必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 安易な言葉では片付けられない幾多の才能がありながら、あんなにも自然体で居られるなんて単純に凄い事だと思う。

 番組の回し方、饒舌さ、博学さ、スタッフさんや共演者への気の配り方、どれを取ってもそれは聖南の本質だ。

 聖南は口調が強いから誤解されそうなものなのに、そこは子役時代から培われてきた巧みな話術と人望で、誤想など完璧に与えさせない。

 言葉の端々から滲み出る人の良さが、見た目とのギャップを作りさらに好感度を上げている。

 外見も中身も完璧な、こんな男に愛されている俺はちょっと……贅沢過ぎやしないかな……。


「葉璃ー、おいでー、はーるー」


 バスローブを着崩して半裸を晒す聖南が、ベッドの上で胡座をかいて何度も俺を呼んでいる。

 チラッとバスルームからベッドを覗くと聖南がずっと手招きしていて、それを見た俺はサササッとバスルームに引っ込むというのをもう三回は繰り返してる。

 あのライブを目の当たりにした後だと、聖南の事をまともに直視出来ないでいた。

 今日もダンサーのお兄さん達のリクエストで打ち上げは焼き肉だったから、早々と締めた聖南と共にこの部屋へ返ってきて、二人ですぐにシャワーを浴びて……俺だけがまだこうしてバスルームに残っている。

 髪乾かしたいから、とか何とか言って逃げてるけど、俺はドライヤーの位置も分からないから聖南に嘘だって絶対にバレてる。

 ほんとは、照れくさくてドキドキしてしまって、今さら「CROWNのセナ」の凄さを思い知った俺だ。

 それくらい、聖南はカッコよくて輝いていて、とてもじゃないけど手の届く人じゃないって思ってしまった。

 いつもみたいに、居られるはずがない。


「はーる、なーにしてんの? 髪全然乾いてないけど」
「あっ!?」


 ベッドの上に居たはずの聖南が、バスルームに戻って来てしまった。


「ドライヤーの場所分かんなかったのか? んとな、確かこの引き出し……」


 俺の髪を触った後、大理石で出来たピカピカな引き出しの一番上からドライヤーを取り出している。

 コンセントを探す聖南の背中に、俺は今日一番言いたかった事を思い切って伝えてみる事にした。

 完全に、ファン目線となって。


「せ、聖南さん! ライブ最高でした! めっっっっちゃくちゃカッコ良かったです! さっきはみんなが居たから言えなかったけど…! ほんとにカッコ良かった!」


 ライブ終わりはすぐに成田さんと合流したし、打ち上げ会場である貸し切りの焼き肉店では俺はダンサーのお兄さん達に囲まれてて聖南とはまったく話せていなかった。

 デビュー会見見たよ、と言われてその話題に花が咲いてたから、俺にとっては無下に出来ない会話で。

 聖南はというとスタッフさん達に囲まれて談笑していて、酒を勧められて断ってる姿を遠くから眺める事しか出来なかったから感想を言うチャンスも無かった。


「ん? あぁ……ありがと。 ……今日は葉璃のためにやったよ。 でもさ、控え室で待ってたのに来てくんなかったじゃん。 ライブ前後に葉璃と会えなかったのは寂しかったなぁ」


 カチッとドライヤーのスイッチを押した聖南が、俺の髪を乾かし始めた。

 音で聞こえないかな、と思って返事はしないでいたけど、思いがけず嬉しい事を言ってくれてほっぺたが熱くなる。

 昨日の聖南の凄まじいテンションを誰かに見られる事を避けたかったらしい成田さんの計らいだったんだから、仕方ないもん……。

 たとえ控え室に激励に行ったとしても、俺は多分モジモジしたまま何も話せなかったかもしれないな……と苦笑して顔を上げると、鏡越しで聖南と視線が合う。

 その視線から、ステージ上で聖南に手銃された時の映像が呼び起こされて慌てて俯いた。

 反則なくらいカッコいい。

 甘えん坊だった昨日の面影なんかどこにも無かったから、それがまた無性に神経を昂ぶらせた。


「そ、それは成田さんから言われてて……」
「待ってたのに。 ギューッてしたかったのに」
「うっ……聖南さん……」


 ドライヤーの熱でふわふわになった俺の髪に鼻を埋めてきて、さらには背後から抱き締められた。

 ど、どうしよう……!

 俺、CROWNのセナに抱き締められてる…!!


「おいで、ベッド行こ」
「………………」


 恋人繋ぎで手を引かれた俺はすごく顔が熱くて、まさかドライヤーの熱なんかでのぼせたのかと思った。

 たぶん俺、いま全身真っ赤なんじゃないかな……?


「今日席離れてたから葉璃のもぐもぐあんま見れてねぇなぁ。 明日の朝は早起きして一緒に食べような?」
「………………」
「葉璃? どしたんだよ。 はるちゃーん? シャワーでのぼせた?」


 ───違う。 俺、聖南にのぼせてる。


「あ、あの……あんま見ないでください……」
「なんでよ。 やっと二人っきりになれたのにそんな事言うなよ」
「だって俺今めっちゃ乙女なんです……! 気持ち悪いと思うんで見ないでくださいっ」


 ベッドに腰掛けて両手で顔を覆った俺を、聖南がミネラルウォーターを持ち出してきながら不思議そうに見下ろしてくる。

 風呂上がりに半裸で水を飲む姿は何だか……CMでも見てるみたいだ。


「乙女? 何それ? ……あぁ、もしかして、ライブ堪能してくれたんだ?」
「はい…………堪能し過ぎて心臓がどうにかなりそうです。 ……今俺の前にCROWNのセナが居るって思ったらもう……!」
「えー♡ 何だよそれ! めちゃくちゃかわいーんだけど! 俺カッコ良かった? 葉璃がそんな乙女になるくらいカッコ良く見えた?」


 聖南は分かりやすく喜んで、膝を付いて俺の両手を握った。

 顔を覆っていた両手を握られてしまったから、自然と視線がぶつかって思いっきり照れてしまう。

 こうして見るといつもと変わらない聖南なのに、何でだろう……照れてしょうがない。


「…………うん……」
「よっしゃあ! 明日はもっとカッコ良く見えててほしい!」


 緊張とは違う何かが心をドキドキさせていて、頭から湯気が出そうだと思いながらじわっと頷くと、立ち上がった聖南がガッツポーズをして満面の笑みを向けてきた。

 無邪気な反応と、チラと覗く八重歯がなんとも言えず可愛い。



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