必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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… … …


 葉璃と恭也を乗せた成田の車が走り去っていく。

 ついさっきまで、自分と葉璃しかこの世に居ないと錯覚するほどセックス三昧だったせいで、いざ別れの時がくると離れ難くて寂しくて、情けなくも泣きながら追いかけてしまいそうだった。


「チッ、……現実は無情だな」


 コテージでの一日は、思い出にも記憶にも一生残る最高の時間を過ごした。

 少しでも葉璃を寝かせてやろうとベッドに横たえてから、ネックレスのGPSと受信機の具合を試していて時間を費やし、聖南は丸一日寝ていない事になる。

 それでもまだ眠気はこない。

 ETOILEの仕事が詰まりに詰まっていて、二人を交えてスケジュールを調整したいと林から泣きの電話が入ったため、急遽予定を繰り上げたのだ。

 実は昨日夜中にはそれが分かっていたけれど、聖南はその事をあえて考えないようにしていた。

 これからまた一週間、葉璃を思い浮かべるだけの生活が始まる。

 ひたすら葉璃の写メと歌声に耳を傾けて、恋焦がれなければならない。

 そう考えると無性に葉璃が恋しい。 葉璃もきっと、恋しがってくれる。

 葉璃を独占出来る貴重なひとときを、何事にも邪魔されたくなかったのだ。

 成田の車が見えなくなるまで見送った聖南達は、ホテルのチェックアウトを済ませて空港へと向かう。

 聖南が借りていたレンタカーは空港まで店の者が引き取りに来てくれるらしいので、三人はスタッフとは分かれ、その車で移動していた。


「セナ、お前どんだけヤったんだよ。 ハルやつれてなかった?」
「うん、ハル君見るからにやつれてた。 歩き方も変だったし」
「声も枯れてたしさ。 どんだけヤればああいう状態にさせられんの」
「ほんとだよ。 セナ禁欲してるとか言ってたから考えるのも恐ろしいよ」


 車の助手席にはアキラ、運転席側の後部座席にはケイタが乗車し、聖南が運転を担っている。

 二人から口々に問い詰められて溜め息をつかれ、徹夜にも関わらず疲れた様子のない聖南は眼鏡を上げながら苦笑した。


「どんだけって……まぁ普通」
「セナの普通は普通じゃねぇじゃん」
「あ、そうだ。 ハル君の誕生日お祝いしたんだろ? 喜んでた?」
「あぁ、喜んでくれた……と思う」


 葉璃を思い描きながらプランを立てた、スイートコテージでの甘い刻。

 同じ時間と景色を共有した聖南もまた、内心では浮かれていた。

 思い出すと恋しくなるから葉璃の話はやめてほしいのだが、アキラとケイタの追及は止まらない。


「セックス以外にちゃんと祝ってやったのか?」
「当たり前だろ。 メシ作って、ブーケとプレゼント渡して、プロポーズした」
「はぁ!? マジかよ!?」
「えぇ!? ハル君にプロポーズしたの!?」
「何だよ、なんでそんな驚くんだよ」


 聞かれたから答えただけである。

 あからさまに驚かれてしまったが、アキラとケイタには一番に婚約報告をしたかったのでちょうど良かった。


『二人して おめでとう!って言ってくれると思ったんだけどな。 こんなに驚かれるとは……』


 サングラス姿のアキラが助手席で苦笑いを浮かべていて、バックミラー越しに見たケイタもまた祝福ムードとはいかないようだ。


「いや……セナ、プロポーズはちょっと早過ぎねぇ?」
「あ~だからあの小さい花束持ってたんだね、ハル君。 あれブーケだったんだ」
「て事はハル、OKしたのか」
「かわいかったろ、カスミソウのブーケ」
「可愛かったけど……ブーケにしては地味じゃない?」
「ケイタ、思ってても言うなよ……」
「そう言うアキラも思っただろ? ブーケだったらもっと大きくて派手な色の花で作れば良かったのに」


 マスク姿のケイタが腕を組んだ。

 腑に落ちないようなので、一足早く結婚の二文字を目前にした聖南がフフッと余裕の笑みを浮かべてバックミラーを見た。


「分かってねぇなぁ、これだから成人したばっかのひよっ子は。 葉璃をイメージしたらあれが最適だったんだよ。 花言葉と見た目、葉璃が手に持った時のバランス、りぼんの色と大きさ、ちゃーんと計算してあんの」
「ハルには確かに似合ってたよ。 うん。 ……セナ、おめでと」
「まぁねー、似合ってたけど。 おめでとう、セナ。 それにしてもヤり過ぎだよね」
「またそこに戻んのかよ」
「ケイタはセナのその話が聞きたいらしいぞ。 今日一日マジでうるさかった」


 出歩けば確実に騒がれてしまうため、観光は断念して恭也を含めた三人で楽しく過ごしていたらしいが、ケイタは聖南と葉璃がどうしているかとソワソワしていて騒々しかったようだ。

 アキラも恭也も「ほっといてやれよ」と内心では思っていても、それを言わせないほどケイタの興味は聖南達にあった。

 ただし今回は葉璃の誕生日で特別な一日だったため、聖南もそう簡単には口を割りたくない。


「何も話さねぇよ、今回は。 普通に昼までヤってたってだけ……」
「昼まで!?! そ、それって何時から!?」
「……何時だろ。 見てねぇけど……夜中」
「夜中なのは分かってんだよ! 何時から何時まで!?」
「ケイタ、ヒートアップし過ぎだって。 なんでそうセナのセックス事情が好物なんだよ」
「すげぇんだもんマジで! 羨ましくて心臓痛いよ!」
「じゃあ聞くのやめとけよ。 心臓発作起こされたら困る。 アキラも止めてる事だし」
「発作起こさねぇから! なぁなぁ、何時間なんだよ! 記録更新しちゃった感じ!?」
「いや、どうだろ。 一回風呂とメシで中断したからな。 トータル……」


 信号待ちに差し掛かり、聖南が昨日の葉璃との行為を思い返して指を折り曲げていく。

 正直時計など気にしていなかったので、ケイタがどれだけ興味津々でも正確には覚えていない。


「よく分かんねぇけど八時間くらいじゃね? 最後の一回はやる気なかったんだけど煽られてさぁ」
「八時間!!?! 記録更新してんじゃん!!」
「何も話さねぇって言ってなかったか、セナ……。 暴露し過ぎだろ」
「マジだ。 もう話さねぇ! ケイタの口車に乗るとこだったわ」
「乗っとけよー! もっと話せ話せ!」
「乗るとこだったって、もう思いっきり乗ってるし……。 この事は絶対にハルにバレませんように……」


 大興奮のケイタの追及は止まらず、苦笑しつつも喜びを隠せない聖南は、ポロポロとコテージに到着してからの流れを一通り話していった。

 身を乗り出して鼻息荒く相槌を打つケイタに対し、アキラは葉璃を思って合掌した。

 こんな兄貴達でごめん───。

 アキラの思いも虚しく、聖南とケイタはキャッキャと思い出の一日の出来事に興奮し、それは空港へ到着しても、飛行機が離陸しても、次のツアー会場である札幌に到着しても、延々続いた。




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