57 / 541
13♡
13♡4
しおりを挟む「葉璃ー起きろー」
「ん……」
遠くで、聖南の優しい声が呼んでいる。
温かい空間と時間が、俺のうっかりで早くも終わりを告げようとしていた。
「そろそろ帰んねぇと」
「えっ!? も、もうそんな時間ですか!?」
急に現実に引き戻されて飛び起きると、頭上に聖南の顔があって俺は「ん?」と違和感に気付く。
「すみません! いつの間にっ」
聖南を膝枕してあげてたはずが、いつの間にか逆になっていた。
退院直後である聖南の膝で俺は呑気に寝てたみたいで、どういう事かと狼狽える。
「何で謝んの? 葉璃の膝枕、超気持ち良かった。 あんなに落ち着いて寝れたの何年ぶりかってくらい」
「俺がされてたら意味ないですよ……」
「俺も膝枕してあげたくなったからいいの。 寝顔可愛かったから舐め回すように見てたし。 てかそれよりマジで帰んねぇとヤバイ。 日が暮れる」
猫にするように俺の顎を指先で触ると、聖南は立ち上がって車のキーを持ち出してきた。
───嫌だ、帰りたくない。
このまま聖南と一緒に居たい。
病み上がりで運転させるわけにはいかないって理由はほんの少しだけで、俺は駄々をこねるようにソファから動かなかった。
「……泊まっちゃダメですか……?」
「別にいいけど」って言ってくれると期待しながら勇気を出してみるも、聖南はなかなか立ち上がらない俺の傍へやって来て甘やかすように頭を撫でた。
「ダーメ。 明日も学校だろ? 制服とかどうすんの。 てかな、学生のうちは学校行っとけ、後々後悔しないように」
……なんて、大人みたいな事を言う。
どうしても帰りたくない俺は、聖南の服の袖口を引っ張り、見上げた。
「ここから通う」
「…………どした? 寂しいの?」
「………………」
嬉しそうに聞いてくる辺り、絶対俺の気持ちに気付いてるはずなのに……「ん?」と返事を促してくる。
こんなに俺が他人にワガママを言うなんて自分でもビックリだけど、ほんとに帰りたくないんだからしょうがない。
何をするでもなく、ただ一緒にいたいんだ。
「はーる。 あのな、俺も一緒。 分かってるから。 葉璃が次の日休みだったらいつ泊まってもいい」
「ヤダ。 今日がいい」
「……ちょ、もう……マジでかわいーんだけど! 俺が必死でかき集めてる年上の余裕無くなるからやめろ、それ」
そんな事知らない、と俺はそっぽを向いて抵抗の意思を示した。
「なぁ、葉璃? 俺も葉璃と一緒に居たいけど、今日はダメ」
「何でですか」
「何でってなぁ……。 葉璃が高校卒業するまでは俺も勝手できねぇよ。 卒業しちまえば俺が出しゃばっても文句言わせなく出来るけどな、後々、葉璃の親に葉璃をくださいって言いに行くためには、線引きはちゃんとしときたい」
頑なに頷いてくれない聖南に怒りの目を向けてたけど、そう言われてしまっては俺が幼稚過ぎだったと反省するしかない。
そんなに先の事まで考えてくれてたなんて……感動すら覚えた。
最低でも高校までは親の管理下だからと何とも紳士的な発言に、ワガママ言ってた自分が恥ずかしくなる。
「…………分かりました。 ……でも聖南さんが送ってくれるのはナシで。 退院したばっかで体が心配だし、それに、外にはカメラ持った人たくさん居たから」
「分かってくれたか?」
「俺がまだ学生だからってちゃんと考えてくれる聖南さんのこと、もっと好きになりました」
夕陽が射し込んでくる部屋は一段とムーディーになってきて、この陽が沈む前に帰らなきゃと思ってようやく重い腰を上げた。
聖南は立ち上がった俺をギュッと抱き締めてくれて、また背中を優しく撫でてくれる。
「はぁ……。 葉璃、早く大人になれ」
こんな意味深な事を呟かれても、聖南から発せられる言葉は俺には全部甘い囁きにしか聞こえない。
身長差があり過ぎて聖南の胸元にきつく押し付けられた俺は、すごくドキドキしてしまって、自分の中で誤魔化すように「傷口痛くないのかな」と斜め上な事を思っていた。
24
お気に入りに追加
314
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる