98 / 541
21♡
21♡
しおりを挟む衝撃の話を恭也から聞いた翌日、すぐさま事情を知ってそうな佐々木さんに連絡してみた。
何か知ってるなら教えてほしいと言った俺に、なぜか佐々木さんは「ん~」とか「どうかな」とか濁していて、あげくの果てには「恭也とこっちに遊びに来てみない?」とはぐらかされた。
俺の知らないところで何かが動いていて、しかもそれが大事になりかねない出来事だから、佐々木さんから告白された事なんか頭からすっぽり抜け落ちていた。
恭也も一緒ならと、その数日後memoryの所属事務所である相澤プロダクションへ足を運んだ。
事務所内を案内されて、聞きたかった事はやっぱり何やかんやと濁されて、さらにはよく分からないままに機械がたくさんある小部屋に通されて、知ってる曲を少しだけ歌わされた。
絶対に事情を知ってそうなのに、結局佐々木さんは俺に何も教える気がないという事だけは分かった。
不信がっていると、どこから聞き付けたのか俺の大好物のカステラをお土産に持たされて機嫌が直り(恭也に単純だって笑われた)、そこで恭也と別れてダンススクールに向かったのが約三週間前の事。
なぜかそのすぐ後にアキラさんから電話があって、デビューする話を聞いたけど、って言われて死ぬほど驚いた。
なんで恭也と同じ事言ってるの?俺の知らないところで何が起きてるの?と怖くなっていたら、そこから怪しげなおじさんに付きまとわれて慌てて恭也に相談し、待ち伏せして、誰だ!と問い詰めた。
なんとそのおじさんは大塚事務所のスカウトマンで、デビュー云々の返事はともかく、とにかく話を聞いてほしいと懇願されて恭也と共に事務所に出向いたのが二週間前。
その間、聖南の事をくよくよ考えている暇なんか無かった。
俺の知らない所で恭也とのアイドルユニットのデビュー話が形になりつつあり、すべては俺の返事待ちだと聞いて驚かないバカがいる?
なんでそんな事に……と地団駄を踏みたくなったけど、どうやら俺の返事待ち=OK待ち、みたいな空気をヒシヒシと感じていた俺は、恭也と何度も何度も話し合った。
恭也は、「俺を含めた周りが何を言おうが、葉璃の気持ち次第だよ」とその都度ゆっくり言ってくれてたけど、俺と一緒なら頑張れそうだと話していた恭也の気持ちを無下には出来なかった。
そして何より、俺は何日もこの事で頭がいっぱいな中、スマホを触る度に聖南の文字を探してしまう自分にいい加減気付いていた。
だけど、俺が待ったをかけたのに、聖南にこの事を相談するのは違う気がした。
聖南と同じフィールドに足を踏み入れる勇気なんか、ぜっったいに持てるはずないって思ったけど、事務所の人の俺を欲しがってくれる熱意と、恭也の俺への信頼は裏切れない。
そしてもし、このまま聖南と同じステージに立って、少しでも聖南に追い付けるのなら、「相応しく」なれるのなら、俺はやってみたいと思ってしまった。
恭也が言っていたように、聖南にとって俺が相応しい恋人になるためには、グジグジな根暗野郎のままでいるわけにはいかなかったんだ。
… … …
返事をしてからはさらに慌ただしかった。
恭也からは抱き抱えられんばかりに喜ばれ、事務所の人達みんながホッと胸を撫で下ろしていたから、俺はこの期待に応えなくちゃって生まれて始めて湧き上がる熱意を感じた。
ダンスは何年もやってたけど、歌なんて全然練習してなかったから不安でいっぱいだった。
OKしたその日に「三日後までに練習してきてくれるかな?」と、何やらよく知っている曲の歌詞と音符がたくさん付いた譜面というものを渡されて、何が何だか分からないまま、恭也とカラオケで練習した日々がすでに懐かしい。
「───恭也の顔初めて見たのもあの日だっけ」
「ふふ……っ、あんなに驚くとは、思わなかった」
「驚くよ! 毎日前髪しか見えなかったんだから」
「だって……自分の顔、嫌だし……」
はぁ?と、俺はボーカルブース内で水を飲みながら不満気に俯く強面イケメンな恭也を見た。
防音ガラスの向こうにはたくさんの大人が居て、今俺達は「CROWNのセナ」に歌声を聴いてもらってる最中だ。
こっちの声はもごもごとしか聞こえないはずだから、休憩中の今は少しでも緊張を解そうと恭也と向かい合って話している。
何たって聖南が、こうしている今もジーッと俺達を凝視してるんだ。
最初の握手の時、雰囲気が変わった久しぶりの聖南についドキドキしてしまったけど……どうやら今日は完全にCROWNのセナとして来てるみたいだったから、俺も私情は挟まない事に決めた。
見るからにお偉いさんな雰囲気を纏った大人達に見られていても、視線を合わせたり無理に会話をしなくて良かったからか、不思議とそこまで緊張しなかった。
春香の影武者の時ほど変なプレッシャーがないからかもしれない。
緊張してもしなくても、俺はもうこの道を進むと決めたんだから、前を向くしかなかった。
恥ずかしいとか、緊張するとか、手のひらに人って書いてもダメじゃん!とか、もう言わない。 ……多分。
だってもう、引き返せないところまで来てしまった。
俺と恭也の人生を賭けた第一歩を、恐恐と踏み出したんだから。
13
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)
トラック野郎親父の雌堕
熊次郎
BL
大輝はレスリング経験者で今でも体がゴツい。父親の健吾は男らしくガタイのいいトラック野郎だ。仲のいい父親と2人で暮らしているうちに大輝は親父の白ブリーフの膨らんだ中身が気になり始める。思春期の経験があってはならない方向に導く、、、。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる