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─聖南─
遡る事数時間前、緊張しきりだった二人と電話を終えてテレビの前で腕を組んだ三人は、時計の針が進むごとに言葉数が少なくなっていた。
独占放送権を得たテレビ局にて、お昼のワイドショーの流れで十六時からETOILEのデビュー会見が生中継される。
会見自体は三十分もないらしいので、二人は最後の質疑応答だけを乗り切れば、あとは事務所の広報担当が紹介なり説明なりを担ってくれるはずだ。
「恭也は大丈夫そうだったけど……ハル君は気絶しちゃいそうで心配だなぁ」
「久しぶりだったよな、あんなガチガチなハル。 手に人って書いて飲むやつ、すごい勢いだったらしいじゃん」
ケイタは苦笑し、アキラは僅かに目線を下げて落ち着かないのか何度も溜め息を吐く。
聖南も心配でしょうがなく、先程から立ったり座ったりを繰り返していた。
そしてふと思い出す。
「…………じゃがいも作戦で頑張れって言うの忘れたな……」
「何? じゃがいも作戦?」
「何だその美味そうな作戦」
意味不明な聖南の独り言に、二人ともが食い付いた。
右隣に居る二人に身を乗り出すと、聖南はとても真剣な表情でじゃがいも作戦について説明する。
「年末のパーティーで葉璃と恭也のお披露目やったじゃん。 あの時もめちゃくちゃ緊張してたから、会場に居る奴ら全員じゃがいもだと思えって言ったんだよ」
「それ無理があるだろ」
「あの時のハル君も相当緊張してたもんね~! 自分から、緊張で足が震えてるって言ってたし」
「そうなんだよ。 けど、壇上から戻ってきたら「じゃがいもに見えませんでした」って泣きべそかいてた」
「じゃがいも作戦失敗してるじゃん」
「今のハルにその作戦言ったところで無意味だろ。 じゃがいもに見えなかったんだから」
「今回は効き目あるかもじゃん? 分かんねぇけど。 ……俺さぁ、これだけは気持ち分かってやれねぇからな~どうしたもんか」
幼い頃から人前に出ているせいか、はたまた持って生まれたものなのかは定かではないが、聖南は緊張などほとんどしない。
事あるごとに半泣きで手のひらをイジイジする葉璃を可愛いなと思いはしても、気持ちを理解してやるには至れず歯痒かった。
電話越しで葉璃から「聖南さん…」と寂しそうに名を呼ばれた時は、デビュー会見とCROWNのライブ日程を被らせた広報に怒りすら湧いた。
CROWNのバックアップならば、聖南達が傍に居てやらなくてどうする。
そう思いはしても、ETOILE単体としてのデビューだからと社長直々に会見場へのCROWNの立ち入りを許されなかったから、たとえライブと被っていなくても間近で支えてやる事は出来なかった。
ならば逆にこうして離れていた方が良かったのかもしれない。
それでもデビュー会見日を決めた広報には、相変わらずイラッとはしている。
「まぁでも、心配しなくても恭也が落ち着かせてくれたんじゃない? ハル君、異様なくらい恭也に懐いてるもんね」
壁掛けのデジタル時計を見やると、会見一分前となっていた。
ケイタにそう言われて、葉璃と恭也がひっしと抱き合う姿が目に浮かんで苦笑してしまう。
代わりに抱き締めてやってくれと言ったのは聖南自身のはずなのに、時折交わされる二人の熱い視線を思い出すと心が落ち着かない。
「……たまに俺でも妬くくらいな」
「恭也にもハルにも恋愛感情無さそうなんだから妬くなよ。 ハルから恭也取り上げたらそれこそ嫌われるぞ」
「分かってるって。 恭也は恋愛感情が無い俺みたいな感じじゃねぇかな。 だから抱き締めんのも許した」
「セナがそれを許したってのがビックリだったけどね~……あ、始まるよ」
テレビからフラッシュをたく無数の音が届いてきて、まずは事務所の広報担当者が二名会見場へと入室した。
続けて恭也と葉璃が会見場に現れるとさらにフラッシュの光が倍増された。
「恭也はいつも通りだけど……ハル君倒れそうだ」
「………………」
恭也に寄り添うようにして長机の奥に立つ葉璃は、誰が見ても緊張しているのが丸分かりである。
『皆さま、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。 我が大塚芸能事務所より、CROWN以来八年ぶりとなるボーカルダンスユニットのデビューが決定いたしました。 ユニット名は、ETOILEです。 よろしくお願い致します』
広報担当者が司会者席でそう挨拶をすると、恭也と葉璃は十秒ほどたっぷりと礼をした。
そして二人に自己紹介を求めると、ピクッと葉璃の体が揺れたのを聖南は見逃さない。
彼らの紹介も広報がやってくれるのかと思ったら、自己紹介形式だったとは知らずさらに緊張感を募らせる。
───喜ばしい日なんだけどなぁ……。 あんな状態の葉璃を見てると、早く終わらせてやれよって思っちまう俺はダメな彼氏だな……。
ただ、ここには過保護な兄貴役が聖南の他にあと二名もいる。
アキラとケイタもとても難しい顔をしていて、葉璃の緊張感漂う強張った表情を黙って見詰めていた。
『宮下恭也、十七歳です。 大塚芸能事務所の先輩方から、日々色んな事を吸収させて頂いています。 吸収したすべての事をうまく活かせるように、これから精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します』
落ち着いて挨拶をした恭也は、マイクを握る手も顔付きも去年とは雲泥の差だ。
葉璃も色々と変化はあったが、恭也はそれ以上に変化が著しい。
緊張しぃであがり症な葉璃に代わって、様々な場面で訓練してきた賜だった。
凛としたその大人びた恭也へ無数のフラッシュ音が鳴り止まない。
遡る事数時間前、緊張しきりだった二人と電話を終えてテレビの前で腕を組んだ三人は、時計の針が進むごとに言葉数が少なくなっていた。
独占放送権を得たテレビ局にて、お昼のワイドショーの流れで十六時からETOILEのデビュー会見が生中継される。
会見自体は三十分もないらしいので、二人は最後の質疑応答だけを乗り切れば、あとは事務所の広報担当が紹介なり説明なりを担ってくれるはずだ。
「恭也は大丈夫そうだったけど……ハル君は気絶しちゃいそうで心配だなぁ」
「久しぶりだったよな、あんなガチガチなハル。 手に人って書いて飲むやつ、すごい勢いだったらしいじゃん」
ケイタは苦笑し、アキラは僅かに目線を下げて落ち着かないのか何度も溜め息を吐く。
聖南も心配でしょうがなく、先程から立ったり座ったりを繰り返していた。
そしてふと思い出す。
「…………じゃがいも作戦で頑張れって言うの忘れたな……」
「何? じゃがいも作戦?」
「何だその美味そうな作戦」
意味不明な聖南の独り言に、二人ともが食い付いた。
右隣に居る二人に身を乗り出すと、聖南はとても真剣な表情でじゃがいも作戦について説明する。
「年末のパーティーで葉璃と恭也のお披露目やったじゃん。 あの時もめちゃくちゃ緊張してたから、会場に居る奴ら全員じゃがいもだと思えって言ったんだよ」
「それ無理があるだろ」
「あの時のハル君も相当緊張してたもんね~! 自分から、緊張で足が震えてるって言ってたし」
「そうなんだよ。 けど、壇上から戻ってきたら「じゃがいもに見えませんでした」って泣きべそかいてた」
「じゃがいも作戦失敗してるじゃん」
「今のハルにその作戦言ったところで無意味だろ。 じゃがいもに見えなかったんだから」
「今回は効き目あるかもじゃん? 分かんねぇけど。 ……俺さぁ、これだけは気持ち分かってやれねぇからな~どうしたもんか」
幼い頃から人前に出ているせいか、はたまた持って生まれたものなのかは定かではないが、聖南は緊張などほとんどしない。
事あるごとに半泣きで手のひらをイジイジする葉璃を可愛いなと思いはしても、気持ちを理解してやるには至れず歯痒かった。
電話越しで葉璃から「聖南さん…」と寂しそうに名を呼ばれた時は、デビュー会見とCROWNのライブ日程を被らせた広報に怒りすら湧いた。
CROWNのバックアップならば、聖南達が傍に居てやらなくてどうする。
そう思いはしても、ETOILE単体としてのデビューだからと社長直々に会見場へのCROWNの立ち入りを許されなかったから、たとえライブと被っていなくても間近で支えてやる事は出来なかった。
ならば逆にこうして離れていた方が良かったのかもしれない。
それでもデビュー会見日を決めた広報には、相変わらずイラッとはしている。
「まぁでも、心配しなくても恭也が落ち着かせてくれたんじゃない? ハル君、異様なくらい恭也に懐いてるもんね」
壁掛けのデジタル時計を見やると、会見一分前となっていた。
ケイタにそう言われて、葉璃と恭也がひっしと抱き合う姿が目に浮かんで苦笑してしまう。
代わりに抱き締めてやってくれと言ったのは聖南自身のはずなのに、時折交わされる二人の熱い視線を思い出すと心が落ち着かない。
「……たまに俺でも妬くくらいな」
「恭也にもハルにも恋愛感情無さそうなんだから妬くなよ。 ハルから恭也取り上げたらそれこそ嫌われるぞ」
「分かってるって。 恭也は恋愛感情が無い俺みたいな感じじゃねぇかな。 だから抱き締めんのも許した」
「セナがそれを許したってのがビックリだったけどね~……あ、始まるよ」
テレビからフラッシュをたく無数の音が届いてきて、まずは事務所の広報担当者が二名会見場へと入室した。
続けて恭也と葉璃が会見場に現れるとさらにフラッシュの光が倍増された。
「恭也はいつも通りだけど……ハル君倒れそうだ」
「………………」
恭也に寄り添うようにして長机の奥に立つ葉璃は、誰が見ても緊張しているのが丸分かりである。
『皆さま、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。 我が大塚芸能事務所より、CROWN以来八年ぶりとなるボーカルダンスユニットのデビューが決定いたしました。 ユニット名は、ETOILEです。 よろしくお願い致します』
広報担当者が司会者席でそう挨拶をすると、恭也と葉璃は十秒ほどたっぷりと礼をした。
そして二人に自己紹介を求めると、ピクッと葉璃の体が揺れたのを聖南は見逃さない。
彼らの紹介も広報がやってくれるのかと思ったら、自己紹介形式だったとは知らずさらに緊張感を募らせる。
───喜ばしい日なんだけどなぁ……。 あんな状態の葉璃を見てると、早く終わらせてやれよって思っちまう俺はダメな彼氏だな……。
ただ、ここには過保護な兄貴役が聖南の他にあと二名もいる。
アキラとケイタもとても難しい顔をしていて、葉璃の緊張感漂う強張った表情を黙って見詰めていた。
『宮下恭也、十七歳です。 大塚芸能事務所の先輩方から、日々色んな事を吸収させて頂いています。 吸収したすべての事をうまく活かせるように、これから精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します』
落ち着いて挨拶をした恭也は、マイクを握る手も顔付きも去年とは雲泥の差だ。
葉璃も色々と変化はあったが、恭也はそれ以上に変化が著しい。
緊張しぃであがり症な葉璃に代わって、様々な場面で訓練してきた賜だった。
凛としたその大人びた恭也へ無数のフラッシュ音が鳴り止まない。
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