必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
123 / 541
25♡

25♡2

しおりを挟む



 真っ白ピカピカな聖南の愛車に乗り込むと、まだ早いからどこかお店に入って朝飯食お、と言われた。

 でも朝はあまり食べ付けてないから、俺は気が進まなくて弱々しく断った。

 そうなんだ、と言いつつ車を発進させた聖南は、途中に寄ったコンビニで袋がパンパンになるほどのおにぎりやサンドイッチを買ってきてくれた。

 二人でコンビニに入っちゃうと色々まずいから、聖南一人で行かせる形になったんだけど……。

 サングラスをしていても凄いオーラを纏った聖南が、出勤前のおじさん達と一緒に不似合いなレジに並んでいて、それがあまりに非現実的過ぎて車内から見てた俺はちょっと笑ってしまった。

 周囲から聖南だとバレ始めていても、本人は何ら気にする風でもなく車に乗り込んできた。

 そして人通りの少ない場所に車を移動させて、まんまるになったビニール袋を寄越される。


「いっつも朝食わねぇの?」
「食べますけど、ロールパン一個とか。 それも詰め込んでる感じです……」
「そうなんだ。 朝はおにぎり一個でいいから食っとけよ? 食い切れなかったらクラスの奴らにあげて」
「えっ? あげてって……ていうかか絶対に食べきれないですよ。 聖南さん、買い過ぎです」
「あれもこれもってカゴに入れてたらそんなになっちまったんだよ。 金払うとこにも食いもんたくさんあったし。 コンビニって久々行ったけど楽しいな」


 ……そっか。 人気者はそうそうコンビニ行ったりとかもしないんだ。

 表情は変わらないけど声で楽しそうなのが伝わってきて、その無邪気さに可愛い人だなと思った。


「………………」
「………………」


 聖南、朝だから面倒くさがって髪の毛セットしなかったのかな。 以前より短くなった髪があちこちにハネてるよ。

 これはこれでそういうヘアスタイルに見えるから、美形は得だな。

 怖いくらい見詰めてくる視線をかわすように、俺は聖南の髪に触れた。

 赤茶色の髪を耳にかけると、チャラさが倍増する輪っかのピアスがお目見えする。

 これこれ。 このピアスと、塞がったいくつもの痕を見付けた時、CROWNとしてデビューする前の聖南を垣間見た気がして切なくなったんだっけ。

 話、聞かなきゃ。

 お父さんと出くわしただけで、あんなに落ち込んだ声を出すほどの過去があったんだ。

 こんなに綺麗な顔をして、誰よりも楽しそうに歌って踊って、バラエティーに出演したらモデルとして魅せる姿とは真逆の盛り上げ役に徹する聖南の内側を、俺は知りたいと思った。

 ピアスにそっと触れて、聖南のほっぺたを撫でてみる。

 教えてほしい。 どんな事を聞いても俺は聖南の味方だから。 聖南が俺に「蝶になった」って言ってくれた日から、さらに世界が明るく見えてきた俺なら、受け止めてあげられるから───。


「あ、あの……」
「んー? どした?」


 聖南の家から高校までは車で三十分かからないくらいで、うかうかしてたらすぐに別れの時がきちゃうと焦った俺は、肘置きに置かれた聖南の左腕を触って声を掛けた。

 遠慮の無い俺の行動に驚いた顔を見せた聖南が、顔を傾ける。 少しだけ沈黙し見詰め合うと、彼の瞳に獣がチラ見した。

 人目がないからって、聖南ってばこんなところでキスしようとしてる。


「聖南さん……っ、だめ」
「ちゅーダメ?」
「はい、だめです」
「今めちゃくちゃその空気だったじゃん。 一回だけ! なっ?」
「だーめ」
「……かわいーから許す。 週末覚えとけ」
「いじけないでくださいよっ」


 ぷにっと俺のほっぺたを摘んだ聖南が、拗ねながらもキスは諦めてくれてホッとした。

 誰が見てるか分かんないこんな場所で、キスなんか出来っこない。

 万が一、人に見られでもしたら? マスコミの人に見付かったらどうするの?

 ……という尤もな言い訳で、ドキドキから逃げ切った俺はすごく冷静だ。

 拗ねてたはずの聖南が、俺をジロジロ見て「制服かわいー。萌え」といつもの調子で揶揄ってくるから、今度は俺が膨れる番だった。

 ほっぺたのつまみ合いなんて、今時小さな子どもすらしないよ。

 二人とものほっぺたがピンクになるまで遊んでいた俺達は、朝の情報番組の時刻を見て我にかえった。

 学校までそう時間はかからないけど、渋滞にはまったら俺は遅刻しちゃうし、聖南は仕事に間に合わなくなる。


「……行くか」
「……そうですね」


 俺も、聖南も、名残惜しかった。

 聖南はハンドルを握り、俺は聖南が買ってくれたまんまるなビニール袋を両手に抱える。

 再び走り始めて数分、今話し掛けても大丈夫かなと不安になりながら、肘置きに置かれた聖南の左手に触れた。


「聖南さん、あの……昨日、話聞いてあげたかったのに、俺いつの間にか寝ちゃってて……すみません」
「なんで謝んの? 俺、ちゃんと葉璃に励まされたよ」
「え、いや……俺寝てただけですよ」
「葉璃が俺の家でかわいーく寝てた。 朝一緒にこうして居てくれてる。 これだけで俺は超元気になったけど」


 そんなわけない、と聖南を見るとちょうど信号待ちで、ハンドルを握っていた方の手で聖南に頭を撫でられた。


「行きますって言ってくれた葉璃の気持ちがめちゃくちゃ嬉しかった。 実際来てくれてて、もっと嬉しかった。 仕事とはいえ遅くなった俺の方が謝んなきゃ」
「そんな……。 でも俺、お父さんの話とか、聖南さんの昔の事とか、ちゃんと聞きたいです。 ……いつか話してくれますか?」
「……そうだな。 いつか、な」


 お父さんの話を出すと、聖南は途端に緊張した面持ちになった。

 その表情は横顔でさえも切なげに見えた。

 根が深そう、どころじゃなく、この話を無理にさせてしまうと聖南の心の傷を抉ってしまうような気がして、それ以上深くは聞けなかった。

 聖南が話したくなったら、話せる日がきたら、きっと打ち明けてくれると思う。

 明らかに顔色が変わった聖南の様子を見て、俺に受け止めきれる話なのか急に心配になってきたけど……そんな事言ってたら前の弱々な自分に戻ってしまうから、俺も聖南を支えられるように強くならなきゃと自分を奮い立たせる。

 繋いでいる右手が、じんわりと温かく俺の背中を押してくれるから、俺はその厚意に応えたいと思った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

白バイ隊員への強淫

熊次郎
BL
浅野拓哉は28歳の白バイ隊員だ。バイクを乗り回し、日々任務を遂行している。白いヘルメットとスカイブルーの制服が奮い立たせるは、仕事への情熱だけのはずたった、、、

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

処理中です...