必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 葉璃を自身の檻の中に閉じ込めて、自分だけのものにしてしまいたい。

 殻を破って世界を知るのが怖いというなら、聖南の甘い泉に死ぬまで浸っていたらいい。

 何度も何度もそう思ったが、今この瞬間、聖南の気持ちは変わった。


『葉璃は閉じ込めておけねぇ。  ……もっと広い世界で羽ばたかせてやんねぇと……』


 その儚い姿を世に知らしめ、世間をあっと言わせて、そのついでに、出来るものなら葉璃は聖南のものだと言って回れれば良いのだが、それは無理だと分かっている。

 半ば流された形でのデビューかもしれないが、葉璃は自ずと発掘されるべき才能がある。

 華がある。

 それをみすみす聖南のものだけにしてしまうなど、勿体無いと思った。

 長く芸能界に居る者として、葉璃の恋人として、ついにもう一歩先へ進んだ気がした。

 ハルカとして頑張らなきゃという強い意志と決意が垣間見えたあれなら、心配いらない。

 緊張すると言っては気付けばずっと人という文字を飲み込む癖など、好きなだけやらせてやったらいいのだ。

 必要以上に聖南が手を出す事もしなくていい。

 葉璃は確かに、着実に、前へと進んでいる。

 置いて行かれそうだと不安を感じていた聖南も、葉璃を待たずに確実に進み続けなければならない。

 葉璃が聖南を追い掛けたいと思ってもらえるように、惚れ直したと言ってもらえるように、カッコイイ "男" の背中を見せてやらないと気が済まない。




… … …


 CROWNと、その後歌唱する二組のアーティストが前室に居た。

 一組は初見の二人組女性デュオ、もう一組は大人気のソロ歌手、中山春馬だ。

 この中山は聖南の年下ではあるが芸歴が長い。 事務所は違えど何度も共演し、その抜群に良い人柄もよく知っているので会えば聖南もすぐに声を掛ける。


「よ、春馬」
「セナさん、アキラさん、ケイタさん、お疲れ様です」


 声を掛けられた聖南にだけでなく二人にもきちんと挨拶をする辺り、子役時代から業界に居る中山の礼儀正しさも再確認した聖南は、ニッと笑みを返す。

 聖南が謹慎していた事もあって会うのはしばらくぶりだったが、事件を心配してメッセージをくれた中山とは何度かやり取りしていたので、そんなに久しぶりのようは感じない。


「春馬も二曲やるんだって?  俺も見たかったのに順番微妙だから楽屋のモニター見てるしかねぇや」
「それを言うなら俺もですよ。 セナさん髪型変わってますます男の色気出てますね」
「だろ?  よく言われる」
「ぷっ。  セナさん相変わらずだ。  元気そうで良かったです」
「超元気よ!  あ、そうそう。  二月のラジオでゲストに春馬の名前上がってっからよろしくな」
「分かりました、こちらこそよろしくお願いします」


 ちょうど中だるみとなりがちな時間帯にCROWNと中山春馬をあてるとは、番組制作陣も考えたものだ。

 聖南は何気なく、隅で居辛そうにしている彼女らに視線をやると分かりやすくビクッと怖がられてしまった。

 新人か、もしくはデビューして数年ほどの若いアーティストなのだろう。

 出演がCROWNと中山春馬の間に挟まれているのは、タイアップか何かが決まり、事務所側のゴリ押しなのだとすぐに分かった。

 CROWNの迫力に小さくなっている彼女らの元へ寄ると、途端に立ち上がって頭を下げてきた。


「お、お疲れ様です!!」
「お疲れっす。  んな畏まらなくていーから。  俺らもうここ出るから、そんな隅に居ないでこっち来てな。  ちゃんと喉潤わせとかねーと」
「は、はい……!  ありがとうございます!」


 二人は見た目の威圧感とはかけ離れた聖南の気使いに感動して、また立ち上がって頭を下げた。


「だからそんな畏まんなって。  じゃーな、本番頑張って」


 そう言うと春馬にも手を振り、三人は前室を出た。


「まーたタラシ発揮して」


 クスクス笑っているケイタに言われて気付いた。


『マジだ。 もう無闇やたらと気使いしねぇって決めてたのに』


 いつもその見た目とのギャップが凄まじい優しさを見せてしまうため、秒で女がコロッといくのを忘れていた。

 挨拶程度で良かったものを、いらぬ事まで言ってしまっただろうかと振り返って思うが、自然と出てしまったのだからどうしようもない。

 苦笑しながらスタジオへと入ると、番組は中盤のニュースに切り替わったところであった。

 CROWNの出番はニュースが終わり次第である。

 その間、約八分ほど時間があるため、スタッフと話をしたり時間いっぱいまで客席へファンサービスをしたりと三人は忙しなく動いていた。

 歌番組は事件とスキャンダル後としては初となる。

 復帰から今日まで、バラエティ番組やラジオ、モデル活動はひっきりなしにこなしてきたが、歌って踊る事は傷口に差し支えない時期をみる他なかった。

 アキラとケイタのドラマ撮影が十一月中旬まで入っていて、さらに二人はそれぞれ違う舞台の出演も控えている身であるため、なかなかスケジュールが合わない。

 新曲だと発表した夏のシングルを披露するのがあまりに久しぶりで、ほんの少しだけ気持ちが揺れたが緊張というほどでも無かった。

 指示に従い、三人はリハーサル通りの定位置につく。

 再び現れたCROWNのパフォーマンスを目前に、客席は悲鳴に近い声援を上げていた。

 立ち位置は中央に聖南、向かって左にケイタ、右にアキラだ。

 ハルカを脱いだらスタジオに見に来い、と言っておいた葉璃はまだ来ていなかったが、途中からでも来てくれることを信じて聖南はカメラを見据えた。




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