必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 いつもいつも、翌日仕事があるからと妥協して抱いていた葉璃を、目一杯愛せるチャンスなどそうそう無いのだ。

 多少権力を誇示してスケジュールを調整させてもらったが、聖南は何も後悔などしていない。 むしろ、今まで従順に何でもやり過ぎていた。

 これからは葉璃のために生きていくと誓ったのだから、仕事も頑張るけれどやはり最優先なのは葉璃だ。





 シーツにくるんだ葉璃を備え付けの露天風呂へと運んで、温かい湯をかけてやる。

 たっぷり四回中出ししたので、お尻の穴に指を入れてまんべんなく精液を掻き出した。

 脱力した葉璃は大人しく聖南に抱かれたままで、頭からつま先までを綺麗に洗い上げてやる。


「……立てない……」
「ふっ……。 そう言うと思った。 おいで」


 立とうとしても足が震えている葉璃は、生まれたての子鹿のようで何とも愛らしい。


「すげぇ冷えんなぁ。 今って夏だよな?」
「うん、そうだね」


 遠くの山に朝靄のかかる寒々しい景色とひんやりとした冷気は、季節を分からなくさせていた。

 少々熱めの湯がちょうどいい。

 聖南は葉璃を後ろから抱いて湯船につかると、目前に広がる広大な湖を指差した。


「見て、この眺め」
「……う、うわぁぁ……! 綺麗……! キラキラしてますよ!」
「ネット情報も侮れねぇもんだな。 写真以上だ」


 調べたところ、この絶景を拝めるスイートコテージは時期をずらせば穴場だと書いてあったが、あまり期待はしないでおこうと思っていたけれど想像以上だ。

 水面に映るたくさんの木々の色が、本来のものと折り混ざってとても美しい。

 早朝の朝陽によって、澄んだ空気が湖全体を覆い、星が散らばっているかの如く燦々と輝いている。

 まるで、この世には二人しか存在していないのでは、と思わせるほどの静寂も相まって非常に幻想的だった。

 素晴らしい絶景を前に、しばし二人は言葉を失くした。


「……葉璃、愛してるよ」


 首まで湯に浸かった葉璃をギュッと抱き締めると、聖南の腕を掴んで胸に体重を預けてくる。


「好きです……聖南さん」


 聞きたかった言葉が容易く返ってくる幸福に、どうしようもない愛しさが湧き上がってきてたまらない。

 好きで、好きで、大好きで、心の底から愛しているのに、全然伝え足りない。

 この情感が形になるならば、葉璃へありったけの想いを伝えるのに。


「───あ、あるわ」
「え、? な、何が?」


 聖南の謎の一言に、葉璃がゆっくりこちらを向いた。

 ネックレスが湯に漂っている様に笑みを溢すと、首筋に何度も口付けながら「歌だよ」と脈絡もなく続ける。


「歌?」
「俺、ETOILEのプロデューサーになる。 もう一グループやってくれって言われてるけど、俺やりたい」
「あ! さっき言ってたやつですか?」
「そうそう。 ほんとは時期とセールス状況見ての結論がいいんだろうけど、ETOILEが五人体制になるまでは俺がやる」
「や、やるって……。 それはありがたいですけどETOILEのスタッフさんが黙ってないんじゃ……? CROWNのプロデューサーさんも居たし……」
「俺に物言える奴は居ねぇよ」
「………………」


 ETOILEのデビュー曲であるsilentは、聖南が葉璃へ片思いしていた頃作った思い出の一曲だ。

 それが世間に受け入れられるかは、「セナ」という確かな名声と葉璃と恭也の歌唱力、表現力、ルックスによって言わずもがな売れる事は間違いない。

 事務所のETOILEセールスプロモーションも凄まじい熱の入りようで、さらにCROWNの兄弟ユニットとなれば話題性も抜群である。

 二人のレコーディングや編曲作業にも多大に関わっていた聖南は、次のシングルを手掛けるのは誰だと事務所でETOILEのスタッフに会う度にしつこく聞いていたが、自分が曲を上げてしまえば話は早いと踏んだ。

 売れる曲を書くのは難しいけれど、新しいものを生み出す才能ならあると自負しているし、ETOILEのためであれば葉璃を想っていくらでも創造できる気がした。


「来週からsilentの予約受付始まんだろ。 来月からのスケジュールもビッチリなはずだ。 まぁ勝負は三枚目のシングルだろうけど、俺がやれば勝ち確。 俺の想いも乗せられるし、ETOILEも軌道に乗るし、売り上げ上がって事務所もウハウハだし、一石三鳥」
「そ、そんなうまくいきますか……?」
「もちろん! 俺を誰だと思ってんの? CROWNのセナだぞー」
「ふふっ……カッコいいです、CROWNのセナさん」
「もっと言って。 葉璃に褒められるとめちゃくちゃやる気出る」
「あ、急に甘えん坊の聖南さん来た」


 葉璃といると、自分が「CROWNのセナ」である事を忘れそうになってしまう。

 ただの「日向 聖南」として、一人の男として、飾らずに葉璃と接する事が出来るからつい甘えてしまう。

 こんな自分に気付いてしまった以上、葉璃にはたくさん発破をかけてもらわねばならない。

 面倒がらずに褒めてくれる葉璃の頬を背後から撫でて目を細めた。


「……葉璃ちゃん誕生日おめでと」
「ありがとうございます。 今日あと何年分言ってくれるんだろ?」
「今日だけじゃなく毎年一生分言ってやる。 言葉だけじゃ足んねぇけどな」
「……も、もしかしてまだやる気ですかっ?」
「これで終わりのはずねぇだろ。 この絶景堪能したら朝メシ食って再開しようなー♡」
「休憩くださいよ、休憩!」
「分かってるって。 五分くらいジッとしてたらいいんだろ?」
「聖南さん入ったままだと休憩じゃな……!」
「はいはい、抜く時かわいく啼くのやめてくれたら抜いてやるよ」


 声を抑えられないと分かっていての発言に、撫でていた頬がぷぅと膨らんだ。


「……ムーー!」
「キスの催促? かわいー事するなぁ」


 頬が膨れているので、窄んだ唇がツンと聖南を向いて誘惑してくる。

 ちゅっ、と口付けるだけのつもりが葉璃と目が合ってしまって、堪えきれずに舌を挿入した。

 体ごとこちらを向いた葉璃の頬はもう萎んでいるが、キスに夢中だったのは聖南だけではなかったようだ。

 ならば、望みは叶えてやらねば。



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