必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
17 / 541
5♡

5♡4

しおりを挟む



「葉璃……入っていい?」


 ダンススクールから帰ってきて、シャワーとご飯を済ませた俺は自室で黙々と宿題をしてたんだけど。

 控えめなノックと、扉の向こうの春香の遠慮がちな声音ですべてを察してしまった。

 あれからもう一週間だ。

 毎日しょんぼりが晴れない春香を見ていたから薄々は気付いてたけど……たぶん来なかったんだ、セナからの連絡が……。


「……いいよ」
「こないの」
「…………そっか……」


 これは明らかにおかしい。

 一度も携帯に触らない日なんて、今のご時世ないに等しい。

 文字を読んで、返事を打つ作業は三分もあれば出来るはずで、その時間すらないって時は電話という手もあるんだ。

 でもこればっかりはセナの言い分を聞かない事には、俺らがここでいくら議論しても連絡を寄越さない理由など分からないものは分からない。


「ねぇ春香、電話……してみない?」
「え……したいけど……無理だよぉ」
「でもずっとモヤモヤするの嫌じゃないの?  なんで連絡できないのか、彼女なら聞いてもいいと思うけど」
「彼女……なのかな?  私が勘違いしてるのかもしれないし……」
「俺もこの耳でしっかり聞いたよ?  付き合おっかって、セナの方が言ってたよね」


 元々、ネガティブな性分ではあるが物事はハッキリさせたいタイプな俺は、春香のこの現状にはまったく納得出来ず、セナに説明を求めたい一心だった。




 結局、あの時は春香の意思がビビって固まらず、電話はせずにもう少し待つと言ってたけど、あれからさらに一週間経っても何も音沙汰がないみたいだ。

 ついに春香は、あのセナから告白されたという事、付き合おっかっていう言葉を聞けただけでも嬉しいと言い出すほど追い込まれていて、その姿は痛々しいとすら感じてしまう。


「今日は雑誌取材だから、葉璃は何も心配しなくていいからねー!」


 春香が心配だったけど、土曜日である今日は例の雑誌取材の日で、指定された時間にダンススクールへ行くと一足先にメンバーは集まりだしていて、声を掛けてきた美南も早めに来たのかすでにメイクが済んでいる。


「今日ここでメイクとかして行くの?」
「そうそう。  取材の現場が小さい写真スタジオで、控え室が狭いからメンバー皆入ると窮屈なんだって」
「そういう事か」
「葉璃は向こうの休憩室にメイクさんいるから、行っておいでー。  一時間後に出発だよ」


 張り切って活き活きしてる美南に、ありがと、とお礼を言って俺は三度目のメイクを施されに向かう。


「葉璃くん、おはよー」
「お、おはようございます」


 お馴染みのメイクさんの顔を見ると安心して、今日はテレビ局のスタジオじゃないから大きい鏡はないけど、される事は同じだから促された椅子に座って目を閉じる。


「今日で最後なんだっけ?  春香の影武者」
「一応はそうですね。  早ければ来週にはギプス外れるらしいです」
「そっかぁ。  ギプス外れてもしばらく動かすのは厳しいんじゃない?」
「まぁ……そうでしょうね。  けど、再来週以降、今の所大きな仕事は入ってないみたいだし、俺はこのまま今日で終わりがいいなぁ」
「ふふ。  葉璃くんのメイク慣れてきちゃったから、少し寂しい気もするよ、私は」


 そんな世間話に笑っているとメイクが完成し、衣装に着替え、出発十分前に佐々木さんが迎えにやって来た。

 今日は俺は顔を作って写真撮影して、インタビュー中は記者の人から一番遠い席でただ時間が経つのを待てばいい。

 突然の影武者任務は今日で最後。

 やっと、この緊張やプレッシャーから解放される。

 俺はそう、気楽に考えていたんだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

処理中です...