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63・ETOILE初舞台当日
〜葉璃の大志 Ⅲ〜
しおりを挟むヘアメイクを終えたところに、聖南と同じ衣装のアキラとケイタが走り込んできた。
MVと会見の際に着用した衣装に着替え直している恭也も一緒だ。
「ハル!!!」
「ハル君!!!」
「葉璃っっ!」
支度の整った聖南と葉璃は、手当てのために救護室へ向かうところであった。
駆け寄ってきた三人は、攫われた当人よりもツラそうに顔を歪めている。
事情を知っているであろうこの三人にも、恐らく多大な心配と迷惑をかけてしまっているはずだと、葉璃は勢い良く頭を下げた。
「っっすみませんでした!! ご迷惑おかけしました……! いくら謝っても時間は戻せないけど、俺はこの通り元気なので、心配しないでくだ……」
「良かったぁぁぁ……! ハル君、……良かったよぉ~っ」
「ハル……ほんとに何ともないのか? 今日の出演見送ってもいいんだぞ?」
「葉璃、……葉璃……無事で良かった……っ」
ケイタは半泣きで葉璃の両腕を取り、アキラは眉を顰めて背中を擦ってくれ、恭也は今にも膝から崩れ落ちそうに弱々しく葉璃を見詰めてくる。
右脇腹の火傷以外、あの現場で怒声を張れるほど元気な葉璃は、こんなにも心配されていたとは知らずに瞳を丸くした。
「あ、あの……俺……」
感極まって言葉に詰まり、三人を見回しているとふと、聖南が優しく葉璃の腕を取る。
そして力強くアキラ達を見た。
「アキラ、ケイタ、恭也、呼び出して悪かったな。 すぐ出番だからその前に葉璃に会わせてやりたかった。 この通り無事に戻ってきて早々だけど、葉璃のたっての希望で二部からライブを再開する。 時間の関係で三部前半とプレゼント大会は全面カットだ。 流れは五分後に舞台監督と急いで話し合うんで、二部終わりの衣装替えん時に打ち合わせ入るからな、そのつもりで。 ダンサー達集めて袖で待機しててくれるか」
「分かった」
「了解、ボス」
「……葉璃……大丈夫? 無理は、しないで……」
「大丈夫だよ、恭也。 ありがとう。 ……ごめんね」
「ううん。 ……良かった。 戻って来てくれて、ありがとう、……葉璃」
葉璃の手を握った恭也がなかなか離そうとしないので、「恭也も待機よろしくな」と聖南はやんわり笑んだ。
三人はステージ袖へ、衣装を持った聖南と葉璃は救護室へとそれぞれ向かう。
残業を余儀なくされた看護師に軟膏を手渡し素早く応急処置を受け、葉璃の着替えのために退室してもらった救護室は今、聖南と葉璃の二人だけだ。
物言いたげな聖南にジロジロ見られて着替えにくかったが、葉璃は衣装に袖を通す。
なぜか手当てを受けてからの方が、患部がジンジンと疼き始めて気にはなったけれど……それは聖南には言わなかった。
「ネクタイ締めてやる」
「あ、ありがと……。 聖南さんが腹痛でライブ中断って事になってるの……?」
「ん。 そういう事にしといた。 ……公になると困るんだろ」
「……そう、だけど……。 それだと聖南さんがファンの人達から責められちゃうよ」
「それでいいんだよ。 こんな事になったのも、もとはといえば俺のせいだ。 葉璃を傷付けたのも、もとを正せば俺って事になる。 俺が矢面に立たねぇと、俺自身の気が済まねぇ」
「……聖南さん……それは違います。 聖南さんのせいじゃない。 あの人達が勝手に……」
「葉璃。 俺の好きにさせて。 だいぶ乱されちまったけど、葉璃の初舞台、誰よりも楽しみにしてたのは俺だから」
「聖南さん……」
丁寧にネクタイを結んでくれた聖南の瞳が揺れている。
攫われた葉璃が今ほとんど恐怖心を抱いていないのも、ものの数十分で救出に来てくれた聖南のおかげなのだ。
葉璃が目の前にいて尚、どこか不安そうに、悲しそうに聖南は瞳を潤ませていて、ソッと優しく抱き竦めてきた。
「俺……葉璃の事守れなかった……。 悔しいし、情けねぇ…。 …汚ねぇ俺が純潔な葉璃の隣に居る資格なんかないって惚れた瞬間から分かってたんだよ。 でもどうしてもお前の隣に居たいんだよ。 俺の隣でかわいく笑っててほしいんだよ。 ステージの上で蝶みたいに綺麗に舞ってる葉璃を見てたいんだよ…」
耳元で切々と語る聖南の吐息が熱い。
葉璃だって、自分は聖南の隣に居るべきではないと何度思ったか知れない。
それでもしつこく「離れないで」と追い掛けてくれて、ゆらゆらしていた葉璃の気持ちも固まった。
聖南との付き合いが始まってから、葉璃の人生は確然と良い方へ一変したのだ。
改まって不安を吐露する聖南の背中に腕を回すと、葉璃の脇腹を庇いながらも腕に力を込めてきた。
「……俺が出来る事はなんでもするって言っただろ。 葉璃の初舞台を輝かせるためなら、俺はどんな非難だって受ける。 どんな嘘だって吐いてやる。 ……なぁ葉璃。 ……一緒にステージで……踊ってくれるか?」
こんな俺と、と言葉が続きそうだった。
確かに他人が聞けば聖南が主として悪いと捉えられても、おかしくはないのかもしれない。
けれど葉璃は、この件は絶対に、聖南のせいではないと思っている。
何なら、あの究極の場面でようやく自分の意思に気が付けたので、聖南に責任を感じてほしくなどなかった。
聖南と出会うため、聖南と成長するために起こった必然の出来事だったのだと、葉璃は信じて疑わない。
「もちろんです。 俺はそのために産まれてきたんです。 聖南さんとステージに立って、同じ時を過ごすために。 俺自身も、聖南さんと一緒に、輝くために」
「…………俺のお嫁さんは強くてかっこよくなったな」
「聖南さんのカッコ良さには負けます。 でも俺、……少しは強くなったかな?」
「なったよ、なった。 ……俺を輝かせ続けたいって言ってくれた葉璃の気持ち、しっかり受け取ったから。 俺が指揮取ってる以上は、全部プラスに持っていけるように旦那は頭をフル回転させて頑張る。 強いお嫁さんも付いてるし」
「ふふっ……聖南さん、旦那さんっていうよりやっぱり、旦那様って感じ」
「葉璃だけの旦那様だ」
聖南が、控えめに笑う葉璃の頬を優しく撫でた。
見上げると、葉璃の約二十センチ上から、照れてつい目を背けたくなるほどの色男が自分を見下ろしている。
葉璃だけの恋人……旦那様は、フッと美しい笑みを携えて手を握ってくると───。
「行こっか。 キラッキラなステージに」
トップアイドルCROWNのリーダー、セナの顔をして葉璃を見詰めた。
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