁ。 葉璃とさっきキスした時、口紅の味したんだよ、なっ? あれ超ヤだったし、偽物おっぱい付けてたけど触ろうとも思わなかったんだ。 不思議だよなぁ。 いつもの葉璃がいいって思ってたから」
「……聖南さんっ」
なっ?って同意を求めるように振り向かれても、俺が佐々木さんの前で頷くわけないじゃんっ。
キスした時口紅の味がした……なんて、ハルカの姿でキスしたって直接バラしてるようなもんだ。
「あぁ……それでか。 メイクの子達がザワついてたよ」
「へっ!?」
嘘だ、もしかして、口紅の種類が違うのバレてたのか!?
「ハルカのリップ、あれじゃなかった気がする。 って言ってたから、妙だと思ったんだ。 彼女達はプロだからね、何がどう変わったか見たらすぐ分かるんだろう」
「……うぅ……佐々木さん、何か聞かれたらうまく誤魔化しといて下さい、お願いします……」
聖南の背後から顔だけ出してごめんなさいポーズをすると、佐々木さんはこれ以上ないほどの笑顔で俺の腕を取った。
「いいよ。 セナさんが葉璃を大事に思ってくれてるならね。 俺がこの業界に居る以上、二人への協力は惜しまない。 ……最後にキスしてくれたら全部ひっくるめて忘れてあげようかな」
「……っ!?」
それは目にも止まらぬ早業だった。
腕を取られ、物凄い力で引き寄せられると、聖南が俺を取り戻すまでのほんの数秒、唇と唇がぶつかって……しかも一瞬舌を舐められた。
「ッッッてめぇ!!」
「全部ひっくるめて忘れてあげるって言ったでしょう。 約束通り、これから先は葉璃への気持ちは少しずつ削っていくよ」
「…………ッッッ」
「佐々木さん!」
聖南が顔を真っ赤にして激怒し、声にならない怒りを握り拳に貯めている。
あまりの怒りに全身が震えてる聖南が佐々木さんに殴りかかるかと思った俺は、咄嗟に二人の間に入ろうとした。
でも、聖南の衣装の襟首を掴んだのは佐々木さんの方だった。
「……葉璃を傷付けたら許さねえ。 てめぇのせいで葉璃が泣いたらその瞬間に葉璃は俺のもんで、そんでてめぇは海の藻屑になっからな」
「──────ッ」
至近距離で睨み合う二人の壮絶な姿に、間になんか入れない俺は後退りまくって、壁と一体化しようと限界ギリギリまで壁際に寄った。
総長時代の佐々木さんが突然現れて怖い。 けれど大激怒中の聖南の睨みも相当だ。
もうどうでもいいから喧嘩はやめてほしい。
こういうときに限って意識は冴えていて、気配を消す事もできない。
「……ね? セナさんにはまるで効かないんだよ、俺の目。 何でだろう?」
するりと聖南の襟首を掴んだ手を離し、俺に笑い掛けてきたが俺は壁に張り付いたまま動けなかった。
「んなの効くか! てめぇ! 葉璃にキスするわ好き放題言いやがるわ、覚悟できてんのか!? あぁ!?」
確かに挑発しまくった佐々木さんが悪い、悪いが、ここで乱闘が始まっては大変だと、俺は今にも殴りかかりそうな聖南の体を必死で止めた。
「聖南さん! 落ち着いて!」
「これが落ち着いてられっか! コイツにキスされたんだぞ!? なんで葉璃がそんな落ち着いてんの!?」
二人が俺よりヒートアップしてるからだろ!
そう怒鳴ってやりたいのに、この体格差ではどんなに全力を出しても止められなくて、聖南はついに佐々木さんの襟を掴んでしまった。
「聖南さん! やめっ……!」
「あぁ、やっと思い出した。 セナさんの事どこかで見たなぁとずっと気になってたんですが、あれですね。 俺が族に居た頃に載ったのと同じ雑誌にセナさんも……」
「……っっ! やめろ! 言うな! 葉璃には聞かせたくねぇ!」
「───いや、バッチリ聞いてましたけど」
聖南も相当ヤンチャしてたんだろうなって、出会ってすぐの早い段階で予想はしてた。
だから聖南がそんなに必死で止めなくても、その事実はあんまり驚かない。
聖南の様相やふとした表情、口調からも、それは全て隠せていなくて、むしろ滲み出てる。
「おっと、もうこんな時間だ。 では葉璃をよろしくお願いしますね、副総セナさん」
「言うなっつってんだろ!」
ふふふ、と不敵に笑って楽屋を出て行った佐々木さんの楽しそうな表情ったらなかった。
こんな状態の聖南と取り残された俺は、ソーッと聖南から離れようとする。
案の定逃げられなかった俺は、怒りに満ちた聖南にジロ…と見られて、ライオンからの鋭い視線から逃れる草食動物のような心境で、またも壁に吸い寄せられるように後退った。
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