必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 古びた映画館とはいえ、駅から程近いという立地と、昔馴染みな様相の年輩の常連客も居るせいか中はほどほど賑わっていて、見やすい中央後方ではなく端のカップルシートに三人で詰めて座る羽目になった。

 カップルシートはゆったりと広めに作られてはいるものの、小柄な葉璃を真ん中に挟むのは長身の二人だ。

 辺りはかなり照明を落としていて暗く、互いの顔はハッキリとは見えないが、旗から見ると何とも変な三人組だ。


「なぁ、何観んの?」


 何も聞かされないままに映画館に入らされたので、聖南は何気なく葉璃を見たのだが、思いの外顔が近くにあって無意識にキスをしてしまいそうになった。


「何だっけ、あの……ほら、昔の……あれですよ。  たくさん動物が出てくるやつ……。 ……出てこない。 タイトル何だっけ?」


 顔を近付けそうになったが、そんな聖南の下心になど気付かない葉璃はくるりと恭也の方を向いて、タイトルを思い出せないと足をジタバタと動かしている。

 そんな無邪気な様子ですら、新鮮で可愛い。


「ドクタードリ○ル、でしょ」
「そうそう!」
「……へぇ?」


 恭也が言ったものは観た事はないが、かなり昔に聞き覚えのあるタイトルだった。


「それって随分前のやつじゃね?」
「最近、昔の映画を、改めて映画館で上映しましょう、みたいな風潮がある、らしくて……」
「へぇ~そうなんだ。 俺も見た事ねぇからちょうどいい」


 二人でまったりとほのぼの動物映画を観ようとしていたのだと思うと、聖南の汚れた嫉妬心が急に恥ずかしくなってくる。

 と同時に、聖南はこの場に居られて、純粋な二人に触れて心が浄化されたようで嬉しくもあった。


「あ、忘れてた。 俺飲み物買ってくる」


 上映時間まであと僅かとなった所で、葉璃が急に立ち上がったので何事かと思った。

 それなら俺が行こうかと立ち上がりかけたのだが、恭也が思いもよらぬほど強い剣幕で「ダメ!」と言って立ち上がり、何だ何だとそちらにも驚く。


「何言ってるの。 またナンパ、されたらどうするの? 俺行くから、セナさんと待ってて」


 聞き捨てならない台詞をいつもの調子でゆっくり言い放つと、すぐに階段を降り始めたため、聖南は慌てて呼び止めた。


「あ、恭也待て。 これで払え。 さすがに高校生に奢られんのは俺の立場が無い」
「……分かりました、ありがとうございます」


 金色のカードを恭也へ手渡し、去って行く後ろ姿を見ながら葉璃の肩を抱き寄せる。

 そして耳元で、


「またナンパされたって?」


と問い詰めると、葉璃はイタズラを叱られた子犬のようなしまった顔でチラッと聖南を見てきた。


「ま、まぁ……ナンパ、されましたけど……」
「常に変顔して歩けって言ったじゃん」
「……不可能ですよっ」


 言わんこっちゃないと葉璃を窘めると、むぅ、と膨れて聖南から視線を逸らしてしまった。

 可愛く膨らませたほっぺたをつつき、もしかして、と続けた。


「恭也と一緒の時にナンパされた?」
「はい。 え、何で分かるんですか?」
「いや、さっき恭也が言ってたし。 あ~だからあんな密着してたんだな。 葉璃が声掛けられねぇように守ってくれてたわけだ」
「…………??」


 聖南の言う意味がよく分からないらしい葉璃はさておき、恭也のガードに拍手を送りたくなった。

 人付き合いをしてこなかった何も知らない葉璃は、今でこそまだ声を掛けられても逃げて交わしているようだが、これがうまく他人と会話が出来るようになったら相当危なっかしい。

 すでに現在、だんだんと話す事に慣れてきているし、クラスメイトとも分け隔てなくなったのなら危険度は増す一方だ。

 葉璃が言外に恭也には嫉妬をしないでと訴えてくる理由が分かった。

 聖南にとっても、葉璃にとっても、恭也が居てくれるならこれほど安心な事はないかもしれない。

 恭也が飲み物を買ってきたのだが、聖南と自身にはブラックコーヒー、葉璃にはキャラメルラテ…しかも甘党な葉璃にとミルクと砂糖まで付けてきて、コイツやるじゃんとさらにまた恭也の株が上がった。



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