必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「ん………」


 枕にしていた自分の腕の痺れで目を覚した俺は、聖南の番組を見た後ソファでうたた寝してたらしい。

 お腹が空いて起き出して、午後十時を回った時計を見て慌ててスマホを確認しても、聖南からはまだ連絡が無かった。

 何時に帰るか分からない聖南を待てるような空腹加減じゃなくて、我慢出来なかった俺は何か買いに行こっと呟いて玄関を出た。

 コンシェルジュに外出の旨を伝えて、街に繰り出す。


「……夜出歩くの久々かも……」


 最近は車移動が多かったし、公共機関使うにしても日中だったから、こんなに夜の街が明るいなんて物珍しかった。

 コンビニもいいけど、お弁当屋さん、ないのかなぁ。

 この時間だと、聖南を待ってるより開いてるお弁当屋さんを探す方が大変なのに、俺はそんな事知らなかったから、コンビニを何軒も素通りして街をブラつく。

 ちょっと歩いていると、お弁当屋さんを探すどころか何だか見覚えのある所をぐるぐるしてる気がして一回立ち止まる。

 聖南のマンションすら分からなくなったかも……と辺りをキョロキョロ見回していると、突然肩を叩かれて思わず飛び上がった。


「───ッッ!?!?」
「あ、やっぱり」


 肩を叩いてきたのは、夜なのにサングラスを掛けている背の高い変な男だった。

 やっぱり、などと知り合いを装うナンパも今まででいくつかあったから、ナンパに昼も夜も関係ないんだってこの時初めて知って逃げ出そうとしたんだけど。


「そんな全力でビビらなくてもいいじゃん。 ほら、俺。 事務所の廊下ですれ違っただろ?」


 サングラスをずらしてチラッとだけ顔を晒すと、苦手なキツネ目が現れて息を呑んだ。


「…………あっ!! 嫌な人!!」
「シーッ。 ちょっとこっち」


 聖南に教えてもらったのに、この人の名前を忘れてしまったから何と叫べばいいか分からず、つい嫌な人って言っちゃった。

 口元を軽く塞がれて、辺りから見えない物影に連れ込まれる。


「ちょっ、離してください! 大声出しますよ!」


 俺が逃げないようになのか腕を掴まれてて、少々暴れても、この人は聖南くらい背が高くてがたいがいいから簡単には振りほどけない。


「もう出してるよな、それ。  てか嫌な人って言わなかった? 俺なんかした?」
「あ、あの時……っ、廊下ですれ違った時! ジロジロ見てきてました。 すごく嫌でした! だから嫌な人です!」
「……あはは……! そういう事か。 ごめんな、男と女どっちだろう?と思って見ちゃったんだな」
「それも失礼です! も、もう行っていいですか? 俺お腹空いてるから早くご飯買って帰りたいんですけど」
「え、腹減ってんの? 偶然だなー。 俺も今撮影終わったところでお腹空いてるんだ。 飯行こうぜ、飯!」
「えっ? ……えぇー!?」


 最後まで離してくれなかった腕をそのままに、俺は名前も分からないこの人に連れ去られた。

 話すのは初めてで、しかも視線を寄越されたら「ヒッ」てなりそうなほど苦手なキツい目をした人とご飯だなんて、考えただけで嫌なんだけど……。

 腕を引かれてる今思ったのは、この人は同じ事務所だから先輩にあたるんだし、ここで断ったら妙な波風が立ちやしないかって事。

 色んな事を瞬時に考えた。

 デビューを控えた俺と恭也や、この人にとっても事務所の先輩である聖南の立場を鑑みると失礼な態度は出来ない。

 キツネ目の嫌な人の強引さに面食らってた俺は、久々にネガティブを発揮していた。





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