41 / 541
10❥
10❥4
しおりを挟むハルによると、「自分は今学校で、ちょうど休み時間だから何か理由をつけて早退の旨を教師に伝えたりで、諸々合わせて一時間近くかかる」と言っていたが、それでも大急ぎで来てくれるようで安心した。
アキラはスマホを手に、聖南の寝顔を見詰めてしばし呆然とする
聖南が騒いでいたあの「ハル」が、実は学生で、未成年な上に、男……。
好きだ!一目惚れだ!と騒ぎに騒いで悩みまくっていた聖南を思い出し、真剣に話を聞いてやらなくて申し訳無かったとアキラはその時初めて後悔した。
また聖南の事だから、そこら辺の顔がいいだけのタレントの卵を捕まえて恋だ何だと騒いでいるだけかと思ったら、相手を知れば本気度合いを突き付けられ、彼なりに真剣な恋をしているのだと思わざるを得なかった。
「そりゃあんだけ悩むよな……」
昔から容姿端麗で、今は精悍さもプラスされた、外見だけであれば「聖南よりイケてる」と思った奴はいないというほど整った寝顔を見ながら、「まさかあのセナがなぁ…」とアキラは一人しみじみと呟く。
ハルを待つ間、聖南の様子を見ていると何分かおきにやはり苦しそうにハルを呼んでいたが、目覚める気配はなかった。
医師を連れて戻ってきた成田にその場は任せて、アキラはサングラスを掛けると一階の待合室へと降りた。
ハルはどんな人だろう。
「恋してる?」としつこいほどルンルンだった、あんなに聖南が夢中になるなんてと、サングラスをしていても芸能人オーラが出てしまっているアキラは相当興味津々だった。
一階は患者でごった返しているので、アキラは注目を集めていたが気にせずに、雑誌を読むフリをしながら入り口を注意深く観察する。
何しろアキラはハルを見た事がないので、当てずっぽうでいくしかない。
しばらくすると、慌てた様子で自動ドアから院内へ入って来た制服姿の男子高校生が目に入り、アキラは「なるほどな」とそれがハルだと瞬時に分かって立ち上がった。
制服姿だというのもあるが、その見た目で納得である。 男と言うには中性的過ぎるハルの容姿は、聖南のタイプにどハマりしそうだ。
「ハル?」
「……はいっ」
キョロキョロとアキラを探すハルに近付いて声を掛けると、ハッとしたようにアキラを見上げて頷いた。
間近で見るハルはやはり男には到底見えなくて、小柄さも相まって可愛さが際立つ。
「こっち、ついてきて」
サングラス越しにうっかりまじまじと見てしまいそうになったが、不安そうに頷くハルを前にしては、早く聖南に会わせてあげなければと足早に最上階の病室へ向かう。
「ここな。 多分ハルはいつ来ても大丈夫だと思うから、来れる時は来てやって。 俺ちょっと電話してくるから中入ってていいよ」
ハルを待つ間にマネージャーの成田が事務所へ戻って行ったのは確認済みなので、アキラは気を利かせて二人きりにしてあげようとハルの背中を押す。
「はい……。 アキラさん、電話くれて……ありがとうございます」
ペコッと頭を下げて病室へ入って行く後ろ姿を、アキラはスマホを取り出しながら複雑な思いで眺めていた。
… … …
聖南は、だんだんと意識が戻ってきている事を自覚し始めていた。
とは言ってもまだ脳がぼんやりとしていて、眠ったり意識が冴えたりを繰り返し、当然目は開けられないでいる。
縫われた傷跡が熱っぽく、腫れぼったくはあるが、腕に刺された点滴のおかげか痛みはほとんど感じなくなっていて、早く目を覚まさなくては周りに心配を掛け続けてしまうというのも理解していた。
つい先程は成田とアキラとケイタがこの病室に居て、薄っすらとだが話の内容も聞いていたのである。
『やっぱそういう事だったのか……俺マジで何してたんだろ……クソ野郎じゃん……』
すべては聖南の今までの行ないからもたらされた事件であり、刺したあの女は完全なる加害者ではないと聖南自身も思う。
あの時聖南は咄嗟に身を捻って交わしたため、縫合されている最中、飛びそうになる意識の中で医師達の「内臓の損傷はないな」という話も聞こえていたので、聖南は安心して麻酔をお供にそこから深い眠りについた。
起きては意識を飛ばしての繰り返しである聖南は、たった今も、ガラガラ…という扉の開閉音でまた意識を取り戻す。
『今度は誰だろ……』
目を瞑ったまま入ってきた人物に意識を集中させていると、ベッド脇にやってきた気配は座るでもなく、声も掛けてこない。
───だが。
『あ……この匂い……』
ふわっと香ったのは、忘れもしない葉璃の部屋の匂いだった。 シャンプーのような、柔軟剤のような、まさに葉璃らしい柔らかな香りだ。
もしかして夢を見過ぎてテレパシーが通じたのかと、聖南はまさかと思いながらも確かめたい一心で、恐る恐る目を開く。
初めは眩しさで視界が真っ白で、そこに立つ人影がボヤケてしまって目を細めていたが、だんだんと光に慣れてきた。
すると聖南の視線の先には、可愛い恋人(暫定)が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「……葉璃……」
眠ったままだったせいかしゃがれた声で名前を呼ぶと、葉璃はハッとした表情のあとすぐに涙を零してしまった。
「聖南さんっ……」
「葉璃……泣くな」
点滴が繋がれた右腕を上げ、同時に屈んできた葉璃の頬に触れる。
指で涙を拭ってやり、ヘラっと笑ってやると、葉璃はポロポロと涙が止まらなくなってしまった。
「聖南さんっっ」
「大丈夫だから。 ほら、俺超元気」
「そんな訳ないでしょう! ……うぅぅ……っ……」
床に膝をついてベッドに突っ伏し、わんわん泣き始めた葉璃の頭をゆっくりと撫でてやる。
まだ笑顔も見た事がないのに、こんな愚かな過去の自分の過ちのせいで葉璃を泣かせる羽目になるとは、何とも不甲斐ない。
「泣くなって……葉璃。 俺は大丈夫だから。 ……これは俺への罰だ」
その場が楽しけりゃいいじゃんなノリだった、軽い気持ちで行ってきた数々の事象の代償。
過去を振り返りもしない汚れたままの自分では、葉璃を好きになる資格なんかないと、誰にともなく告げられた気分だった。
25
お気に入りに追加
320
あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる