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しおりを挟む愛の力って…と苦笑してると、アキラさんは俺の隣に腰掛けて、何かを言いたげにまじまじと顔を凝視してくる。
なんでそんなに見るのって思いはしても、よく知らない人と視線を合わせ続けるのが苦手な俺は咄嗟に俯いた。
「……唐突で悪いんだけど、俺らどっかで会った事ある? なーんか見覚えあるんだよな」
「あ、あー……。 ……俺の口からは何とも……」
それであんなに見てきてたのか。
アキラさんと俺は会った事はあるけど、それは俺がハルカだった時に共演した時だから、言っちゃマズイかもと思って濁しておく。
「何だそれ? て事は、会った事あるんだ。 どこで会ったんだろ~」
察しのいいアキラさんは、俺が濁した事で確信を持ったらしくて、うーんと唸っている。
でも俺が自分からバラすわけにはいかないから、
「聖南さんに聞いてみてください」
とだけ言って、これ以上この話題が続くと嘘が吐けない俺からボロが出てしまいそうで、無理やり話を終わらせた。
「分かった、聞いてみるよ。 あともう一つ聞いていい?」
「……はい?」
「セナと付き合ってんの?」
「…………っっ……」
思ってもみなかったド直球な質問に、固まるしかなかった。
聖南の立場上、こんなデリケートでプライベートな事を簡単に頷くわけにはいかない。
口を閉ざした俺の反応を見て、やっぱり勘の鋭いアキラさんは「ふーん」と何やら納得した風でコーヒーを飲んでいる。
「そっか。 ……何ていうか……もしハルも本気でセナの事好きなら、セナはあんなだけどめちゃめちゃ良い奴だからさ。 何があっても……よろしくな」
「………………」
「しかしハルが男だとはなぁ……ビックリした」
もう完全に俺と聖南が付き合ってると確信しているアキラさんが、足を組んで改めて深く座り直した。
「あ、別に男だから何か思うとかじゃないから安心してな」
「………………」
「セナってさ、あんまり感情表現うまくないっていうか、ああ見えて一人で抱えて一人で騒いで、昔から全部自分だけで背負い込もうとするんだよ。 俺もケイタも小さい頃からセナと一緒にいるけど、セナは二つの顔を持ってると思ってて。 バカ正直で明るいセナと、何でも一人で抱えて頑張り過ぎて自爆するセナ」
「二つの、顔……」
「うん。 だから、セナが頑張り過ぎないようにハルが見張っててやってよ。 セナは独りで生きてきたような人間だから」
「………………」
困惑する俺をよそに、デイルームから見える外の景色を眺めながらアキラさんはコーヒーをすべて飲み干した。
あんなにポジティブで明るい聖南が、自爆するほど抱え込む質だとは思ってもみなかった。
まだまだ知らない聖南がいて、しかもそれは根が深そうだ。
のほほんと暮らしてきた俺では考えもつかないような悩みを、たくさん乗り越えてきたんだろうな……。
「ハルも病室戻るだろ?」
「あ、いえ……まだ連絡しなきゃいけないとこあって……」
「そ? じゃあ俺先に病室戻ってるな。 四時前にはここ出るわ」
「はい……」
コーヒーの空カップをゴミ箱に放ったアキラさんに、ありがとうございます、と言うと笑顔を見せてくれて、何ともスマートに聖南の病室へと入って行った。
連絡するとこなんてないけど、気恥ずかしいあの空間に、さらにアキラさんも居るっていう状況の中に戻る勇気はなくて、俺はスマホを握ってソファに沈む。
「俺なんかでほんとにいいのかなぁ……」
アキラさんの戸惑いの理由が分かるだけに心苦しく思いながらも、何であんなに背中を押すような話をしてくれたんだろう。
まだまだ知り合って間もないから、聖南の心の内まで知ることなんて出来ないし、平々凡々な俺にはとてもじゃないけど聖南という大きな存在を支えられる気がしない。
アキラさんは応援するつもりで話してくれたんだろうけど、聖南の隣に並ぶべき相応しい人が、他にもっといるはずだって気持ちが再燃してきてしまった。
でも今そんな不安を打ち明けたら聖南を悲しませてしまうだけかもしれないから、退院したらゆっくりじっくり話そうと思う。
またその話かって呆れられそうだけど。
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