必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 衝撃の話を恭也から聞いた翌日、すぐさま事情を知ってそうな佐々木さんに連絡してみた。

 何か知ってるなら教えてほしいと言った俺に、なぜか佐々木さんは「ん~」とか「どうかな」とか濁していて、あげくの果てには「恭也とこっちに遊びに来てみない?」とはぐらかされた。

 俺の知らないところで何かが動いていて、しかもそれが大事になりかねない出来事だから、佐々木さんから告白された事なんか頭からすっぽり抜け落ちていた。

 恭也も一緒ならと、その数日後memoryの所属事務所である相澤プロダクションへ足を運んだ。

 事務所内を案内されて、聞きたかった事はやっぱり何やかんやと濁されて、さらにはよく分からないままに機械がたくさんある小部屋に通されて、知ってる曲を少しだけ歌わされた。

 絶対に事情を知ってそうなのに、結局佐々木さんは俺に何も教える気がないという事だけは分かった。

 不信がっていると、どこから聞き付けたのか俺の大好物のカステラをお土産に持たされて機嫌が直り(恭也に単純だって笑われた)、そこで恭也と別れてダンススクールに向かったのが約三週間前の事。

 なぜかそのすぐ後にアキラさんから電話があって、デビューする話を聞いたけど、って言われて死ぬほど驚いた。

 なんで恭也と同じ事言ってるの?俺の知らないところで何が起きてるの?と怖くなっていたら、そこから怪しげなおじさんに付きまとわれて慌てて恭也に相談し、待ち伏せして、誰だ!と問い詰めた。

 なんとそのおじさんは大塚事務所のスカウトマンで、デビュー云々の返事はともかく、とにかく話を聞いてほしいと懇願されて恭也と共に事務所に出向いたのが二週間前。

 その間、聖南の事をくよくよ考えている暇なんか無かった。

 俺の知らない所で恭也とのアイドルユニットのデビュー話が形になりつつあり、すべては俺の返事待ちだと聞いて驚かないバカがいる?

 なんでそんな事に……と地団駄を踏みたくなったけど、どうやら俺の返事待ち=OK待ち、みたいな空気をヒシヒシと感じていた俺は、恭也と何度も何度も話し合った。

 恭也は、「俺を含めた周りが何を言おうが、葉璃の気持ち次第だよ」とその都度ゆっくり言ってくれてたけど、俺と一緒なら頑張れそうだと話していた恭也の気持ちを無下には出来なかった。

 そして何より、俺は何日もこの事で頭がいっぱいな中、スマホを触る度に聖南の文字を探してしまう自分にいい加減気付いていた。

 だけど、俺が待ったをかけたのに、聖南にこの事を相談するのは違う気がした。

 聖南と同じフィールドに足を踏み入れる勇気なんか、ぜっったいに持てるはずないって思ったけど、事務所の人の俺を欲しがってくれる熱意と、恭也の俺への信頼は裏切れない。

 そしてもし、このまま聖南と同じステージに立って、少しでも聖南に追い付けるのなら、「相応しく」なれるのなら、俺はやってみたいと思ってしまった。

 恭也が言っていたように、聖南にとって俺が相応しい恋人になるためには、グジグジな根暗野郎のままでいるわけにはいかなかったんだ。



… … …


 返事をしてからはさらに慌ただしかった。

 恭也からは抱き抱えられんばかりに喜ばれ、事務所の人達みんながホッと胸を撫で下ろしていたから、俺はこの期待に応えなくちゃって生まれて始めて湧き上がる熱意を感じた。

 ダンスは何年もやってたけど、歌なんて全然練習してなかったから不安でいっぱいだった。

 OKしたその日に「三日後までに練習してきてくれるかな?」と、何やらよく知っている曲の歌詞と音符がたくさん付いた譜面というものを渡されて、何が何だか分からないまま、恭也とカラオケで練習した日々がすでに懐かしい。


「───恭也の顔初めて見たのもあの日だっけ」
「ふふ……っ、あんなに驚くとは、思わなかった」
「驚くよ! 毎日前髪しか見えなかったんだから」
「だって……自分の顔、嫌だし……」


 はぁ?と、俺はボーカルブース内で水を飲みながら不満気に俯く強面イケメンな恭也を見た。

 防音ガラスの向こうにはたくさんの大人が居て、今俺達は「CROWNのセナ」に歌声を聴いてもらってる最中だ。

 こっちの声はもごもごとしか聞こえないはずだから、休憩中の今は少しでも緊張を解そうと恭也と向かい合って話している。

 何たって聖南が、こうしている今もジーッと俺達を凝視してるんだ。

 最初の握手の時、雰囲気が変わった久しぶりの聖南についドキドキしてしまったけど……どうやら今日は完全にCROWNのセナとして来てるみたいだったから、俺も私情は挟まない事に決めた。

 見るからにお偉いさんな雰囲気を纏った大人達に見られていても、視線を合わせたり無理に会話をしなくて良かったからか、不思議とそこまで緊張しなかった。

 春香の影武者の時ほど変なプレッシャーがないからかもしれない。

 緊張してもしなくても、俺はもうこの道を進むと決めたんだから、前を向くしかなかった。

 恥ずかしいとか、緊張するとか、手のひらに人って書いてもダメじゃん!とか、もう言わない。 ……多分。

 だってもう、引き返せないところまで来てしまった。

 俺と恭也の人生を賭けた第一歩を、恐恐と踏み出したんだから。



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