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しおりを挟む聖南と葉璃は、まだまだ対等とは呼べない間柄なのは分かっている。
恋愛にはおいてはもちろん、世間にもほとんど免疫がない葉璃と付き合っているからには、聖南が葉璃を先導し導く役割も担っているつもりだから、こんなにも冷静でいられなくなるのはよくない。
しょんぼりと耳を垂れた葉璃がソファの上で体育座りをして、さらにこじんまりとなった肩を、聖南は抱き寄せた。
「不可抗力でも俺は許さねぇよ。 たとえ誰が相手でもな」
「………………」
おとなしく聖南の腕に収まっている葉璃が、小さく頷いた。
そして、揺らがない魅惑の瞳で聖南を捉える。
「じゃあ、逆の立場になったら、俺は怒ってもいいんですよね……?」
「逆の立場?」
突然何を言い出すんだと、聖南は葉璃の顔を覗き込むと何やら不満そうだった彼の頬がついに膨らんでいる。
怒った葉璃は聖南の予想をはるかに越えた発言をしてくるので、またもや形勢逆転されそうな雰囲気に聖南の心が揺れた。
「聖南さんがもし、俺じゃない人と二人っきりでご飯行ったら、俺は怒ります」
「あ、あぁ、そうだな」
「俺はそんなつもりなかったもん…。 聖南さん俺の事、信じてないんですか?」
「えぇ…………?」
そうきたか、と思わずにはいられなかった。
聖南の度量の狭さを葉璃に押し付けようとしたが、葉璃はそれに納得がいっていないようだ。
ほっぺたを膨らませてジロッと横目に見てくる辺り、聖南が何に憤っているのか分かっていて尚怒っている。
「聖南さんがそうやって俺を心配してくれる気持ちは嬉しいです。 けど、俺は聖南さんの事が好きなんですよ? 荻蔵さんは見た目ほど嫌な人じゃなかったですけど、聖南さんがそんな態度だったらどうしていいか分かんないです」
「……葉璃……」
「聖南さんが背中を押してくれて、何があってもそばに居てくれるって信じてるから、俺は今がんばれてるんです。 だから、そんなに心配しなくて大丈夫です」
真っ直ぐに見詰めてくる葉璃の瞳には確かな光が宿っていて、聖南の過剰な心配や嫉妬などくだらないものなのだと教えてくれるようだった。
言いたい事が山ほどあった聖南の方こそ納得はいかないものの、葉璃はもう以前の何も出来ない葉璃ではないという事を突き付けられた気がした。
それを理解してやらないと、進み続ける葉璃に聖南は置いて行かれてしまう。
「分かってんだよ。 俺が小せぇ男だって事は。 葉璃がちゃんと前を向いて意思を持って動こうとしてんのも。 けどさ、俺は不安でいっぱいなんだって。 葉璃が俺から離れていかねぇか」
もはや恐れていた形勢逆転となり、聖南は苦笑しながら背凭れに体を預けて腕と足を組んだ。
怒りも完璧に削がれ、さっきのおどおどした葉璃はどこに行ったのかというほど瞳をキラキラさせて見てくる。
葉璃はそっと、聖南が組んでいる腕を解して手を握った。
「離れるわけないじゃないですか。 聖南さん以上にカッコいい人なんて居ないと思ってるし、人として尊敬できるのも聖南さんしか居ないです。 今日、CROWNが出てる番組見ましたけど、聖南さんしか見えなかったです」
「今日? ……あぁ、あのロケのやつ?」
「そうです。 聖南さん、前に言ってたじゃないですか。 気が付いたら収録とか終わってる事あるって。 聖南さんは心がないって言ってたけど、テレビの中の聖南さんは間違いなく心入ってましたよ? 周りを気遣いながら、全力で仕事してた」
「………………」
葉璃の口から自分が出ている番組を見たというのを初めて聞いて、聖南はこれ以上ないほど恥ずかしくなりズルズルと上体を沈ませた。
これまでそんな事を一言も言った事がなく、だからといって聖南も気にした事はなかったが、面と向かって言われるとあまりに照れくさくなってくる。
指摘され、確かに最近はきちんと芯を持って仕事をこなせている事に気が付いた。
今までは何を糧に仕事をすればいいのか分からなくて、それこそ淡々と事務所のため、アキラとケイタのため、自分は二の次でやってきた事も多かった。
それが変わってきたのは、聖南一人が頑張らなくてもいいと諭してくれた二人の存在と、何より心の支えである葉璃が居るからだ。
撮影中に頭がぼんやりしてくる事もなくなり、仕事の合間の葉璃とのメッセージのやり取りに心躍らせて毎日が楽しくて、生きている実感を常に感じられている。
「あー……だからな、それは、葉璃が居てくれるから心がどっかいくって事もなくなったんだよ」
「じゃあ尚更、俺の事もっと信じてください。 今までたくさん聖南さんを不安にさせてきたから、すぐには無理かもしれないけど……」
葉璃はおずおずと聖南の両腿にちょこんと座り、例の最終兵器である上目遣いで「ねっ?」とさらに追い打ちを掛けてきた。
───完全に聖南の負けだった。
「……分かったよ。 でもヤキモチ焼くのは見逃して。 葉璃を信じてねぇとかそういうんじゃないから」
葉璃はいつから、こんなに強い子になったのだろうか。
日ごと羽ばたいてゆく葉璃に、聖南が恐れていた時期と同等な気がしてならない。
たった数カ月で、人はこんなにも変われるものなのかと、聖南は驚きを持って自身の足に乗った葉璃を見上げた。
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