必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 ───最後の質問しか覚えてない。


『今後の目標は?』
「僕達はまだ新人ですから、目の前の事を精一杯やり遂げるのみです。 目標は今の所、高みは望まない、という事です。  まずはこの世界の事を知る必要がありますから」


 恭也が凛とそう受け答えしてくれた横で、俺はどこを見てたかもちょっと思い出せない。

 とにかく人がたくさん居て、奥にはズラリとテレビカメラが並んでて俺達を狙っていた。

 そしてすぐそばでは、目が開けられないくらいフラッシュをたかれた。

 矢継ぎ早な質問には広報の人が素早く対応してくれて、俺は絶えず光るフラッシュに何度も瞬きを繰り返していたらいつの間にか控え室に戻って来ている。

 最後五分間の俺達への質疑応答は、テレビでよく見る、囲み取材?みたいな感じだったかな。

 数人のレポーターが俺達の傍までやって来て、色々何か喋ってたけど……聖南が言ってた通り瞬きしてたら終わっていた。

 会見中はどうにか意識を飛ばしてないつもりだったのに、今思い出そうとしてもダメだからそれはもう気絶してたのと一緒だ…。


「葉璃、お疲れ様。  よく頑張ったね」


 パイプ椅子に腰掛けて抜け殻になってる俺の頭を、恭也が優しい笑顔で撫でてくれた。

 広報の人も、偉い人も、さっきまでこの部屋に居て何か話してたんだけどな……いつの間に居なくなっちゃったんだろ。


「お疲れさま……。  ごめん、恭也……。  ぜんぶ任せてしまった……」
「え?  全部じゃないよ?  葉璃も、ちゃんと喋ってたよ?」
「え!?  う、嘘…!  俺、何か変な事言ってなかった!?  わぁぁ、どうしよう、全然覚えてないよーーっ」


 そんな記憶これっぽっちもないよ!

 誰にどんな質問をされて、何て返したのかまるで覚えてないなんて……怖過ぎる。


「ぷっ……変な事って何?  緊張してたけど、挨拶もきちんと、してたし。  これだったら安心かなって、俺は思ったよ。  フォローの必要、ないかもね」
「やだやだやだやだ!  無理だよっ、覚えてないのにどうやってこれから乗り切れば…!」
「葉璃、もう会見は終わったんだから、そんなに慌てないで。  …ETOILEが、世間に公表されたよ、葉璃。  ついに始まったね」


 会見中も終始落ち着いてた恭也は、今もまったく「緊張」を感じさせない。

 俺達はとてもよく似た二人だったのに、身長だけじゃなく中身までデコボココンビになりつつある。

 同い年なはずの恭也が優しいお兄ちゃんと化していて、これから先のキラキラな世界に胸をワクワクさせてるみたいに、笑顔を向けてくれた。

 ───そうだ。  もうどんな事があっても泣き言は許されない、俺と恭也のETOILEがほんとに始動し始めたんだ。


「……始まった、……うん、始まった……」


 まだどこか絵空事のような気持ちで居たけど、会見場に集まってくれていたたくさんのテレビカメラと記者さん達、眩しいほどのフラッシュに包まれた事で嫌でも実感させられた。

 恭也と視線を合わせていると、マネージャーの林さんが興奮気味に控え室へと入って来た。


「お疲れ様、恭也君、葉璃君!  二人とも初々しくてとても良かったって評判だ!  俺も今から楽しみでしょうがないよ~!」
「林さん、色々、ありがとうございます。  これからも、よろしくお願いします」
「……林さん……っ」
「二人のこれまでの頑張り、絶対に俺が一番見てきてるから!  俺まだペーペーだから何の力もないけど、二人と一緒に成長できたらって思ってる!!  …すごく今感動してるから目茶苦茶な事言ってたらごめん!」


 新卒で新入社員として入ってきた林さんは、事務所内での仕事を覚えながら俺達のマネージャーになっちゃったから、大変な思いもいくつもあったと思う。

 俺はまだ社会に出た事がないから分からないけど、新入社員って、同期とか上司とかの付き合い方を学ぶ中で成長していくものだと勝手に想像してた。

 こんなに大興奮で「一緒に成長できたら」なんて言われたら、もらい泣きしちゃいそうだ。


「……林さん、泣かないで下さい。  葉璃も、泣いちゃいます」
「ごめん!!  でも本当に感動してるんだ!  去年初めて君達と対面した時の事を思い出してね……。  あの時、この子達がデビュー?  大丈夫?って思ってしまったのは謝らないといけない。  こんなに未来の明るい子達に成長するなんて誰が思ったよ!  毎日毎日、学校と両立してレッスンに励んでいたから、それが着実に身になってる!  今日の会見にすべてが表れてた!」
「……俺はあんまり覚えてないから褒めないで下さいね……」
「何言ってるんだよ!  それが葉璃君の個性だろ?  恭也がドッシリしてるから二人はちょうどいいバランスだ!  ……そ、その……強力過ぎるバックアップも付いてるし……!」
「強力過ぎるバックアップ?  ……CROWNの事ですか?」
「……あ、そうだ。  葉璃、この間の社長室での出来事で、林さんも葉璃とセナさんの事、知っちゃったからね」
「え……?  えぇぇぇっっ!?!?」


 やっぱりあの時、林さんにもバレちゃってたんだ……!!

 ……いや、あれはバレない方がおかしいよね……。


「どんな事があっても世間に漏らすなって社長にキツく言われてるから、心配しないでね。  何回もセナさんと葉璃君が二人で居る姿見てたから、やっと納得できたよ」
「そ、そうでしたね……」


 林さんの目の前で二度も聖南に拉致された事から、変に思われてないかなって心配してたけど……林さんの中でも「?」状態だったに違いない。


「あの……俺と聖南さんの事、理解しにくいとは思うんですけど仕事はちゃんとがんばりますから、見逃して下さい……出来れば否定的な気持ち持たないでほしいです……」
「最初は驚いたけど、否定的な気持ちなんか持たないから安心して。  あのセナさんが相手だと何でも正解に見えてくるから不思議だよね。  あ、そうそう……はい、これ。  そのセナさんが君達に渡してくれって」


 林さんの涙はいつの間にか引っ込んでて、聖南から頼まれたと言う茶封筒を俺と恭也にそれぞれ手渡した。



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