必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「………………」


 すると葉璃は、そんな聖南の下心満載の気遣いに苦笑で返してきた。

 葉璃自身は、突然隣から声を掛けられて驚きながらも、声で男である事がバレたら終わりなのでとりあえず表情だけで返事しただけなのだが……。


『やっば!! 笑顔も超可愛いー! 唇ぷるぷる~♡ キスしてぇ!』


 葉璃の事情など知らない聖南の心中は、笑顔を向けられたと大興奮だった。

 CMが明けても興奮は治まらず、司会者からの問い掛けの返答もそこそこに、葉璃の気配にだけ意識が集中している。

 聖南が面白おかしく場を盛り上げるいつもと違い、アキラが今日は頑張ってくれているのでそれに甘んじていた。


「俺の事知ってる?」


 まだ司会者とアキラの会話は続いているというのに、カメラが聖南を抜いていないのをいい事にさらに葉璃に話し掛けた。


「………………」


 知らない、と首を横に振る葉璃は、やたらと話し掛けてくるチャラいアイドルを早くも警戒し始めたのだが、そんなささいな動作も聖南には良い様に捉えられている。


『生放送だから緊張してんのかなぁ?  そりゃそうだよな。 てか俺の事知らないって……それもすげぇ高ポイント!  あーほんと、マジでキスしてぇなぁ』


 うっかり見詰めてしまいそうになるのは我慢して、いよいよCROWNの出番になった。

 葉璃と離れるのは惜しいが、ここからはアイドルスイッチをONにしなければならない。

 格好良く歌って踊る姿を見せて、少しでも葉璃に覚えてもらうためだけに、今日はいつも以上にやってやる。

 聖南の頭から、日頃から応援してくれているファンというものがすっかり置き去りにされた瞬間だった。

 だがそんな願いも虚しく、歌いながら覗き見る葉璃はまたも手のひらに何かを書いていて、聖南の事など1ミリも見ていなかった。

 マイクを通して呼び掛けたいほど焦れったくなったものの、生放送でそのような事は本当にはしないし、第一まだ名前すら知らないので出来るはずもない。


『あの手のひらに何か書いてあんのかな?  頼むから俺のこと見てくれよー。  今は君のために歌ってんだぞー』


 少しくらいこちらを見てくれてもいいのに、緊張しているのか目線が下がりっぱなしの葉璃がますます気になって仕方なくなる。

 そんな邪な思いに駆られている聖南の心中など知らない、女性の共演者や女性スタッフは聖南の歌う姿にうっとりと目尻を下げて見ていた。

 聖南は背が高く、長い手足に今時の派手な顔立ちで、モデルとしても活動しているだけあって出で立ちだけで目を引くものがある。

 本人の趣味で金髪に近い茶髪の長髪と両耳のピアスがヤンチャ度をぐんと上げてはいるが、口角の上がった口元と笑った時に頬にできるえくぼ、覗き見える八重歯で可愛らしさまでも兼ね備えていた。

 リードボーカルなだけあって類稀な歌唱力があり、幼い頃から舞台で培った強い喉が自慢だ。

 伸びのある低めの甘い歌声は、聴く者を一瞬でその曲へと引きずり込んで虜にさせてしまう。

 しかも人懐っこい性格で裏表がない……というよりも、違う自分を演じるという事が唯一苦手なので、芝居からは早々に手を引いてアイドルやモデル、時には作詞作曲までこなして活躍している異色のアーティストだ。

 物言いたげに見詰めて甘い一言を囁やけば、落ちない女はいなかった。

 なんなら共演すると皆、聖南を熱い視線で見詰めてくるので気付かぬフリをするのが大変である。


『あーあ。  結局最後まで俺のこと見てくれなかったなぁ』


 曲が終わり、三秒間視聴者へ大サービスの笑顔をカメラに送る聖南の心がザワついていた。

 続いてmemoryの出番となり、司会者側にいた葉璃はいつの間にか司会者とは一番遠い席に移動している。

 出番が終了したCROWNはmemoryの後方の席へ、アキラ、ケイタ、セナの順で着席するよう誘導された。

 本番中一度も観てもらえなかった寂しさでしょんぼりしていた聖南は、もう期待はするまいと思いながらも気になって仕方がない葉璃の方をチラっと見てしまう。

 次の瞬間だった。


『…………っっ』


 なんと不意打ちで目が合ってしまったのだ。

 刹那、聖南は歩を止めて立ち止まり、葉璃を凝視した。


『……な、……なんだ、……この気持ち』


 立ち止まった聖南に気付いたケイタに素早く着席させられたけれど、聖南は葉璃の後頭部を見つめ続けた。

 目が合ったのはほんの一瞬ですぐに逸らされてしまったが、葉璃の目力につい体全体が引き込まれそうになった。

 それは聖南にとっては初めての経験で、とても変な感覚だった。



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