必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 傷跡のセルフケアも手慣れてきた、退院から三日ほど経ったその日、聖南は社長直々に呼び出され自ら運転して所属事務所を訪れていた。

 久しぶりの外の空気に気持ち良さを感じつつ、未だ張り続けるマスコミを交わしながらの行動はそれだけで疲労感を増幅させた。

 すべては聖南への直撃取材目的だ。


『加害者の女性とはすでに関係があったんでしょうか!?』
『今までお付き合いされた女性達へ何か言いたいことはありますか!?』
『一言でいいので反応下さい!』


 等々、聖南を心配しているというよりバッシング目的なのは一目瞭然で、それにいちいち応えてやるほど聖南もお優しくはなかった。

 一言下さいと言われても、何か語ればそれに尾ひれが付いて何倍にも膨れ上がって報道されるに違いないので、今は何も話さない方が懸命だ。

 今日の日までニュースを見ずにいた聖南は、色々な方面からこうなっている事は聞いていたが、尾を引きそうな予感に苦笑するしかない。

 サングラスを掛けて無言のままガードマンと共にマスコミの波をかき分け、安全な事務所内へ入ると大塚社長が腕を組んで待ち構えていた。


「どうする、聖南。 世論が黙ってないぞ」
「マジでな。 どうしよっか。 とりあえず話あんなら行こ」
「アキラとケイタももうすぐ来るはずだ」
「おっけー」


 聖南の軽い返事に、社長はやれやれと肩を竦めた。

 しょっちゅう鳴り響く電話でこの状況を聞く度に焦りはあったが、自分のニュースなんかは見たくないためにテレビをまったく付けず、暗い部屋で塞ぎ込みつつあったのが災いした。

 聖南の予想以上にこの件が妙な方向へ広がっているらしく、事務所で緊急会議が開かれるほどの事態になっているとは深刻である。

 社長室に集められたのは、事務所の幹部5名と、CROWNのメンバーであるアキラとケイタ、マネージャーの成田、そして聖南だ。

 経営面に重きを置く幹部達は社長よりも怒りと焦りがあるようで、社長と共に入室してきた聖南に相応の目を向けている。


『うわ、怒り爆発って感じじゃん』


 社長室と連なった中会議室に、すでにズラッと並んで腰掛けている幹部達を見て苦笑しか出て来ない。

 形ばかりの一礼をして、聖南は副社長と対面する席へ座る。

 間もなくやってきたアキラとケイタはその隣へと並んで腰掛け、最後に走り込んできたマネージャー成田はさらにその隣へ慌てて着席した。

 会議を始める合図なのか、面子が揃ったところであまり接点のない専務がジロッと不躾に聖南を見て、


「傷の具合はどうだ」


と心のこもらない問いをしてきた。


「大丈夫っす」


 幼い頃からの付き合いは社長と副社長だけなので、この専務の非礼な瞳は久しぶりに味わう感覚だった。

 いくら聖南の芸歴が長く、身内に後ろ盾があろうとも、問題を起こす厄介者は必要ないと今にも言い出しそうだ。

 だが、辛辣な目を向けられてカチンときても、この会議が開かれるような原因を作ってしまったのは紛れもなく聖南なので、様々な方面に多大な迷惑を掛けている事は謝罪しなければならない。

 まだ本題にすら入っていなかったが、聖南は大人として、この事務所に長く世話になっている身として、筋を通すべく立ち上がった。


「この度は、俺の未熟な行いによって、色々な方々にたくさんのご迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げる。

 直角に近いような一礼に傷がピリッと痛んだが、構わない。

 すぐに非を認め謝罪した事で、幹部達の視線もいくらか和らいだような気がした。

 その空気を感じ取った社長がすぐさま口を開く。


「聖南、謝罪は受け取ったから、座りなさい。 ……さて、聖南もこうして反省しているようだが、報道はしばらく続くように思われる。 何が真実か分からなくなるほど状況が悪くなる恐れもある。 得策を考えなければならない」


 CROWNというビックネームに乗じ、聖南の事件とスキャンダルの余波は生半可なものではない事を社長が説明し始めると、幹部達は口々に喋り始めた。



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