必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 一旦車から降りた聖南は、近所にあったコーヒーショップに寄ってエスプレッソを持ち帰りで注文し、店員や客達がザワザワし始めたので出来上がったと同時にすぐに店を出た。

 車内でゆっくり飲もう、そして落ち着こう……と伊達眼鏡をクイッと上げた先に、memoryが帰宅している所と遭遇した。

 スタジオに横付けされたワンボックスカーにメンバーが乗り込む所で、聖南はまた無意識に葉璃の姿を探した。

 眼鏡を外して目頭を押さえ、いくら目を凝らしてもハルカの姿も葉璃の姿も乗り込まないまま車は発進してしまい、首を傾げる。


『居なかった、?  ……んっ? ……はぁ?』


 ふと見付けた目の前の光景に、自身の目を疑った。

 彼らは正面の出入り口ではなく、裏口から出て来た。  その彼らとは、男の姿の葉璃とマネージャーの佐々木だ。

 聖南に気付いていない二人は、何事かを会話しながらこちらへ歩いて来ている。


『何で別行動なんだよ、あんな奴と!』


 聖南の勝手な妄想だが、二人は非常に仲睦まじそうに見えた。

 持っていたコーヒーを握り潰しそうになり、心中で激しく憤ってしまう。

 そんなグラグラな胸中だったが、葉璃の本当の姿を見ても不思議と聖南が否定していたような気持ちにはならない事に気付いた。

 見た目は申し分ない。

 胸は無いしお尻も小さいけれど、腰は細そう。

 葉璃の髪は染めていない焦げ茶でもちろんショートカット、触り心地がとても良さそうにふわふわ。

 佐々木を見上げて何かを喋っている姿は、葉璃が男性としては小柄なせいかキュンキュンものだった。

 見惚れていて二人が至近距離まで迫っていた事に気付かず、佐々木から声を掛けられてハッとした。


「あ、セナさん。  お疲れさまです。  ……この事は他言無用でよろしくお願いしますね」


 何もかも知ってますよ顔の佐々木は、唇の端を上げているので笑顔を作ろうとしているのかもしれないが、彼の理知的な眼鏡の奥は全然笑っていない。


「お疲れ。  葉璃くん、だっけ? これから何も予定ないんすよね?」
「えぇ、まぁ。  今からご自宅にお送りする所です。  では、失礼します」
「じゃあ俺が送りますよ。  佐々木さん仕事残ってんでしょ?」
「え?  いや、結構です」
「別に何かするわけじゃないって。  ちゃんと送り届けたら連絡すっから。  なっ?  だからこんな事しても大事にすんなよ、お互いバラされたくねー事抱えてんだか、らっ」


 言いながら困惑気味の葉璃の左腕を取り、言い終わる前に一目散に我が車を目指して全速力で走り出した。

 「あっ!」という佐々木の声にも怯まず、左手にコーヒー、右手に葉璃の腕をそれぞれ握って無我夢中に駆ける。

 まるでそれは愛の逃避行のようだと笑みを浮かべたのは聖南だけで、突然の事に訳が分からない葉璃は何度も佐々木を振り返っていた。



 そう。  聖南の行いは世に言う、人さらい…拉致であった。





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