426 / 541
59❥
59❥
しおりを挟む
─聖南─
遡る事数時間前、緊張しきりだった二人と電話を終えてテレビの前で腕を組んだ三人は、時計の針が進むごとに言葉数が少なくなっていた。
独占放送権を得たテレビ局にて、お昼のワイドショーの流れで十六時からETOILEのデビュー会見が生中継される。
会見自体は三十分もないらしいので、二人は最後の質疑応答だけを乗り切れば、あとは事務所の広報担当が紹介なり説明なりを担ってくれるはずだ。
「恭也は大丈夫そうだったけど……ハル君は気絶しちゃいそうで心配だなぁ」
「久しぶりだったよな、あんなガチガチなハル。 手に人って書いて飲むやつ、すごい勢いだったらしいじゃん」
ケイタは苦笑し、アキラは僅かに目線を下げて落ち着かないのか何度も溜め息を吐く。
聖南も心配でしょうがなく、先程から立ったり座ったりを繰り返していた。
そしてふと思い出す。
「…………じゃがいも作戦で頑張れって言うの忘れたな……」
「何? じゃがいも作戦?」
「何だその美味そうな作戦」
意味不明な聖南の独り言に、二人ともが食い付いた。
右隣に居る二人に身を乗り出すと、聖南はとても真剣な表情でじゃがいも作戦について説明する。
「年末のパーティーで葉璃と恭也のお披露目やったじゃん。 あの時もめちゃくちゃ緊張してたから、会場に居る奴ら全員じゃがいもだと思えって言ったんだよ」
「それ無理があるだろ」
「あの時のハル君も相当緊張してたもんね~! 自分から、緊張で足が震えてるって言ってたし」
「そうなんだよ。 けど、壇上から戻ってきたら「じゃがいもに見えませんでした」って泣きべそかいてた」
「じゃがいも作戦失敗してるじゃん」
「今のハルにその作戦言ったところで無意味だろ。 じゃがいもに見えなかったんだから」
「今回は効き目あるかもじゃん? 分かんねぇけど。 ……俺さぁ、これだけは気持ち分かってやれねぇからな~どうしたもんか」
幼い頃から人前に出ているせいか、はたまた持って生まれたものなのかは定かではないが、聖南は緊張などほとんどしない。
事あるごとに半泣きで手のひらをイジイジする葉璃を可愛いなと思いはしても、気持ちを理解してやるには至れず歯痒かった。
電話越しで葉璃から「聖南さん…」と寂しそうに名を呼ばれた時は、デビュー会見とCROWNのライブ日程を被らせた広報に怒りすら湧いた。
CROWNのバックアップならば、聖南達が傍に居てやらなくてどうする。
そう思いはしても、ETOILE単体としてのデビューだからと社長直々に会見場へのCROWNの立ち入りを許されなかったから、たとえライブと被っていなくても間近で支えてやる事は出来なかった。
ならば逆にこうして離れていた方が良かったのかもしれない。
それでもデビュー会見日を決めた広報には、相変わらずイラッとはしている。
「まぁでも、心配しなくても恭也が落ち着かせてくれたんじゃない? ハル君、異様なくらい恭也に懐いてるもんね」
壁掛けのデジタル時計を見やると、会見一分前となっていた。
ケイタにそう言われて、葉璃と恭也がひっしと抱き合う姿が目に浮かんで苦笑してしまう。
代わりに抱き締めてやってくれと言ったのは聖南自身のはずなのに、時折交わされる二人の熱い視線を思い出すと心が落ち着かない。
「……たまに俺でも妬くくらいな」
「恭也にもハルにも恋愛感情無さそうなんだから妬くなよ。 ハルから恭也取り上げたらそれこそ嫌われるぞ」
「分かってるって。 恭也は恋愛感情が無い俺みたいな感じじゃねぇかな。 だから抱き締めんのも許した」
「セナがそれを許したってのがビックリだったけどね~……あ、始まるよ」
テレビからフラッシュをたく無数の音が届いてきて、まずは事務所の広報担当者が二名会見場へと入室した。
続けて恭也と葉璃が会見場に現れるとさらにフラッシュの光が倍増された。
「恭也はいつも通りだけど……ハル君倒れそうだ」
「………………」
恭也に寄り添うようにして長机の奥に立つ葉璃は、誰が見ても緊張しているのが丸分かりである。
『皆さま、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。 我が大塚芸能事務所より、CROWN以来八年ぶりとなるボーカルダンスユニットのデビューが決定いたしました。 ユニット名は、ETOILEです。 よろしくお願い致します』
広報担当者が司会者席でそう挨拶をすると、恭也と葉璃は十秒ほどたっぷりと礼をした。
そして二人に自己紹介を求めると、ピクッと葉璃の体が揺れたのを聖南は見逃さない。
彼らの紹介も広報がやってくれるのかと思ったら、自己紹介形式だったとは知らずさらに緊張感を募らせる。
───喜ばしい日なんだけどなぁ……。 あんな状態の葉璃を見てると、早く終わらせてやれよって思っちまう俺はダメな彼氏だな……。
ただ、ここには過保護な兄貴役が聖南の他にあと二名もいる。
アキラとケイタもとても難しい顔をしていて、葉璃の緊張感漂う強張った表情を黙って見詰めていた。
『宮下恭也、十七歳です。 大塚芸能事務所の先輩方から、日々色んな事を吸収させて頂いています。 吸収したすべての事をうまく活かせるように、これから精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します』
落ち着いて挨拶をした恭也は、マイクを握る手も顔付きも去年とは雲泥の差だ。
葉璃も色々と変化はあったが、恭也はそれ以上に変化が著しい。
緊張しぃであがり症な葉璃に代わって、様々な場面で訓練してきた賜だった。
凛としたその大人びた恭也へ無数のフラッシュ音が鳴り止まない。
遡る事数時間前、緊張しきりだった二人と電話を終えてテレビの前で腕を組んだ三人は、時計の針が進むごとに言葉数が少なくなっていた。
独占放送権を得たテレビ局にて、お昼のワイドショーの流れで十六時からETOILEのデビュー会見が生中継される。
会見自体は三十分もないらしいので、二人は最後の質疑応答だけを乗り切れば、あとは事務所の広報担当が紹介なり説明なりを担ってくれるはずだ。
「恭也は大丈夫そうだったけど……ハル君は気絶しちゃいそうで心配だなぁ」
「久しぶりだったよな、あんなガチガチなハル。 手に人って書いて飲むやつ、すごい勢いだったらしいじゃん」
ケイタは苦笑し、アキラは僅かに目線を下げて落ち着かないのか何度も溜め息を吐く。
聖南も心配でしょうがなく、先程から立ったり座ったりを繰り返していた。
そしてふと思い出す。
「…………じゃがいも作戦で頑張れって言うの忘れたな……」
「何? じゃがいも作戦?」
「何だその美味そうな作戦」
意味不明な聖南の独り言に、二人ともが食い付いた。
右隣に居る二人に身を乗り出すと、聖南はとても真剣な表情でじゃがいも作戦について説明する。
「年末のパーティーで葉璃と恭也のお披露目やったじゃん。 あの時もめちゃくちゃ緊張してたから、会場に居る奴ら全員じゃがいもだと思えって言ったんだよ」
「それ無理があるだろ」
「あの時のハル君も相当緊張してたもんね~! 自分から、緊張で足が震えてるって言ってたし」
「そうなんだよ。 けど、壇上から戻ってきたら「じゃがいもに見えませんでした」って泣きべそかいてた」
「じゃがいも作戦失敗してるじゃん」
「今のハルにその作戦言ったところで無意味だろ。 じゃがいもに見えなかったんだから」
「今回は効き目あるかもじゃん? 分かんねぇけど。 ……俺さぁ、これだけは気持ち分かってやれねぇからな~どうしたもんか」
幼い頃から人前に出ているせいか、はたまた持って生まれたものなのかは定かではないが、聖南は緊張などほとんどしない。
事あるごとに半泣きで手のひらをイジイジする葉璃を可愛いなと思いはしても、気持ちを理解してやるには至れず歯痒かった。
電話越しで葉璃から「聖南さん…」と寂しそうに名を呼ばれた時は、デビュー会見とCROWNのライブ日程を被らせた広報に怒りすら湧いた。
CROWNのバックアップならば、聖南達が傍に居てやらなくてどうする。
そう思いはしても、ETOILE単体としてのデビューだからと社長直々に会見場へのCROWNの立ち入りを許されなかったから、たとえライブと被っていなくても間近で支えてやる事は出来なかった。
ならば逆にこうして離れていた方が良かったのかもしれない。
それでもデビュー会見日を決めた広報には、相変わらずイラッとはしている。
「まぁでも、心配しなくても恭也が落ち着かせてくれたんじゃない? ハル君、異様なくらい恭也に懐いてるもんね」
壁掛けのデジタル時計を見やると、会見一分前となっていた。
ケイタにそう言われて、葉璃と恭也がひっしと抱き合う姿が目に浮かんで苦笑してしまう。
代わりに抱き締めてやってくれと言ったのは聖南自身のはずなのに、時折交わされる二人の熱い視線を思い出すと心が落ち着かない。
「……たまに俺でも妬くくらいな」
「恭也にもハルにも恋愛感情無さそうなんだから妬くなよ。 ハルから恭也取り上げたらそれこそ嫌われるぞ」
「分かってるって。 恭也は恋愛感情が無い俺みたいな感じじゃねぇかな。 だから抱き締めんのも許した」
「セナがそれを許したってのがビックリだったけどね~……あ、始まるよ」
テレビからフラッシュをたく無数の音が届いてきて、まずは事務所の広報担当者が二名会見場へと入室した。
続けて恭也と葉璃が会見場に現れるとさらにフラッシュの光が倍増された。
「恭也はいつも通りだけど……ハル君倒れそうだ」
「………………」
恭也に寄り添うようにして長机の奥に立つ葉璃は、誰が見ても緊張しているのが丸分かりである。
『皆さま、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。 我が大塚芸能事務所より、CROWN以来八年ぶりとなるボーカルダンスユニットのデビューが決定いたしました。 ユニット名は、ETOILEです。 よろしくお願い致します』
広報担当者が司会者席でそう挨拶をすると、恭也と葉璃は十秒ほどたっぷりと礼をした。
そして二人に自己紹介を求めると、ピクッと葉璃の体が揺れたのを聖南は見逃さない。
彼らの紹介も広報がやってくれるのかと思ったら、自己紹介形式だったとは知らずさらに緊張感を募らせる。
───喜ばしい日なんだけどなぁ……。 あんな状態の葉璃を見てると、早く終わらせてやれよって思っちまう俺はダメな彼氏だな……。
ただ、ここには過保護な兄貴役が聖南の他にあと二名もいる。
アキラとケイタもとても難しい顔をしていて、葉璃の緊張感漂う強張った表情を黙って見詰めていた。
『宮下恭也、十七歳です。 大塚芸能事務所の先輩方から、日々色んな事を吸収させて頂いています。 吸収したすべての事をうまく活かせるように、これから精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します』
落ち着いて挨拶をした恭也は、マイクを握る手も顔付きも去年とは雲泥の差だ。
葉璃も色々と変化はあったが、恭也はそれ以上に変化が著しい。
緊張しぃであがり症な葉璃に代わって、様々な場面で訓練してきた賜だった。
凛としたその大人びた恭也へ無数のフラッシュ音が鳴り止まない。
13
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
本編完結しました!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました!
おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる