118 / 541
24❥
24❥3
しおりを挟むあんなに見てくるのだから、どこかで会った事があるのかもしれないと、聖南も見つめ返してみる。
するとすれ違う間際に向こうが話し掛けてきて、それが誰だかやっと分かった聖南は、何とも言えない不愉快な気持ちになった。
「傷の具合はどうだ」
声を掛けてきたのは、紛れもなく、聖南の実父だ。
父親であるというのに、しばらく考えても記憶の中の顔と目の前の顔が一致しない。
「平気」
「そうか。 大変だったな」
「大変でもない」
一気に心が冷えきった聖南は他人と話している感覚だったが、思うところもあって他人より距離のある接し方をしてしまう。
この会社がツアーの主催だと知って乗り気で無かったのは、父親が長く役員を勤めている会社だったからだ。
気乗りしない、などと言える立場ではないが、なぜよりによってここなんだと社長に問い詰めてやりたかった。
「…………じゃ」
「あぁ」
父親と話す事など、一つもない。
話し掛けられた事すらビックリだ。
父親だとは思っていない男に、ツアーの主催を任せているとはいえ、へりくだりたくはなかった。
背中に視線を感じたけれど決して振り返らず、聖南はサングラスを掛けて会社を後にした。
きっと偶然あの場に居ただけなのだろうが、聖南にとっては不運だとしか言い様がない。
長く蓋をし続けている父親との確執は、寂しかった幼少期を思い出すよりも煩わしく思う。
このまま遭遇しないでいけたらそれに越したことはなくて、今さら父親ぶられてもどうしていいか分からないから放っておいてほしい、というのが本音だ。
聖南も父親だとは思っていないのだから、向こうも、息子など居ないと思ってくれて大いに結構である。
『はぁ……滅入るわ。 葉璃にLINEしよ』
こんな時は葉璃との何気ないメッセージで気を紛らわせるしかないと、聖南は車に乗り込むと同時にスマホを手にした。
ちょうど昼休みなのかすぐに返事が返ってきて、それをいい事にどうしても声が聞きたくなった聖南は、葉璃を人気のない場所へ行くようメッセージを送った。
『もしもし聖南さん? どうしました?』
電話を掛けると秒で取ってくれた葉璃の声を聞いて、あからさまにホッとした自分がいる。
「んや、別に。 ちょっと声聞きたくなって」
『……何かあったんですね。 ……大丈夫ですか?』
「…………何かあったって何で分かんの」
『聖南さんの声、凹んでます。 その声は聞いた事あるから、すぐ分かります』
「そっか……。 でも葉璃の声聞いたら元気出た」
淀み無くそんな事を言われては、葉璃が聖南を想う気持ちに陰りなどなく、些細な変化も見落とさないと気付かされて嬉しくて、それだけで憂鬱な気分がかき消されていく。
『何があったかは、聞かせてくれないんですか?』
「………………」
『聖南さん? 俺じゃ頼りにならないですけど、話は聞いてあげられます』
頼りにならないなんて思っていない。
むしろ逆で、聖南を心配する葉璃の気持ちが愛おしくて嬉しいのだ。
ただ、不仲である父親との再会なんかで滅入っている事を言って、呆れられやしないかと不安だった。
「いや……さっき父親とバッタリ会ってな。 ほんの一言二言話しただけなんだけど、色々思うとこあって……」
『あぁ……あまり会ってないって言ってたお父さんですか。 ……そっか。 詳しい事は分かんないけど、聖南さんが落ち込んでるんなら、俺は励ましに行きますよ』
「行きますよって、いつ? 今週末はずっとレッスン入ってるって……」
『今日ですよ。 今日行きます。 夕方レッスン終わってから』
「そりゃ嬉しいけど、今日は俺雑誌の仕事が急に入って、終わんの深夜だと思……」
『それでもいいです、待ってます。 明日の学校もちゃんと行くから、いいでしょ?』
なんて事だ。
あの気弱で卑屈だった葉璃が、こんなにも主張できるようになっているなんて感動した。
しかも聖南にとっては願ってもない事で、深夜までかかりそうな撮影と取材にも俄然やる気が出るというものだ。
「葉璃が来てくれるんなら俺はそれだけで頑張れるわ。 コンシェルジュに伝えとくから、家入って待っててほしい。 多分遅くなるから家ん中好きに使って、寝てて構わねぇから」
『分かりました。 ……聖南さん、俺、…聖南さんの事好きです。 離れないですからね』
「あぁ、俺も好きだよ。 ……じゃあまた後でな」
葉璃の言葉に胸が熱くなって、じゃあ……と言ったものの名残惜しいと指先が拒否し、なかなか通話終了の文字を押せなかった。
13
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
恋人>幼馴染
すずかけあおい
BL
「言わなきゃ伝わらないやつには言い続けるに決まってんだろ」
受けが大好きな攻め×ないものねだりな受け(ちょっと鈍い)。
自分にはないものばかりと、幼馴染の一葉になりたい深來。
その一葉は深來がずっと好きで―――。
〔攻め〕左野 一葉(さの いつは)
〔受け〕本多 深來(ほんだ みらい)

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる