21 / 541
6❥
6❥4
しおりを挟む「あ、待って、このあと時間ある?」
ハルカが弟の葉璃だと知っても、聖南はそれでも引き留めてしまった。
完全に条件反射だった。
それがハルカへの恋愛感情の延長なのか、引き留めようという意識が無かった聖南には自らの行動に説明を付けられない。
ただ咄嗟に、意志とは関係なく葉璃の左腕を取ってしまったのだ。
「いや……分かんないです。 色々ほんとに……すみませんでした」
失礼します、と言いながら聖南の手をやんわり払うと、そのまま葉璃は出て行った。
扉の向こうで、待ち構えていたのかmemoryのマネージャーである佐々木の声がした。
「ハルカ、大丈夫だったか? みんなトイレ休憩終わって揃ってるから、早く行こうな」
あっさりと誘いを断られた事に愕然としながらも、あれだけ妙だと思っていた原因が分かって良かったじゃないかという安堵感も共存している。
しかし聖南の眉間には濃い皺が刻まれていた。
「何が、早く行こうな♡だよ。 あの鉄仮面……」
業界では、礼儀はきちんとしているがとにかく無愛想なマネージャーとして有名な佐々木の、あんなに優しげな声は聞いたことがない。
ヨシヨシと頭を撫でてでもいそうな雰囲気に、中でバッチリ聞いていた聖南の心中は何だか胸糞悪かった。
残された聖南は、葉璃が出て行った扉を見詰めたまま大きく溜め息を吐く。
この燃え上がった恋心を、一体どうしてくれるのか。
……途方に暮れた。
当然、女性である姉のハルカの事が好きなのだろうと自分を納得させようとするも、性別が違うのだから消去法になるはずなのに、なぜこんなにも迷うのだろうか。
『迷ってる時点でハルカにも申し訳が立たないな……』
聖南の猛烈な想いの行き場がふいに無くなった気がして、これではダメだとスマホを手に取る。
連絡した先はもちろんハルカだった。
まず、葉璃にすべての事情を聞いた事を伝えて、春香のギプスに気付いて違和感を覚えロクに連絡しなかった事も素直に詫びた。
そして、今自分はとても混乱しているから、付き合うという話は一旦忘れてほしいとの身勝手なお願いにも春香はすんなり承諾してくれた。
「私達が混乱させてしまう原因を作ったから、謝るのは私の方です」と完璧なまでの潔さであった。
本当に物分りのいい子で、聖南が今まで出会った女性でこんなに殊勝な人は一人もいなかった。
皆が皆モデルやタレントだったからか、自分にやたらと自信のある女性が多く、聖南に愛されたい一心での優しさはあったが、基本的には自分が一番だ。
相手を思いやる気持ちなど、生まれてからずっと芸能界にいる聖南にとっては忘れかけていた事である。
「あーでもこの胸のモヤモヤはどうしたらいいんだぁぁぁっ」
ハルカとの話も付き、謎の違和感も払拭され、今現在は相当な開放感に包まれていないとおかしいはずだ。
仕事は終わったのだからここでウダウダしていても仕方がないと、渋々立ち上がる。
聖南は取り持ってくれた編集者と受付に挨拶して、側のパーキングに停めていた自前の車に乗ってエンジンを掛けた。
走り出そうとサイドブレーキを解除しようとして、動きを止める。
魚の小骨が喉に刺さってなかなか取れないようなむず痒さだけが残ってしまっていて、どうもスッキリしない。
聖南が一目惚れしたハルカが、まさかのまさか、男である葉璃の方だったせいだ。
対面した葉璃は完全に女の姿だったのでムラムラっとしたけれど、男の姿の葉璃だと果たして『食べてしまいたい!♡』と思えるのか、甚だ疑問だった。
聖南の恋愛対象は完全に女性オンリーで、何なら女好きな方だ。
柔らかな体、豊満な胸、ふくよかなお尻、滑らかな肌、細い腰……挙げればキリがないほど。
綺麗な顔をした華奢な男はこの世界にはゴマンといるが、聖南の大好きな女性の特徴を兼ね備えていない男というものに、これまでまったくそそられもしなかった事を考えると、聖南の中で答えは出たも同然だった。
34
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる