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しおりを挟む葉璃の頬に手を掛けこちらを向かせても視線を合わせてくれず、胸元をギュッと握ったままだ。
もしかして聖南の圧が強過ぎての恐れの涙かと、怒りに任せた事をちょっとだけ反省した。
「…………です」
黙ってジッと葉璃を見詰めていると、小さな声で何かを言ったが聞こえない。
「ん? 何て?」
「……俺、男です」
「……そうだな、俺と同じの付いてるよな。 今さらじゃん」
耳を澄ますと、そう自信なさげに言っていて何だそんな事かと一蹴してやる。
葉璃のものを触り、握って、扱いて、射精を促した事を忘れたのだろうか。
その最中も聖南は興奮しっぱなしだったのだから、不安に思わなくていいという事をどう伝えてやったらいいか。
見下ろした先の葉璃はまだ切なげに眉を顰めていて、『どんな面してても可愛いなぁ』と見惚れていると突然驚くべき事を言い放った。
「俺……男なんで、聖南さんの、今までの人達みたいに綺麗じゃ……ないです」
「ん、はっ!? 今までの人って……何言って……!」
「聖南さんが抱いてきた人達、すごく美人でスタイルも良くて、おっぱいもちゃんとあったでしょ? 俺にはないですから!」
「なっ……」
「だから嫌です。 俺なんかとその…エッチしても、気持ちよくないと思います」
「ちょっ、葉璃、何言ってんだ」
「ねっ、や、やめましょ、聖南さんは俺なんか抱いちゃダメですっ」
「何言ってんだって! バカ言うな!」
あまりの発言に、聖南はまたも怒りが込み上げてきた。
どこからどう情報を得たのか知らないが、葉璃は過去なんか気にしないと言っていたのに、なぜ今になってそんな事を言いだすのか。
逃げようとする葉璃の腰を咄嗟に掴んだ聖南は、ハッとした。
込み上げた怒りがさらさらとどこかへいってしまうほどその腰が華奢だったせいで、一気に欲望の方へ脳が引っ張られる。
「だって……すごく綺麗な人だったもん……なんで俺なのって思いますよ……」
「過去は気にしねぇって言ってたじゃん……しかもどこ情報だ、それ。 あーもう、んな事はどうでもいい。 葉璃、お前何も分かってない」
葉璃が卑屈な子だという事は常々分かっていたが、こう何度も「俺なんか」と言いながら殻に閉じこもってしまわれてはたまらなかった。
自分に自信がないのも、思考がネガティブで陰気でも、弱いからと嘆く事もまだ知らない葉璃を、ひたすらに守って導いてやりたい。
聖南の過去などあってないようなもので、追いかけてでも手に入れたいと胸を焦がしたのは葉璃しかいないのだ。
突然の初恋に聖南自身も戸惑っていたけれど、もうこの手から葉璃が逃れる事など許さないし、死んでも離さない気でいる。
瞳で心を撃ち抜かれて以来そう決意している聖南の下で、しくしくと声を殺して泣く葉璃をゆっくり優しく、次第にギュッと力を込めて抱き締めた。
「葉璃が男だって事は分かってる。 乳も尻もアソコも女とは違うって事も分かってる。 そのネガティブな葉璃の中身も。 それでも葉璃が好きなんだよ、お前の全部が欲しいんだよ。 どう言えば分かってもらえんの?」
「……っ……分かんないです……っ。 なんで聖南さんが俺なんかを好きなのか、……っほんとに分かんなくて……!」
「葉璃の全部だよ」
「嘘っ」
「嘘じゃねぇって。 はぁ……。 ほら、触ってみ」
「……なっ……!」
信じてもらえるか分からないが、このようなやり取りをしていても聖南のモノは猛々しく膨れ上がっていて、証拠だと言わんばかりにストレートパンツ越しに葉璃に触れさせてみる。
愛しい葉璃を見て、キスをして、聖南のベッドに押し倒しているこの現状に、興奮していないはずがなかった。
「葉璃も男だったら分かるだろ? 嫌だと思うなら勃たねぇ。 この前葉璃が俺の手でイった後、俺は風呂場で一人寂しく抜いたんだからな」
「…………っ!!」
「あの時はまだ傷開くのやべぇから手出せなくて、でも治まりきかねぇから抜くしかなかったんだ。 葉璃とキスしただけでコレな。 もっと言えば、その瞳で見詰められるだけで鼻血もんなんだよ」
葉璃は、信じられないと言いたげに凶器である瞳をまん丸にしていて、触れられているからか余計にそこが膨張してしまう。
ピクッと葉璃の体が動き、今までの頑なだった緊張の糸が解れた気がした。
「俺はもう葉璃しか見えねぇの。 何回言わせんだよ。 心配なのは葉璃の方じゃん。 抱いたら色気増してもっと言い寄ってくる奴多くなる。 葉璃が快感知ったらホイホイ連れてかれそーで、俺はそっちのが怖ぇよ」
「そんな事な……」
「ないって言い切れる? 今まで遊び目的で声掛けてきた奴らが、本気で迫ってくるようになんだよ。 あんな分かりやすい好意向けてる佐々木と平気でメシ行くくらい、葉璃は自分の事全然分かってねぇからな? 首輪付けてここに飼い殺しにしときたいよ、マジで」
苦笑しながら、葉璃の瞳から溢れそうだった涙を舐め取る。
聖南は自身の吐露で想いが伝わる事を切に願った。
真っさらで無垢な葉璃を汚したくない気持ちよりも、今は早く自分のものにしなければという思いの方が強い。
だがそれは、葉璃の秘めたる魅力を開花させてしまいそうな予感もあって、それが怖くもあり、身震いするほど楽しみでもある。
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