必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
15 / 541
5♡

5♡2

しおりを挟む



『失礼、します……』


 強張った声色は、いつもの抑圧的なものじゃない。  よほど緊張してるのか、イヤホンでも聞き取りづらいほど声量も小さかった。


『あ!  ほんとに来てくれたんだ!  ……ありがと』
『いえ……』


 春香を前にしたチャラいアイドルは、今まさにキラキラな笑顔でも浮かべてそうなくらい嬉々としている。

 芸能界というものにまったく興味が無かった俺は、セナって人がどれくらい人気で凄い人なのかを知らないから、春香が見初められたとしてもあまりピンとこない。

 俺に話し掛けてきた時も相当チャラかったから、誰にでも言ってるんじゃないのって心配になる。


『来なかったらどうしようと思ってたんだよー。  俺の気持ち言った後だから、気持ち悪がられたんじゃないかって』
『そんな……! 嬉しかったですっ……』
『ほんと?  嬉しいって思ってくれた?』
『はい……でも、なんだか夢見てるみたいで……』
『そっか。  じゃあ、俺たち友達からって言ったけど、もう付き合っちゃおっか?』
『……いいんですか、私で……?』
『俺が一目惚れしたんだから、いいに決まってる。  はい、これ俺のプライベートの連絡先。  いつでも連絡して』
『ありがとうございますっっ』
『……じゃあ俺もう出番らしいから先に行くな。  ほんとにありがとう。  連絡待ってる』
『はい!!』


 ガチャ、と扉の開閉音が聞こえて、足音が遠退いていく。

 ……どうやらうまくいった雰囲気だ。  呼吸も忘れてしまいそうなほど、こっちが緊張したよ……。

 恐らく夢心地で動けないだろう春香の元へ行ってやろうとビル内に戻る。

 するとまた、佐々木さんと出くわした。


「おぉ、よく会うな」


 佐々木さんは笑いながらタブレットを小脇に抱えた。


「ほんとですね」
「驚いたじゃないか。  まさかここから人が出て来ると思わないから」
「すみません」
「親御さんは?  来たのか?」
「い、いえ、まだ……」
「もし遅くなるようなら俺が送ってやるから、遠慮なく言えよ。  俺今から三階のCスタにいるから」
「はい、心配かけちゃってすみません。  ありがとうございま……」


 訳アリでみんなと別行動してる後ろめたさで、佐々木さんの優しさを申し訳なく思いながらペコッと頭を下げようとした時、目線の先にセナがこちらに歩いて来ているのが見えた。

 一瞬、ヤバッ!て思ったけど、今の俺はユニセックスだけど男の格好だし、フード被ってるから顔もロクに見えないだろうからバレる事はない。

 逆にあたふたしてた方が怪しまれる。

 それでも何となく見付かりたくなくて、佐々木さんの長身の影に隠れてセナが通り過ぎるのを待った。

 だが、───。


「室内でフード被ってちゃ怪しまれるぞー、少年」


 と、なんとセナの方から近付いてきて、あげくわざと被っていたフードを後ろへやられてしまった。

 何するの、という気持ちを前面に出しながらセナを見上げると、セナは笑顔から一変、ハッとしたように俺を見詰めてくる。

 それは、凝視と言ってよかった。


「君……」
「…………っ?」


 な、なんだ、なんでそんなに見るんだよっ。

 まさか俺、メイクちゃんと落とせてなかったとか!?


「セナさん、もう出番押してるでしょう。  早く行かないと」
「あ、あぁ……そうだった、memoryのマネの佐々木さんだよな?  じゃ、またな」
「はい、お疲れ様です」


 セナは立ち去りながらも、まだチラチラと俺を振り返ってきていて居心地が悪い。

 凝視されるのは御免だとばかりに、佐々木さんの背後に回って彼の視界から消えてやった。

 何も知らない佐々木さんのナイスフォローに心底助けられた俺は、その後すぐに春香と合流し、母親に迎えに来てもらって帰宅の途に付いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

イケメン仏様上司の夜はすごいんです 〜甘い同棲生活〜

ななこ
恋愛
須藤敦美27歳。彼氏にフラれたその日、帰って目撃したのは自分のアパートが火事になっている現場だった。なんて最悪な日なんだ、と呆然と燃えるアパートを見つめていた。幸い今日は金曜日で明日は休み。しかし今日泊まれるホテルを探す気力がなかなか起きず、近くの公園のブランコでぼんやりと星を眺めていた。その時、裸にコートというヤバすぎる変態と遭遇。逃げなければ、と敦美は走り出したが、変態に追いかけられトイレに連れ込まれそうになるが、たまたま通りがかった会社の上司に助けられる。恐怖からの解放感と安心感で号泣した敦美に、上司の中村智紀は困り果て、「とりあえずうちに来るか」と誘う。中村の家に上がった敦美はなおも泣き続け、不満や愚痴をぶちまける。そしてやっと落ち着いた敦美は、ずっと黙って話を聞いてくれた中村にお礼を言って宿泊先を探しに行こうとするが、中村に「ずっとお前の事が好きだった」と突如告白される。仕事の出来るイケメン上司に恋心は抱いていなかったが、憧れてはいた敦美は中村と付き合うことに。そして宿に困っている敦美に中村は「しばらくうちいれば?」と提案され、あれよあれよという間に同棲することになってしまった。すると「本当に俺の事を好きにさせるから、覚悟して」と言われ、もうすでにドキドキし始める。こんなんじゃ心臓持たないよ、というドキドキの同棲生活が今始まる!

処理中です...