必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
82 / 541
18❥

18❥

しおりを挟む

─聖南─



 どんなに、やっと捕まえた!と安堵しても、すぐにこの手から逃げ去る、愛しい人。

 するりと抜け出し、もう二度と会えないよとほのめかすその巧みな逃走劇に聖南もいくらか慣れてきたつもりであったが、さすがにこれは予想していなかった。

 あんなに感じてくれて、応えてくれて、たくさん愛し合ったはずなのに。

 聖南の隣から忽然と姿を消した。

 トイレへ行くと安心させておいて、だ。

 これまでロクな睡眠を取れていなかった聖南は、葉璃が隣に居ると思うと不思議なほどによく眠れて気付くのが遅くなった。

 迂闊としか言いようがない。

 長い時間抱き続けたから、葉璃は立って歩く事すらままならない状態だったのではないだろうか。

 葉璃が居なくなってそんなに時間は経ってないと踏んですぐさま追い掛けたのだが、マンションから出て行ったところを数名のマスコミに追われ、意図せず鬼ごっこをする羽目になった。

 必死でマスコミをまいて人気のない公園で流れる汗を拭うと、大きく落胆の溜め息を吐いた。


 ── なんでだよ、葉璃……! これ以上何をどう言えばこの気持ち伝わんの……?


「分かんねぇよ……っ」


 募り続ける想いを何度訴えても逃げられてしまい、いくら聖南でもツラくなり始めている。

 そんなに聖南を信用出来ないのか、実は単に聖南の方が弄ばれているだけなのではないのか。

 葉璃の何もかもを手に入れたと思ったその日に愛を囁けないのは、精神的にきた。


「葉璃ー……」


 スマホはいつものように繋がらない。

 葉璃の考えそうな事といえば、家に帰って早く寝たい、そんなところだろうがもはや聖南にはそれしか分からなかった。


「── あ、春香? 朝早くにごめんな。葉璃いる?」


 聖南は躊躇なく春香へ連絡し、そこから春香が鬱陶しいと感じるほどしつこく葉璃の様子を尋ねた。

 寝ていると言われても避けられてると疑い信じられなくて、通話しながら顔が見られる機能を使って葉璃を映してもらい納得した。

 昨日の格好のまま、俯せになって眠る葉璃の寝顔は険しく、ひどく疲れているように見えた。

 日が暮れ、明けても、学校を休んで眠り続けている証拠を春香から見せつけられると、なんとも言えない気持ちだった。

 葉璃は無理に、聖南に付き合ってくれたのだろうか。確かに全身を強張らせてはいたが、感じていなければそう何度も射精しないだろう。

 初めてならば緊張するのも当然で、実際に聖南も興奮に紛れてかなり緊張していた。

 怪しげな発言が気になりはしたが、葉璃の体も心も、丸ごと自分のものにしてしまえた実感があった。

 だが現実はこれだ。

 捕えたと思ってもするりと逃げてしまうのは、何故なのだろうか。

 いよいよ葉璃の気持ちが見えなくなった。

 家に赴くのも断られてしまった聖南は、何も手に付かずボーッとベッドで一日を過ごし、夜が明けた。

 陽が出て来て秋の肌寒さに気付いたその時、放り投げていたスマホが鳴り響いて急いで相手を確認すると、春香からであった。


『セナさん、おはようございます。葉璃起きましたよ』
「そ、そうか……。どう? 具合悪そう?」
『いいえ、それは大丈夫そうです。葉璃から伝言を預かりました』
「…………何?」
『少し、時間が欲しいそうです』
「………………」
『セナさん、葉璃の性格よく分かってくれてると思うから言います。今は待ってあげて下さい。葉璃、何も話さないから詳しい事は分からないけど、セナさんの気持ちが嘘じゃないって葉璃も分かってると思うから……だからすごく悩んでるんだと思います』
「分かってんのかな……ほんとに」
『はい。葉璃の考えなんて全部は私には分からないけど、相手にしたくないと思ってる人に付き合ってあげるほど、葉璃はお人好しじゃないですよ。この人は自分を裏切らないって信じてる人にだけ、心を開くようなとこあるから』
「…………」


 さすが双子なだけあって、性格はまるで違えどしっかり葉璃の気持ちを代弁している。

 絶対に手に入れたいと鼻息荒くしていた当初の気持ちから、聖南の想いもだんだんと変化していて、何となく春香が言いたい事が分かるような気がした。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...