必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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62・ETOILE初舞台前日

〜アキラ&ケイタ&葉璃 編〜

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「いいですって! 俺一人で行きますから!」
「ダメだ。 ハル一人で出歩かせたらセナに殺されるだろ」
「しかも夜遅くだけどどこで誰が見てるか分からないんだから、ハル君はここに居て」


 三人は部屋へと入るなり、小さな言い合いをしていた。

 それというのも、ついさっき三人前以上の食事をとったはずの葉璃が、「甘いものが食べたい」と言い始めたからである。

 夜中と言っていい時間にも関わらず、ホテルから数分歩いた先のコンビニまで一人で行くと言い張って聞かないので、アキラとケイタは必死で葉璃を止めていた。


「ほんのちょっと歩けばコンビニなんですから、大丈夫です!」
「じゃあ俺らも行く」
「え!? CROWNがここに泊まってるってバレちゃマズイんですから、お二人こそここに居て下さい!」


 なかなか言う事を聞かないので、アキラが自分達も行くと言えばこう返ってくる。

 夜中に葉璃を出歩かせるなど聖南に殺される、と言ってはいるが、アキラとケイタも心配でたまらないのだ。

 譲らない葉璃はまだ一歩も動かない。

 二人はそんな葉璃を通せんぼするかのように、扉前で腕を組んでいる。


「てかルームサービスでデザート頼めばいいじゃん。 なんでコンビニまで行こうとするかなぁ」
「だってお高いじゃないですか。 思ってる値段の倍以上するんですよ? だったらコンビニで充分ですもん……」
「そんな気になるなら俺が払ってやるから、好きなもの頼めよ。 とりあえず見ろ、ハル。 あそこの電話の横にメニューあるだろ?」
「あ~ほんとだー。 ハル君、あそこにメニュー表があるよー? 見てみようよー」


 しきりに値段を気にする葉璃に、アキラがベッドサイドの簡易丸テーブルの上を指差すと、何とかコンビニから意識を逸らしたいケイタも同調した。

 二人揃って指差す先をチラッと見た葉璃は、迷わず首を振る。


「嫌です。 高いです。 俺には勿体無いです」


 ぷい、と鼻先を上げてイジけた葉璃の横顔に、アキラもケイタも釘付けだった。

 出会った頃の印象とは真逆の態度に、こんなに感情を表に出してくれるなんて、と嬉しくてたまらない。

 頑固にも「嫌だ」とワガママを言うのも、年下だからか可愛らしいとしか思わず、頬がほころんでしまう。

 しかしながらこのままここに居ても埒が明かないので、ケイタが葉璃の腕を取った。


「ほんとにもう。 コンビニはいつでも行けるんだから、ここは俺に奢られとこ」
「いや、俺が奢る。 最初に言ったのは俺だろ」
「どっちでもいいじゃん。 ハル君、何食べる? 俺も何か食べよっかなぁ」


 無理やりベッドに腰掛けさせた葉璃の両隣に、アキラとケイタも落ち着いた。

 そこでもまたどちらが奢るかという小さな争いが生まれそうになり、葉璃が戸惑いの表情で二人を交互に見る。

 ケイタがパラパラと分厚い表紙のルームサービスメニューを眺めていると、デザートの種類がかなり豊富で目移りした。

 何を隠そう、ケイタも無類の甘党だった。

 食後にはデザート欲しいよな、と呟くと、葉璃が恐る恐るケイタに視線を寄越す。


「…………ケイタさんも食べます?」
「うん。 俺甘いの好きなんだよ。 あ、これなんかハル君が好きそうなパンケーキじゃん」
「えっ……!」


 写真付きで丁寧な説明書きまで施されたそれは、以前ラジオの生放送前に葉璃が数分で食べきっていたフルーツ増し増しのパンケーキに似ていて、写真を見た葉璃の瞳がたちまち輝いた。

 それを見逃さなかったアキラはすぐさま受話器を取り、パンケーキを二つ注文した。

 選ぼうとしていたケイタの意見は無視である。


「今日は俺達がハルを預ってんだから、変な遠慮はするなよ? パンケーキ足りなかったらいくらでも注文していいんだから」
「別にパンケーキでも良かったけどさ、俺は違うやつ頼めばハル君とシェア出来たのに」
「……デザートのシェアはしないです。 分けっこは嫌なんです」
「ぷっっ……!!」


 食に関しては普通の感覚ではない葉璃が真顔でそう言い切ると、珍しくアキラが吹き出した。

 何だか放っておけないような顔立ちと守らなければと思わせる雰囲気を見事に裏切られ、とても面白い。

 ケイタもクスクス笑っていて、葉璃のきょとん顔にさらに笑いが込み上げてくる。


「そうなんだ、ハル君シェア嫌いなんだ。 ウケる」
「なんでウケるんですか!」
「て事は、セナともシェアしないの?」
「……聖南さんとはシェアっていうか、まず俺にたくさん食べさせようとするんです……。 さっきもそうですけど、俺がそろそろお腹いっぱいかなって量が最近分かるみたいで」
「マジで! もっとウケる!」


 王様のようにマイペースな聖南が、葉璃には甲斐甲斐しい理由がよく分かる。

 ぼんやりしているタイプではないのに、つい構いたくなる気持ちはアキラもケイタも、そして恭也も一緒だった。

 パンケーキを待つ間、アキラが立ち上がって紅茶を用意しながら葉璃を振り返った。


「ハルって昔からよく食べるのか?」
「どうかな……聖南さんに言われるまで、自分が食べる方だって知らなかったんですよ。 ……俺、そんな食べてます?」
「気持ちいいくらい食べてる!」
「あぁ、食べてる」


 打ち上げの席でダンサー達も驚くほどよく食べるのに、葉璃には自覚がまるでない。

 聖南は面白がりながらも葉璃の前に次々と料理を置いていたが、本人も一応満腹感を感じているらしく、それを察知する能力を身に付けている聖南は単純に凄いと思った。

 こんなに小柄なのにどこに入っていくのだろう、あれだけ食べているのになぜ細身のままでいられるのだろう……。

 嬉しそうにメニューをパラパラと捲る葉璃を見た後、アキラとケイタは同時に顔を見合わせた。



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