168 / 541
31♡
31♡4
しおりを挟む「葉璃、本当にありがとう。 感謝してもしきれない」
俺の腕を掴んだままそう言う佐々木さんの表情は、とても強張っていた。
影武者を任された時、俺が感じてたプレッシャーをちゃんと見ていてくれた佐々木さんだ。
非常事態だからってそれを分かった上で俺に頼むのは、すごく気が引けてたんじゃないかなと思う。
「いいんですよ。 佐々木さんには、春香の事で二回も迷惑かけてるし……俺にできる事はしますって言ったじゃないですか」
「でも、嫌だよね? 以前の時もあんなに緊張してた。 気乗りしない事を、またさせてしまう」
「佐々木さん……。 あの、……俺は緊張しぃだけど、ダンスやってる間は無心になれるって分かってるから、大丈夫です。 前回も、本番になったら体が勝手に動いて、清々しいくらいでした。 俺、元々踊る事は好きみたいなんです」
あまりに申し訳なさそうな佐々木さんが可哀想になってきて、うまく出来てるか分かんなかったけど、気にしないでって思いを込めて頑張って笑ってみた。
春香の事でまたもや迷惑をかけてしまったし、マネージャーとして受け持ってるのはmemoryだけじゃないのも知ってるし、佐々木さんはきっと休む間もなく働いてる。
この時間もあって、疲れた様子なのが全身から滲み出ていた。
「そう……。 せめて、葉璃の体の負担にならないように、ね。 俺もしっかり見守るから」
「はい。 ……ねぇ、佐々木さん、働き過ぎて体壊さないようにして下さいよ? 眼鏡で隠れてるけど、目が疲れてます。 ちゃんとご飯食べてますか?」
「……葉璃……」
佐々木さんとは三年以上前からの知り合いでもあるから、さすがにもう人見知りなんてしない。
memoryのメンバーはもちろんみんな女の子で、佐々木さんが受け持ってる他のタレントさんも女性だった気がする。
女性達に弱いところは見せないように、心配掛けないように、周囲から鉄仮面と呼ばれるほどいつも気を張ってる佐々木さんだからこそ、年末年始も忙しくてまったく休めてないんじゃないかって心配だ。
「葉璃……」
「えっ、ちょっ……っ?」
そんな矢先、突然ふわっと抱き締められた。
……うっかりしてた。
佐々木さんは俺の事が好きだったんだ。
男性しか好きになれない、俺の事がドストライク、とか何とか言いつつ告白された。
でもあの時ちゃんと断ったはずだから、……こ、こんなの駄目だ。
「……佐々木さんっ?」
いつ聖南が戻ってくるか分からない。
着替えを終えたみんなも、こんなところを見たら誤解してしまう。
これは絶対にヤバイともがいてみても俺の小ささじゃうんともすんともで、佐々木さんはすらりとしてるのに案外力が強かった。
「葉璃、今じゃなくていい。 セナさんとの関係に息詰まったら、いつでも俺のとこにおいで。 一生、葉璃を待ってる」
「一生っ? ちょっ、佐々木さん何をっ」
「あわよくばっていうの、まだ狙ってる。 その時は、このキスマークよりもっと愛してあげる。 この先ほんの少しでも悩む事があったら俺のとこに来い。 ずっと……待ってるから」
耳元で少し早口でこう言った佐々木さんは、体を離して俺の左耳に髪をかけて、微笑んだ。
なんの事言ってんだろ?って首を傾げても、佐々木さんはそれ以上何も言ってくれなかった。
そこへ聖南がブーブー文句を言いながらトイレから戻ってきて、佐々木さんは何食わぬ顔で聖南にもお礼を言うとスタジオを出て行った。
「ここトイレ分かりにくー。 ……って、葉璃? おーい」
聖南が俺の顔の前で手のひらをヒラヒラさせてる。
それをボーッとそれを見てたら、さっきの佐々木さんのぎこちない微笑を思い出してしまった。
告白してくれたあの時みたいに、本気なの?と疑いたくなるくらいの飄々とした余裕が、まったく見えなかったんだ。
苦しそうだった。
待ってるから、と言った声が、沈んでいた。
何より、佐々木さんの貴重な笑顔の奥がちょっとだけ寂しそうに見えたのは、気のせい……なのかな……。
13
お気に入りに追加
314
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる