必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 二人ともが、どこで聞いたっけ…と首をひねる。

 と、そこで、思い出した聖南がスマホに「社長が話してた、うちの事務所の宮下きょうや」と打ち込んでアキラに見せると、納得したように手を叩いた。


「あぁ! 何、ハルときょうやは友達なんだ?」
『そうです、学校が同じで……。 恭也の事、知ってるんですか?』
「すげぇ偶然。 知ってるも何も、俺らの事務所のレッスン生だから」
『え!? 恭也、CROWNの事務所の養成所に居たんですか!?』
「その様子だと知らなかったみたいだな。 そうなると本当に謎だよなー。 どういう経緯で葉璃がうちのスカウトマンに発掘されたんだろ」
『スカウトマン? あ……そっか。 CROWNの事務所が、俺をデビューさせようとしてるって事ですよね? ……うーん……俺もよく分かんないです。 週末に佐々木さん……memoryのマネージャーさんに電話で聞いてみたんですけど、見事に濁されちゃって』
「そっか。 ……ハルはこの話、どうするつもり?」
『俺は……まだ保留です……。 ただ、何となく、やらなきゃいけない空気は感じてます』
「ってか、もしデビューが決まったらハルは俺らの後輩になるんだ。 よろしくな」
『気が早いですよ……。 あ、あの……聖南さんは、この事知って……ますよね、……アキラさんが知ってるんですもんね』
「もちろん知ってるよ。 でも今はセナハル連絡取り合ってないって聞いてるよ? だから何もセナから言ってきてないだろ?」
『まぁ……はい。 これは俺が決めなきゃいけない事だから……。 すごく相談したいけど、俺が今聖南さんを頼ったら何も意味がない気がするんです』


 葉璃のこの言葉を聞いて、ジッと黙っていた聖南はふと思った。

 この数日の間に、葉璃は蛹から蝶になろうとしている、と。

 殻を破り、外の世界を恐る恐る見回して、もしかして世界は思っていたほど怖い場所ではないのかもしれないと気付くまで、あとほんの少しだ。


「いいんじゃない? ハルが決めた事なら、セナだって分かってくれるし、俺も応援する。 俺はセナハルの味方だからな、ハル。 ちゃんと前向けよ」
『……はい。 ありがとうございます。 それで……聖南さん元気ですか?』
「元気なわけあるか。 ……ま、俺が言えるのはそれだけだな。 じゃあハル、また連絡するかもしんねぇから、そのときはよろしく」


 重くならないように笑ってやりながら、一瞬動揺した様子の葉璃の返事を待ってアキラは通話を終わらせた。

 あまり内容は探れなかったが、聖南にとってはこれは相当に意味のある電話であった。

 聖南との事はともかく、葉璃自身はとても良い方向に向かっている。

 些細ではあるが、話し方や声のトーンから、殻付き葉璃の背中を押してもらえる出来事があったのかもしれない……そんな気がした。


「……だってさ。 ハルも何も分かんねーって感じだったな」


 聞きたい事聞けた?と苦笑するアキラに、聖南はイヤホンを返しながら頷く。


「聞けた。 ぶっちゃけ、デビューの話はどうでもいい。 葉璃が今どんな思いなのか、どういう決断を下すのか、聞きたかった」
「決断出来てなさそうだったじゃん」
「いや、あれはもう決まってる。 葉璃はこのデビューの話100%OKするよ」
「なんで今の会話でそんなこと分かんの?」
「もう迷ってもなかったじゃん。 俺を頼ったらいけない、相談したら意味がないって言ってたろ? 迷うくらいなら同じステージに立つ俺に相談しようとなんか思わねぇよ」


 葉璃はすでに、半ば押し切られる形ではあるかもしれないが返事は大方決まっている。

 それがどんなに望まない道でも、その先に求める何かがあるのなら行ってみたい、そう前向きに捉えていそうだった。



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